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第一部 ダリアとリュード
餌付け
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起きると雨が降っていた。前日の夜に行われた仕事に立ち会って疲れたのだろうと気を使われた結果、昼頃まで眠ってしまったからか、雨のせいかはわからないが少し身体が重く感じる。幸いなことに急ぎの書類はないようで、今日一日はのんびりすることにした。
ゆっくり朝食を摂った後、図書室に引き篭もる。学園の図書館もたくさん蔵書があって、読むのにワクワクしたが、公爵家の屋敷には見たこともない面白そうな本がたくさんあって、少しずつ読み進めている。
いつもは食後に少しだけ読むのだが、今日は少し贅沢に楽しめる。
集中していたら、近くに人がいるのに気が付かなかった。侍女かと思い、振り向いてびっくりしてしまった。
そこにはよそ行きの服を着たリュードが立っていた。
「おかえりなさいませ?」
今から向かうのか帰ってきたかは定かではないが、ダリアの顔に触れる指先が冷たかったから、「おかえり」であっていたみたいだ。
「ご飯は食べたか?」
「はい、先程までぐっすり寝てしまって。」
「いや、昨日は無理をさせたから、今日はゆっくりしてもらって良いんだ。」
一度目の人生で私はこの男が倒れるほど怖かったのかと、不思議に思う。
だってこちらの様子を窺っている様子が遠慮している大型犬のように見えるのだから。
私は無表情を決め込む筈だったのに、ふと笑ってしまった。彼は少し目を見開いた後、着替えてくる、と退席し、また戻ってきた。
「今日は一緒にいてくださるのですか?」
「怖いなら離れるが。」
「いえ、一緒にお茶はどうですか?朝食を遅くに取ったので、昼食は入らないだろうと思ったのですが、変な時間にお腹が空くのが嫌で、お茶をしようと思ってたんです。」
「なら、貰おう。」
侍女には断って、今日はダリアが手ずからお茶の用意をする。これは前の時から夢だったことだ。夫婦水入らずでお茶を楽しむ、と言うのが。
侍女達ほどは上手に入れられなかったお茶をリュードは何も文句を言うことなく飲んでくれた。
「なあ、これは何なんだ。この間から。」
リュードが指摘したのは、ダリアがクッキーを彼の口元に持っていく行為のことだ。ダリアは、自分が半ば無意識で行っていたことに恥ずかしくなってしまった。
「餌付けです。」
「えっ?」
「餌付けです。」
疑問符が浮かんでいるリュードに、説明する術を持たずに、彼に裁量を委ねると、彼はどうにか納得しようと「餌付けか、餌付けね。」と繰り返している。
流石に怒られるかと身構えたが、彼は笑って許してくれた。
「いや、まあ不快ではないが、何故かはわからなかったから聞いただけだ。気にしないでくれ。」
彼は本当にあのリュード・クルデリスだろうか。自信がなくなってきた。あんなに恐ろしかった怪物みたいな男が蓋を開けてみると可愛らしい大型犬なんて、ギャップどころの騒ぎではない。
「また、しても良いですか?」
「勿論……いや、これはこちらがしてもらうばかりでは申し訳ないな。私からもしても良いだろうか。」
ダリアはこの日、この返事を適当に済ましたことを後悔することになる。
その日から、リュードの餌付けと称した過剰なスキンシップが始まった。
ダリアがそう言った行為に慣れていなくて最初に顔を赤くしたことに変なスイッチが入ったようで、事あるごとに食べさせようとする夫と涙目の妻という図が散見されるようになる。
公爵家の使用人はそんな空気を諸共しないところも、ダリアの羞恥を煽った。
「お手柔らかにお願いします。」
ダリアが何度も言った言葉は残念ながら聞き入れられることはなかった。
ゆっくり朝食を摂った後、図書室に引き篭もる。学園の図書館もたくさん蔵書があって、読むのにワクワクしたが、公爵家の屋敷には見たこともない面白そうな本がたくさんあって、少しずつ読み進めている。
いつもは食後に少しだけ読むのだが、今日は少し贅沢に楽しめる。
集中していたら、近くに人がいるのに気が付かなかった。侍女かと思い、振り向いてびっくりしてしまった。
そこにはよそ行きの服を着たリュードが立っていた。
「おかえりなさいませ?」
今から向かうのか帰ってきたかは定かではないが、ダリアの顔に触れる指先が冷たかったから、「おかえり」であっていたみたいだ。
「ご飯は食べたか?」
「はい、先程までぐっすり寝てしまって。」
「いや、昨日は無理をさせたから、今日はゆっくりしてもらって良いんだ。」
一度目の人生で私はこの男が倒れるほど怖かったのかと、不思議に思う。
だってこちらの様子を窺っている様子が遠慮している大型犬のように見えるのだから。
私は無表情を決め込む筈だったのに、ふと笑ってしまった。彼は少し目を見開いた後、着替えてくる、と退席し、また戻ってきた。
「今日は一緒にいてくださるのですか?」
「怖いなら離れるが。」
「いえ、一緒にお茶はどうですか?朝食を遅くに取ったので、昼食は入らないだろうと思ったのですが、変な時間にお腹が空くのが嫌で、お茶をしようと思ってたんです。」
「なら、貰おう。」
侍女には断って、今日はダリアが手ずからお茶の用意をする。これは前の時から夢だったことだ。夫婦水入らずでお茶を楽しむ、と言うのが。
侍女達ほどは上手に入れられなかったお茶をリュードは何も文句を言うことなく飲んでくれた。
「なあ、これは何なんだ。この間から。」
リュードが指摘したのは、ダリアがクッキーを彼の口元に持っていく行為のことだ。ダリアは、自分が半ば無意識で行っていたことに恥ずかしくなってしまった。
「餌付けです。」
「えっ?」
「餌付けです。」
疑問符が浮かんでいるリュードに、説明する術を持たずに、彼に裁量を委ねると、彼はどうにか納得しようと「餌付けか、餌付けね。」と繰り返している。
流石に怒られるかと身構えたが、彼は笑って許してくれた。
「いや、まあ不快ではないが、何故かはわからなかったから聞いただけだ。気にしないでくれ。」
彼は本当にあのリュード・クルデリスだろうか。自信がなくなってきた。あんなに恐ろしかった怪物みたいな男が蓋を開けてみると可愛らしい大型犬なんて、ギャップどころの騒ぎではない。
「また、しても良いですか?」
「勿論……いや、これはこちらがしてもらうばかりでは申し訳ないな。私からもしても良いだろうか。」
ダリアはこの日、この返事を適当に済ましたことを後悔することになる。
その日から、リュードの餌付けと称した過剰なスキンシップが始まった。
ダリアがそう言った行為に慣れていなくて最初に顔を赤くしたことに変なスイッチが入ったようで、事あるごとに食べさせようとする夫と涙目の妻という図が散見されるようになる。
公爵家の使用人はそんな空気を諸共しないところも、ダリアの羞恥を煽った。
「お手柔らかにお願いします。」
ダリアが何度も言った言葉は残念ながら聞き入れられることはなかった。
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