望んだことをしてあげただけなのに、妹が烈火のごとく怒り出したのですが

mios

文字の大きさ
2 / 25

姉妹格差

しおりを挟む
「まあ、懲りないわね、あの子も。」

システィーナが二人に書かせた契約書を眺めて、ため息をつくのは、侯爵夫人であり、この家の長である母のグレータ。前侯爵の一人娘である彼女は、婿入りはしたものの、大して働かなかった侯爵の名を借りて、侯爵としての仕事をほぼ担当していた。夫である侯爵は、悪い人ではないのだが、貴族にしては純粋で何でも信じてしまう。その気質は、長男アレクシスに受け継がれており、常々二人には「契約書をよく読みなさい。」と言い聞かせているのだが。

システィーナからの契約書を甘く見た故か、全く反省していない故か、はたまた読んでも理解できなかったかはわからないが、アレクシスは重大なミスを犯していた。

「マイルズなら、署名前には気づいたでしょうね。」

僅か十二歳のマイルズが気づく契約書の穴を十九歳のアレクシスが気づかない。

アレクシスが以前騙された詐欺師の手口も、暴いたのはシスティーナとマイルズだった。

「全く、あの子達は一体誰に似たのかしら。」

システィーナとマイルズは明らかに自分に似ているが、だからって、夫もあそこまで自分勝手ではない。夫は婿入りする前から努力はしている。それが実となっていないだけ。頑張っても上手く出来ない者はいる。だから、こちらも手伝ってあげたくなる。

だが、長男と次女は夫とも違う。努力を最初からしない。しないから、何にもできない。出来ないから、できる人が頑張って成し遂げた結果だけを横から奪おうとする。

グレータは、そのような特徴を持った者を思い出し、遺伝とは恐ろしいものだと息をついた。


「それにしても、システィーナ達が不仲だなんて、どうしたらそんな思考になるのかしら。」

「おそらく、喧嘩の原因をお知りにならないのだと思います。」

「そうよね。知っていたらこんな思考にならないわよ。それに、ロザリアが姉の婚約者に懸想していたなんて、初耳よ。本当なのかしら。」

本当だったところで、当のアラン様が、システィーナの妹でしかないロザリアを受け入れるとは思えない。漸くまとまりかけてきたのに……公爵家の機嫌を損ねたら、ロザリアはもう侯爵令嬢としてもいられないかもしれないのに。


グレータは子供が可愛いが、四人に区別は付けなかった。教育係も四人に満遍なく付けた。授業が終わっても自主的に勉強したり、質問したり、それらは子供達に任せた。「勉強しなさい。」と言ったところで、しない者はしない。寧ろ成果だけを求めて、嘘をついたり、不正したりするようでは本末転倒だ。

教育係を変えてほしいと泣きついてきたのも、ロザリアが最初だった。先生が虐めると泣いていたから、侍女に様子を見させると、課題が終わらなくてロザリアが勝手に泣いて喚いていただけだった。

教育係の方は穏やかで、悪いことをしない限り、叱らない。なのに一時期、泣き腫らした目のロザリアをよく目にしていた。こちらが何かをする前に、教師の方から、「もう無理です。」と告げられた。

「子供が好きで、勉強を知って、彼らが目を輝かせるのを見るのが好きなんです。」そう口にしていた教師がとても疲れた顔で、ロザリアの教育係を辞退してきた時は、引き止めることも出来なかった。気の毒になってしまったのだ。

対してシスティーナの教育係も、「私に教えることはもうありません。」と、早々に辞退してきた。システィーナは早くに学園に入って卒業するほどの学習を終えてしまった。教師は辞めるとは言っても誇らしげで、システィーナを教えられたことを喜んでいるようだった。

これだけで、二人の違いは歴然だった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

隣の芝生は青いのか 

夕鈴
恋愛
王子が妻を迎える日、ある貴婦人が花嫁を見て、絶望した。 「どうして、なんのために」 「子供は無知だから気付いていないなんて思い上がりですよ」 絶望する貴婦人に義息子が冷たく囁いた。 「自由な選択の権利を与えたいなら、公爵令嬢として迎えいれなければよかった。妹はずっと正当な待遇を望んでいた。自分の傍で育てたかった?復讐をしたかった?」 「なんで、どうして」 手に入らないものに憧れた貴婦人が仕掛けたパンドラの箱。 パンドラの箱として育てられた公爵令嬢の物語。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

勘違い

ざっく
恋愛
貴族の学校で働くノエル。時々授業も受けつつ楽しく過ごしていた。 ある日、男性が話しかけてきて……。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

【完結】私の代わりに。〜お人形を作ってあげる事にしました。婚約者もこの子が良いでしょう?〜

BBやっこ
恋愛
黙っていろという婚約者 おとなしい娘、言うことを聞く、言われたまま動く人形が欲しい両親。 友人と思っていた令嬢達は、「貴女の後ろにいる方々の力が欲しいだけ」と私の存在を見ることはなかった。 私の勘違いだったのね。もうおとなしくしていられない。側にも居たくないから。 なら、お人形でも良いでしょう?私の魔力を注いで創ったお人形は、貴方達の望むよに動くわ。

【完結】私、四女なんですけど…?〜四女ってもう少しお気楽だと思ったのに〜

まりぃべる
恋愛
ルジェナ=カフリークは、上に三人の姉と、弟がいる十六歳の女の子。 ルジェナが小さな頃は、三人の姉に囲まれて好きな事を好きな時に好きなだけ学んでいた。 父ヘルベルト伯爵も母アレンカ伯爵夫人も、そんな好奇心旺盛なルジェナに甘く好きな事を好きなようにさせ、良く言えば自主性を尊重させていた。 それが、成長し、上の姉達が思わぬ結婚などで家から出て行くと、ルジェナはだんだんとこの家の行く末が心配となってくる。 両親は、貴族ではあるが貴族らしくなく領地で育てているブドウの事しか考えていないように見える為、ルジェナはこのカフリーク家の未来をどうにかしなければ、と思い立ち年頃の男女の交流会に出席する事を決める。 そして、そこで皆のルジェナを想う気持ちも相まって、無事に幸せを見つける。 そんなお話。 ☆まりぃべるの世界観です。現実とは似ていても違う世界です。 ☆現実世界と似たような名前、土地などありますが現実世界とは関係ありません。 ☆現実世界でも使うような単語や言葉を使っていますが、現実世界とは違う場合もあります。 楽しんでいただけると幸いです。

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

処理中です...