1 / 18
鉱山からの帰還
しおりを挟む
何だか懐かしい夢を見たような気がした。鉱山に連れてこられてからはいつも泥のように眠り、夢なんて見ていないというのに。
鉱山に来てからは目覚める度に、もしかして今までのことは夢なんじゃないか、と期待していたけれど、そんなことは勿論ない。
全ては自分の選択の結果であり、覆すことなどは到底無理なのだ。
今日も怒鳴られる前に起きようとして、背中の感触に飛び退いた。いつもの固いベッドではない。沈み込むような柔らかさ、そうまるで没落する前の自分の邸のベッドのように……
「ヘルマン様、今日は自力で起きられたのですね。」
侍女のララを見て、言葉をなくしたのは彼女が、あの時自分を庇って死んだララが生きていることに驚いたからだ。
「ララ、君、生きていたんだね。」
「あらあら、怖い夢でも見られたのですか?」
涙ぐむヘルマンの背中を撫でて、ララは屈託ない笑顔を見せる。そこでふと我に帰って鏡の中の自分に目を遣ると、予想通り、今の自分は鉱山にいた頃より若返っていた。
どういうことだ?夢の中なのか?
そうなのだとしても、ヘルマンにすればララと再会できたのはありがたいことだった。ずっと後悔していたのだ。自分を庇って死んだ彼女を、あんな風に見殺しにしたことに。
「ララ、ごめんね。」
「そんなに怖い夢だったのですか?」
夢が覚める前に、あのことを謝ろうとするも、うまく言葉にならなくて、謝罪が短くなってしまう。ララは笑いながら、朝の準備を手伝ってくれる。
何気ない日常が幸せなのだと、今ならわかる。鉱山の辛い日々を知っているから余計にそう思う。せめて夢の中では皆に優しくあろうとヘルマンは決意したが、夢は覚めることはなかった。
何日か経ち、漸くこれが夢ではなく、現実のことだと理解したのは、前と同じことがヘルマンの身に起こってからだ。
サワラン公爵家からの婚約の打診。
これを前のヘルマンは公爵令嬢との婚約だと思い込んだのだ。実際には公爵の親戚の伯爵令嬢との婚約だったのだが。サワラン公爵令嬢と期待してからの落差でヘルマンはお相手のブルーリ伯爵令嬢に横柄な態度を取った。
伯爵令嬢が、サワラン公爵令嬢よりも、好きなタイプだったにも関わらず。
あの時、何故あんな態度を取ってしまったかわからない。照れ隠しと言え酷い言葉を投げつけた気がする。控えめな可愛らしい令嬢だった。
マリー・ブルーリ伯爵令嬢は、前と同じようにその場にいた。だけど、今回は前とは違う。彼女はブルーリ伯爵令嬢ではなく、マリー・サワラン公爵令嬢として、ヘルマンの前に現れたのである。
今になって顔をまじまじとみれば、公爵とマリーはよく似ていた。前のサワラン公爵令嬢は夫人の方にはよく似ていたが、公爵とは似た部分がなかった。
マリーは前とは違う高貴な雰囲気を身に纏わせながら可愛い顔を綻ばせて、完璧な挨拶をした。
前はまだ辿々しい感じで、初々しかったのに。前の時は一緒にいたベアトリス様は今日はいないようだ。
「マリーが心配だから、一緒に来たの。」と言っていたから、ベアトリス嬢も来るかと思っていたのに。
ヘルマンはベアトリスがいなくても、特に不都合は感じなかった。前の時はベアトリス嬢が話を独占していて、マリーとの会話はあまりできなかったように思う。
マリーはあの日から随分と変わっていたが、可愛らしさはそのままで、それが一層ヘルマンの胸を締め付けた。
鉱山に来てからは目覚める度に、もしかして今までのことは夢なんじゃないか、と期待していたけれど、そんなことは勿論ない。
全ては自分の選択の結果であり、覆すことなどは到底無理なのだ。
今日も怒鳴られる前に起きようとして、背中の感触に飛び退いた。いつもの固いベッドではない。沈み込むような柔らかさ、そうまるで没落する前の自分の邸のベッドのように……
「ヘルマン様、今日は自力で起きられたのですね。」
侍女のララを見て、言葉をなくしたのは彼女が、あの時自分を庇って死んだララが生きていることに驚いたからだ。
「ララ、君、生きていたんだね。」
「あらあら、怖い夢でも見られたのですか?」
涙ぐむヘルマンの背中を撫でて、ララは屈託ない笑顔を見せる。そこでふと我に帰って鏡の中の自分に目を遣ると、予想通り、今の自分は鉱山にいた頃より若返っていた。
どういうことだ?夢の中なのか?
そうなのだとしても、ヘルマンにすればララと再会できたのはありがたいことだった。ずっと後悔していたのだ。自分を庇って死んだ彼女を、あんな風に見殺しにしたことに。
「ララ、ごめんね。」
「そんなに怖い夢だったのですか?」
夢が覚める前に、あのことを謝ろうとするも、うまく言葉にならなくて、謝罪が短くなってしまう。ララは笑いながら、朝の準備を手伝ってくれる。
何気ない日常が幸せなのだと、今ならわかる。鉱山の辛い日々を知っているから余計にそう思う。せめて夢の中では皆に優しくあろうとヘルマンは決意したが、夢は覚めることはなかった。
何日か経ち、漸くこれが夢ではなく、現実のことだと理解したのは、前と同じことがヘルマンの身に起こってからだ。
サワラン公爵家からの婚約の打診。
これを前のヘルマンは公爵令嬢との婚約だと思い込んだのだ。実際には公爵の親戚の伯爵令嬢との婚約だったのだが。サワラン公爵令嬢と期待してからの落差でヘルマンはお相手のブルーリ伯爵令嬢に横柄な態度を取った。
伯爵令嬢が、サワラン公爵令嬢よりも、好きなタイプだったにも関わらず。
あの時、何故あんな態度を取ってしまったかわからない。照れ隠しと言え酷い言葉を投げつけた気がする。控えめな可愛らしい令嬢だった。
マリー・ブルーリ伯爵令嬢は、前と同じようにその場にいた。だけど、今回は前とは違う。彼女はブルーリ伯爵令嬢ではなく、マリー・サワラン公爵令嬢として、ヘルマンの前に現れたのである。
今になって顔をまじまじとみれば、公爵とマリーはよく似ていた。前のサワラン公爵令嬢は夫人の方にはよく似ていたが、公爵とは似た部分がなかった。
マリーは前とは違う高貴な雰囲気を身に纏わせながら可愛い顔を綻ばせて、完璧な挨拶をした。
前はまだ辿々しい感じで、初々しかったのに。前の時は一緒にいたベアトリス様は今日はいないようだ。
「マリーが心配だから、一緒に来たの。」と言っていたから、ベアトリス嬢も来るかと思っていたのに。
ヘルマンはベアトリスがいなくても、特に不都合は感じなかった。前の時はベアトリス嬢が話を独占していて、マリーとの会話はあまりできなかったように思う。
マリーはあの日から随分と変わっていたが、可愛らしさはそのままで、それが一層ヘルマンの胸を締め付けた。
25
あなたにおすすめの小説
ここへ何をしに来たの?
柊
恋愛
フェルマ王立学園での卒業記念パーティ。
「クリストフ・グランジュ様!」
凛とした声が響き渡り……。
※小説になろう、カクヨム、pixivにも同じものを投稿しています。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
初恋のひとに告白を言いふらされて学園中の笑い者にされましたが、大人のつまはじきの方が遥かに恐ろしいことを彼が教えてくれました
3333(トリささみ)
恋愛
「あなたのことが、あの時からずっと好きでした。よろしければわたくしと、お付き合いしていただけませんか?」
男爵令嬢だが何不自由なく平和に暮らしていたアリサの日常は、その告白により崩れ去った。
初恋の相手であるレオナルドは、彼女の告白を陰湿になじるだけでなく、通っていた貴族学園に言いふらした。
その結果、全校生徒の笑い者にされたアリサは悲嘆し、絶望の底に突き落とされた。
しかしそれからすぐ『本物のつまはじき』を知ることになる。
社会的な孤立をメインに書いているので読む人によっては抵抗があるかもしれません。
一人称視点と三人称視点が交じっていて読みにくいところがあります。
今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?
水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。
メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。
そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。
しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。
そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。
メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。
婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。
そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。
※小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる