巻き戻りの人生は幸せになれるはずだったのに

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ヘルマンは死んでいる

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マリーから聞いてしっくりきた。僕は既に死んでいるのだと。あの日起こった落盤事故で働いていた僕は死んだらしい。だから意識が鉱山で終わっているのか。あの日の追体験は、事故の原因を突き止めようとする若い青年のものだ。

彼はその後殺された。事故を起こした者達によって。

僕は未練の中彷徨っていて、偶々彼の魂と同調し、彼を自分だと思い込んだらしかった。

青年を殺したのは若い女だ。青年が会ったことがある。ヘルマンとしては会ったことはなかったが、それも当然か。

彼女はシェリー。男爵令嬢で、第二王子の側にずっといた。彼女が実は伯爵令嬢につけられた護衛の女騎士だなんて誰が信じるだろうか。彼女は見るからに何もできなそうなただの令嬢だ。

いや、令嬢というには、マナーも何もあったものじゃない。彼女は、確かに物理では第二王子を殺していないかもしれない。ただ、彼女は自身の目的のために、彼らの思考を誘導したとされている。

ああ、でもマリーはもういないんだ。マリー・サワランはいても、マリー・ブルーリは既にこの世にいない。彼女は全てを切って新しい世界へ旅立ってしまった。

対して自分には何もない。サワラン公爵令嬢からすると、強い未練があるらしい。あるにはある。

あの男とあの女に強い未練があるにはある。

ずっと前から考えていたんだ。うまくいっていない婚約者の、嫌いな相手に嫌われたぐらいで、自死を選んだりするだろうか。あの周りが全て敵だと思うような状況で誰か一人だけでも、味方になってくれたら、と。そしてその味方だと思っていた人物に裏切られたとしたら、優しいマリーは傷ついて自死するかもしれない。



「マリー・ブルーリは自死を選ぶような人ではないわ。生前彼女にあったことはないけれど。彼女の記憶を見たのよ。それには、貴方達に対しての感情はあったけど、恨みではなかったわ。単に貴方を心配していた。流されやすい人間だった貴方を、利用されたり辛い思いをしていないか、と。

貴方を唆した女は貴方に自分の名前はベアトリスと言って公爵家の娘だと言ったのね。彼女は、私ではなかった。私に罪をなすりつけようと企んだのよ。」

マリーの証言によると、確かに公爵に彼女を娘だと紹介されたわけではない。勝手についてきて、二人の邪魔をして、好き勝手に話していただけだ。

言われてみると、公爵には溺愛する娘が一人。

「貴族のなりすましは重罪よ。彼女はどういう訳か、サワラン公爵家の娘の名をベアトリスだと思っていた。だから、そこでおかしなことになった訳。本当のことを知っている者達が、ベアトリス嬢の振る舞いに疑問を抱き、調べたところ、彼女はサワラン公爵令嬢を名乗るなりすましだった。

彼女は、男爵令嬢で、他にも良からぬことばかりしていたから、今は捕まっているわ。

彼女の記憶も見たことには見たのよ。でも、酷くて。彼女はこの世界では一番幸せになるはずの人なんですって。事故で多数の人が亡くなったのは、事故が起こらずに焦った彼女が起こしたもの。どうして、と問いかけたら何て答えたと思う?

「落盤事故が起きなければ、物語が始まらないから。」

彼女はそう言ったわ。」

「物語?」

「彼女が主人公の物語。彼女は自分が第一王子に見そめられて、悪を討ち、王妃になる物語の主人公だと。」

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