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未練はない
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マリー・サワランもとい、マリー・ブルーリはため息をついた。ヘルマンがいなくなったことを見届けて、全て終わったのだと実感した。
マリーはブルーリ伯爵家の娘として生まれた。サワラン公爵とは伯父と姪の関係になる。ブルーリ伯爵であった父は公爵の弟だが、顔は似ていても、性質は全く似ていなかった。彼は控えめに言って屑だった。
金遣いは荒く、女にはだらしない。酒に溺れて、簡単な仕事さえ人任せ。
彼がこさえた借金を払ったのが公爵様で、マリーの能力を買ってくれたのも伯父だった。
公爵家にはベアトリスという寄生虫が住んでいた。娘でもないのに、居座って公爵令嬢と言い張る頭のおかしな娘。ベアトリスはシェリーという男爵令嬢に唆されて公爵令嬢になれると思い込んだ。
彼女はマリーと、ヘルマンの間に入り、何を思ったか、マリーを攻撃してきた。
だから、仕返しただけだ。
ヘルマンのことを初恋だと称したのは嘘のようで本当の話。マリーは父とは違う真面目そうに見えた彼にうっすらと恋心を抱いていた。いくつかの交流ですっかりその恋心もなくなってしまったが、最初は彼をちゃんと好きだった。
でも、何度試みても改善されない彼との交流が苦痛になってからは、仲良くなる気すら失われてしまった。
ヘルマンにはああ言ったけれど、来世では決して会いたいとは思わない。
ブルーリ伯爵令嬢としての自分は死んで、公爵令嬢としての人生を下さった伯父には感謝している。
ベアトリスは確かに貴族の落とし胤だった。だが、それは伯父ではない。
マリーの能力は、死んだ人の人生を自分の体を使い再現することではない。無念の死を遂げた魂の未練を断ち切る手伝いができることだ。だから、ベアトリスの無念も、マリアの無念も、シェリーへの断罪という形で晴らすことが出来た。
シェリー・シェルドンの狙いが、第二王子の殺害でなければ、彼女達は罪人として裁かれることはあれど、あのように死ぬことにはならなかった。彼女達を気の毒に思うことはない。だってベアトリスには随分世話になったし、マリアというメイドは第二王子を唆したという罪があるのだから。
シェリーの使い道は最初から決まっていた。楽に殺す気などさらさらない。それはベアトリスらの為などではなく、自らの為。公爵令嬢であると言う、身分の為。王家に恩を売り、協力していくための案。アーノルド第一王子は、すぐに了承してくれた。第二王子はいつかは処分しなくては、と思っていたらしく、早まって良かったとさえ、話しているぐらい、彼らの仲は悪かった。
「証人が全員いなくなったのは僥倖だったね。助かったよ。それはあの女に感謝しなくてはならない。」
一連の出来事に、アーノルド第一王子は関係ない。勿論、サワラン公爵家も、何も見たり聞いたりしてはいない。
マリーはブルーリ伯爵家の娘として生まれた。サワラン公爵とは伯父と姪の関係になる。ブルーリ伯爵であった父は公爵の弟だが、顔は似ていても、性質は全く似ていなかった。彼は控えめに言って屑だった。
金遣いは荒く、女にはだらしない。酒に溺れて、簡単な仕事さえ人任せ。
彼がこさえた借金を払ったのが公爵様で、マリーの能力を買ってくれたのも伯父だった。
公爵家にはベアトリスという寄生虫が住んでいた。娘でもないのに、居座って公爵令嬢と言い張る頭のおかしな娘。ベアトリスはシェリーという男爵令嬢に唆されて公爵令嬢になれると思い込んだ。
彼女はマリーと、ヘルマンの間に入り、何を思ったか、マリーを攻撃してきた。
だから、仕返しただけだ。
ヘルマンのことを初恋だと称したのは嘘のようで本当の話。マリーは父とは違う真面目そうに見えた彼にうっすらと恋心を抱いていた。いくつかの交流ですっかりその恋心もなくなってしまったが、最初は彼をちゃんと好きだった。
でも、何度試みても改善されない彼との交流が苦痛になってからは、仲良くなる気すら失われてしまった。
ヘルマンにはああ言ったけれど、来世では決して会いたいとは思わない。
ブルーリ伯爵令嬢としての自分は死んで、公爵令嬢としての人生を下さった伯父には感謝している。
ベアトリスは確かに貴族の落とし胤だった。だが、それは伯父ではない。
マリーの能力は、死んだ人の人生を自分の体を使い再現することではない。無念の死を遂げた魂の未練を断ち切る手伝いができることだ。だから、ベアトリスの無念も、マリアの無念も、シェリーへの断罪という形で晴らすことが出来た。
シェリー・シェルドンの狙いが、第二王子の殺害でなければ、彼女達は罪人として裁かれることはあれど、あのように死ぬことにはならなかった。彼女達を気の毒に思うことはない。だってベアトリスには随分世話になったし、マリアというメイドは第二王子を唆したという罪があるのだから。
シェリーの使い道は最初から決まっていた。楽に殺す気などさらさらない。それはベアトリスらの為などではなく、自らの為。公爵令嬢であると言う、身分の為。王家に恩を売り、協力していくための案。アーノルド第一王子は、すぐに了承してくれた。第二王子はいつかは処分しなくては、と思っていたらしく、早まって良かったとさえ、話しているぐらい、彼らの仲は悪かった。
「証人が全員いなくなったのは僥倖だったね。助かったよ。それはあの女に感謝しなくてはならない。」
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