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彼のやりたいこと マリー視点
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一度死んだ者が人生をやり直して、未練を残さずに天に昇る。その話は御伽噺として、この国に昔からある。幼い頃に聞いたその話を、マリーは何の思いも抱かずにただ聞いていた。
サワラン公爵家の一人娘として生を受け、すくすくと育っていたある日、不思議な夢を見た。
自分の身分が今とは違い、ある伯爵家の令嬢なのだ。彼女は婚約者に嫌われて、虐げられていた。彼女の人生を通してマリーは、彼女がすでに亡くなっていて、これが未練なのだと気がついた。
彼女の気が晴れるかはわからないが、彼女を裏切った婚約者と、先導した相手の女性を彼女の代わりにやり返してみると、気がついたころには自分に戻っていた。
この現象を父に相談したら調べて、専門家に聞いてくれた。
神殿から顔を白くさせた偉い人が飛んできたのは驚いたけれど。
「このような体質の方はこれまで何人かいらっしゃいました。非常に貴重な能力です。ぜひ神殿でお話を聞かせていただきたい。」
「話をすることは構いませんが、娘は公爵家の跡取りですので、神殿には渡しませんよ。」
父と神殿の人がバチバチと熱いバトルを交わしている。父の言うようにどんなに特殊でも家族と別れるのは嫌だとマリーは余計な口を挟まないことにした。
神殿の人が言うには、これまで発見されているマリーと同じような能力を持つ人達は、死者の声を聞けるだけだった。
追体験をして、しかも未練の中身を変えることができるなんてのは、マリーだけの能力らしい。
未練がそのままだと、魂は天に上れなくて永久にその場に留まることになる。それでも特に悪いことが起きたりはしないのだが、あまりに未練が強いと悪霊に転じてしまい、国が荒れることもあるのだと言う。
マリーが自分の能力に目覚めたのが偶々だったように、彼に出会ったのも偶々だった。彼はとても強い未練を持っていた為に天に上れないでいたが、それをどうこうする術をマリーは持たなかった。
マリーは悩みに悩んである人物に手伝いを頼んだ。彼は二つ返事で引き受けてくれた。
そして、始まりに戻るのである。
ここで言う始まりとは、あの、鉱山の落盤事故の日のことを示す。あの事故には第二王子が関わっていることは誰の目にも明らかだった。生き埋めになった人間は何も子爵家次男だけにとどまらない。第二王子の政敵や目の上の瘤、カートからすれば味方であるとは到底言えない殆どの人間が、あの事故の犠牲になった。
その中には、マリーの知る人物も含まれていた。マリーが自分の能力を知るきっかけとなった伯爵令嬢の元婚約者でマリー自身が鉱山に送った相手。
ヘルマン・ディーズ元侯爵令息。彼は落盤事故に巻き込まれ、亡くなった。彼の未練は元婚約者が幸せに暮らすこと。既に亡くなっている彼女、マリー・ブルーリは、その願いを叶えることはできない。だってもう未練もなく一足先に天に上ってしまった。
ヘルマンはマリーを見ると嬉しそうに笑う。マリーは、彼の婚約者ではないのに、名前が同じなだけなのに、とても嬉しそうなのだ。
「貴方はもう死んでるの。」
「私は貴方のマリーではないの。」
「マリーは先に天に行ってしまったわ。だから、貴方も行かなくちゃ。」
マリーの言葉に、明確な拒否はない。だからといって、ちゃんと彼に届いているかはわからない。
「マリー、僕にはまだやらなきゃ行けないことがあるんだ。」
思い詰めた顔で、ヘルマンはそう言って、その瞬間、彼は消えてしまった。
サワラン公爵家の一人娘として生を受け、すくすくと育っていたある日、不思議な夢を見た。
自分の身分が今とは違い、ある伯爵家の令嬢なのだ。彼女は婚約者に嫌われて、虐げられていた。彼女の人生を通してマリーは、彼女がすでに亡くなっていて、これが未練なのだと気がついた。
彼女の気が晴れるかはわからないが、彼女を裏切った婚約者と、先導した相手の女性を彼女の代わりにやり返してみると、気がついたころには自分に戻っていた。
この現象を父に相談したら調べて、専門家に聞いてくれた。
神殿から顔を白くさせた偉い人が飛んできたのは驚いたけれど。
「このような体質の方はこれまで何人かいらっしゃいました。非常に貴重な能力です。ぜひ神殿でお話を聞かせていただきたい。」
「話をすることは構いませんが、娘は公爵家の跡取りですので、神殿には渡しませんよ。」
父と神殿の人がバチバチと熱いバトルを交わしている。父の言うようにどんなに特殊でも家族と別れるのは嫌だとマリーは余計な口を挟まないことにした。
神殿の人が言うには、これまで発見されているマリーと同じような能力を持つ人達は、死者の声を聞けるだけだった。
追体験をして、しかも未練の中身を変えることができるなんてのは、マリーだけの能力らしい。
未練がそのままだと、魂は天に上れなくて永久にその場に留まることになる。それでも特に悪いことが起きたりはしないのだが、あまりに未練が強いと悪霊に転じてしまい、国が荒れることもあるのだと言う。
マリーが自分の能力に目覚めたのが偶々だったように、彼に出会ったのも偶々だった。彼はとても強い未練を持っていた為に天に上れないでいたが、それをどうこうする術をマリーは持たなかった。
マリーは悩みに悩んである人物に手伝いを頼んだ。彼は二つ返事で引き受けてくれた。
そして、始まりに戻るのである。
ここで言う始まりとは、あの、鉱山の落盤事故の日のことを示す。あの事故には第二王子が関わっていることは誰の目にも明らかだった。生き埋めになった人間は何も子爵家次男だけにとどまらない。第二王子の政敵や目の上の瘤、カートからすれば味方であるとは到底言えない殆どの人間が、あの事故の犠牲になった。
その中には、マリーの知る人物も含まれていた。マリーが自分の能力を知るきっかけとなった伯爵令嬢の元婚約者でマリー自身が鉱山に送った相手。
ヘルマン・ディーズ元侯爵令息。彼は落盤事故に巻き込まれ、亡くなった。彼の未練は元婚約者が幸せに暮らすこと。既に亡くなっている彼女、マリー・ブルーリは、その願いを叶えることはできない。だってもう未練もなく一足先に天に上ってしまった。
ヘルマンはマリーを見ると嬉しそうに笑う。マリーは、彼の婚約者ではないのに、名前が同じなだけなのに、とても嬉しそうなのだ。
「貴方はもう死んでるの。」
「私は貴方のマリーではないの。」
「マリーは先に天に行ってしまったわ。だから、貴方も行かなくちゃ。」
マリーの言葉に、明確な拒否はない。だからといって、ちゃんと彼に届いているかはわからない。
「マリー、僕にはまだやらなきゃ行けないことがあるんだ。」
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