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彼はやり直せる

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悪は悪として、最悪でないから許される、小さな悪戯程度だから見逃して貰える、わけもなく。そのことを思い知るのは自分がもう何も出来なくなってから。ヘルマンはシェリーを殺したので、もうマリーと同じような場所には辿り着けない。このままこの世界を漂うか、シェリーと同じ場所へ向かうか。

シェリーが居なくなった今、この世に未練はないが、ヘルマンはどこに行くこともなく、漂っていた。

どこに行こうかと考えて、ふと行ってみたい場所があったと思い出す。生身の体ならきっと門前払いであったろう。マリー・ブルーリの墓だ。マリーは天界で、顔を顰めているかもしれない。それでもちゃんと謝りたかった。謝ってもマリーが生き返るわけでもない。ただの自己満足でしかなくても、謝って自分の罪を目に焼き付けておきたかった。

マリー・ブルーリの墓には先客がいた。ヘルマンに罰を下したもう一人のマリーがそこにいた。ヘルマンの姿を見つけると少しホッとしているように見えた。

「やっぱりここに来たのね。会えて良かったわ。」

「シェリーを扉に入れて、逃げてきたんだ。僕は立派な悪霊になったよ。」

マリー・サワランは、首を小さく振る。

「もしそうなら此処には入れないわ。此処は少し特殊な仕掛けがしてあって、悪いものは全て入れなくしてあるの。ブルーリ伯爵の愛の証ね。だから、貴方はまだ悪霊になっていないわ。」

「それにしても、時間の問題だろう。シェリーが死ねば、きっとそうなる。」

「あー、そうね。シェリーは今のところ、死刑にはならないのよ。あの扉の先には地獄があるとか、処刑台が待っているとか言われているけれど、違うの。あの扉の向こうにはね……」

マリーの話は興味深かった。一度みてみたいと言えば、悪趣味だから、やめておけと言われた。それに霊体だから許されるかわからないと言われたら、ヘルマンは想像するだけに留めておいた。

「ここだけの話、あーいうタイプの女性は何年かに一度、どこかの国で稀に居るのよ。自分が似たような世界を知っている、とかで話をなぞるように凶悪事件を巻き起こすの。皆それまでは普通の人なのよ。それが頭を打ったり、高熱を出したり、生死の境を彷徨った末に人が変わって、自分が別人になるのよ。

そうなっても、良いように変わることもあるの。結局は人によるのよ。貴方みたいな人も同じ。悪いことをして、そうなったのに、自分が被害者だと喚くベアトリスや、マリアのような人間はきっとあのままだったら悪霊になっていたわね。

彼女達は、ずっと他人の所為にして生きてきたの。でも、貴方はちゃんと反省ができた。遅すぎるかもしれないけれど、それが大事な境目だったのよ。」



「それでも僕はマリーを殺した。自分の変なプライドを優先して彼女を酷い目に合わせた。」
「そうね。なら、次は絶対に守ってあげなきゃね。」
「次があるのか?」
「ヘルマン・ディーズの人生は終わり。次は全く別人になるわ。でも、マリーの希望なの。あの子、貴方が初恋だったのよ。だから、何をされても憎めなかったんですって。今度は間違えないようにね。」

ヘルマンの記憶はそこで途切れる。
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