巻き戻りの人生は幸せになれるはずだったのに

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主人公は誰① シェリー視点

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シェリーは笑い出したい衝動に駆られていた。逃げ切ることができる!彼を見つけた時に、自分にはまだ運がついていることを神に感謝した。

神は私を見捨てない!ヘルマン・ディーズは婚約者を愛していたのに、照れ臭くて、素直になれなかった、ただのモブ。彼がマリー・ブルーリを虐げる様は、読んでいた時には嫌悪感でいっぱいだったのに、実際には楽しくて楽しくて仕方がなかった。まさか大好きな物語に自分が入れるなんて思わないじゃない。


でも、マリーは物語とは別の行動を取り始めて、信じられない動きをしたのよ。それで仕方なく、私はベアトリスを切り捨てなくてはならなかった。

折角私のいうことを聞いてくれる道化だったのに。遅かれ早かれ彼女は「悪役」でしかなかったのだから、仕方ないと思うことにした。彼女がいなくなったせいで、マリアとかいう平民を物語に早めに登場させなくてはならなくなったのよね。彼女の登場は本来ならもう少し先だったのに。

物語を読んでいた時からずっと思っていたの。何故主人公は、邪魔な存在をそのままにしておくのかって。完全な悪が第二王子しかいないから彼を倒すだけで満足する訳?

敵は叩きのめさないと!第二王子カートは兄の婚約者に懸想していたから、彼らを纏めてあげようとしただけじゃない!何故、こんな玉突き事故みたいなことになったの?

ましてや、勝手にあのお嬢様が第二王子を倒すなんて思わないじゃない!

本当ならそれは私がやる筈だったのよ。しかも、何知らないところで勝手に始末しちゃってんの?


シェリーは近くにいるであろう馬鹿な男の魂に心底感謝する。


シェルドン男爵家は王妃の派閥の末端にいた。その娘であるシェリーは、剣の才能を買われ、同じ派閥の伯爵令嬢の屋敷に護衛として雇われた。

シェリーが自分に気がついたのは、それから暫くしてのこと。

シェリーには記憶があった。今より少し前の今と全く違う世界の記憶が。その中で物語として、この世界を読んだことがあった。

主人公は、シェリー・シェルドンという男爵家出身の女騎士。伯爵令嬢の護衛になり、そのご令嬢が第一王子アーノルドの婚約者になったところから話は始まる。女騎士に興味を持った第一王子がシェリーと仲を深める間に、第二王子が伯爵令嬢を奪おうと画策する。

それを阻止しようとして、アーノルドと一緒にいるうちにシェリーは恋に落ちる、というそういう物語。

所謂四角関係のドロドロな展開なのだが、これは何と少女が読む「物語」というジャンルだった。

婚約者を助けた後は何の憂いもなくなり、結婚できるのに、アーノルドはシェリーを選ぶ。そして、元の婚約者はそんな二人を祝うのだ。

シェリーはそんな結末はあり得ないことを知っている。

だから、消した。不穏な展開は望んでいない。消せるなら消すべきだ。だってやっぱり私が王妃になりたいと言われたら厄介だもの。やっぱり彼と結婚したいと言われないように、裏から手を回したのだ。
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