巻き戻りの人生は幸せになれるはずだったのに

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女は逃げようとする

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マリーが止めるのも無視して、ヘルマンは飛び出していた。

カートも既に死んでいる。だけど、あれだけのことをしていた彼ならばまだ魂はあの場所にあるはずだ。

ヘルマンはまず彼のいた場所に赴いたが、彼の姿を見つけることはできずにいた。

行ってみた全ての場所に彼はいないのだ。彼はもう未練などなく、消えたというのか。あれだけ執着していた女に刺され殺されたというのにそんなあっさりと、死んだことで執着は外れたのだろうか。

ヘルマンはマリー・ブルーリの死にカートが関わっているのだと思っている。彼は巻き戻りの際に彼の本性を目にしている。マリーを気にかけている風で本当は何を考えていたか。



未練があると言っても、特に会って何がしたいかは考えていなかった。ただ真相が知りたくて、カートに聞きたかったのだ。マリーを気にかけていた理由を。彼女を殺した理由を。



だけど、カートを探すことは遂に出来なかった。



気がつけば、また鉱山に来ていた。

始まりはいつもここだ。魂がこの場所に縛られているのだから仕方がないことだが、正直ここは長くいたいところではない。

それでも、いる訳がないよな、と思いながら鉱山を歩き回ると、あの女がいた。いや、厳密には他にも彼女を取り囲み、人がたくさんいる。話の内容から察するに、現場検証とやらで彼女の言い分を知ろうとしているらしい。

落盤事故の起こし方を尋ねている男がいる。彼女はテキパキと指示を出した。爆弾の作り方でも話していたのかと思えばその通りだった。

簡単でも威力は抜群。彼女は騎士でありながらどうやってこんな知識を身につけたのだろうか。本当は戦場に赴いたことがあった、とか?

彼女の女騎士になるまでの経歴は普通の男爵令嬢としてのものしかない。

彼女の言い分を信じるわけにもいかないが、信じなければ意味がわからないとでも言いたいような顔を誰もがしている。

この中で自分を皆が認識しないことで自分が身体を持たない者だと漸く身に染みてわかってきた。

女は、拘束されていても、どうにか逃げようと企んでいる。ただ今はタイミングを見計らって大人しくしていた。

今まで拘束され、閉じ込められていたのだから、外に出されたタイミングで逃げたいと思う心理は理解できる。

ヘルマンは、女に接触を試みる。駄目元で話しかけたのだが、意外にもあっさり女は食いついた。

「あれ?話が通じる?」

「ああ、やっぱり助けに来てくれたのね。貴方ヘルマンでしょう?私を助けてくれたら貴方を生き返らせてあげるわ。だから、助けて。」

死んだ人を生き返らせるなんて、神の領域だ。生き返ったように見せることができても、本当に巻き戻りをさせるなんて芸当はどんなに優れていたとしても、ただの人間には無理なことだ。

彼女に騙された哀れな男は魂になっても簡単に騙される。そんな風に女は思っているのだろう。ならば、その言葉を真実にしてやるまで。

死んだ後の魂が生前のままな訳がないじゃないか。
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