伯爵夫人を殺したのは誰だ

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夫は反省する

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「成り行きとは言え、商会の従業員を勝手に処分して済まなかった。」

妻亡き後、商会長は今や彼ら二人であり、デイビス自身には何の権利もないし、これから先も求めることはない。だが、妻のことを知る過程で、これからもこういうことは少なからずある気がする。

デイビスの謝罪に、二人は首を横に振る。

「遅かれ早かれ彼女はこうなっていました。プライドに見合う能力の無いものは、人を妬むことしかできませんから。こうなって見れば、より最悪な形で彼女の異質さが露見するよりは良かったのですわ。それに、新しい事務員はすでに用意してあるのです。ケイトの紹介なんですのよ。」

「ケイトの?」

「ええ、女学園時代の友人らしくて、買い付けの折に偶然会ってからずっと連絡を取り合っていたとか。もしよければ、彼女からもケイトの話を聞いてみられますか?彼女、お兄様が何人かいらして、一番上のお兄様が伯爵と面識があるとか、話していたけれど。レノー侯爵家に婿入りされたみたいだけど、ご存知?」


レノー侯爵家と聞いて、デイビスは苦い思い出が甦る。


デイビスがまだ若く、自分にも可能性がたくさんあると信じていた頃の話。彼は人生で初めての恋に落ちた。貴族である限り、結婚は好きな人とはできないことはわかっていたが、その頃の自分は、初めての恋に浮き足だっていて、彼女との将来を夢見ていた。

だが、恋は叶わなかった。彼女が選んだのは当時レノー侯爵に婿入り予定だった男を選んだ。ただ、勿論のこと、彼女とレノー侯爵令嬢は別人だ。婿入り予定の男が愛人を連れて行けるわけもなく、レノー侯爵家は令嬢と男の婚約を解消し、新しく婚約者を探していた。



デイビスが振られた彼女は、その男が婚約解消されてから、伯爵家を継ぐデイビスに粉をかけてきたが、その頃にはもう恋の病は消え去っていた。


今になって思うと、婚約者のいる男に言い寄る女の異常さに気がつかない程度には恋に浮かされていた己の迂闊さに呆れてしまう。同時に、選ばれなくて良かった、と胸を撫で下ろす。


彼女なら殺されたとしてもどこからか恨みは買っていそうだと、諦めはつくが、あのケイトを恨んでいる者など考えても考えても、思いつく者はいない。


きっとケイトがあの時のデイビスを知っていたとしたら、早々に呆れられて、嫌われていただろう。デイビスの初恋の相手は女の敵だった。特に婚約者を持つ貴族令嬢達の共通の敵。彼女に籠絡されたデイビスら男も、同じだ。


今のレノー侯爵と言うと、その出来事を覚えている筈だ。

話を聞く際に冷たい目を向けられることだろう。

「グリーン家と言ったらわかるかしら。」

「フレディか。ああ、確かに歳の離れた異母妹がいたような。彼女がケイトの友人だと?」

「ええ、ケイトから見て、学生時代の友人の中で、自分が一番信用できる人だと、言っていたわ。」

ケイトがそう言うのならそうなのだろうが、それだと、あのエミリア嬢とはどうなのだろうか。彼女には秘密を明かすほどの仲ではなかったのか。


ふと、デイビスは何か、見落としているような感覚に陥る。

エミリア嬢は本当にケイトと仲が良かったのだろうか。親友と称していたアンナ嬢がああだったのだ。ノートだって、シルバのように渡したのではなく、隠した。彼女に見つけて貰うためではなく、見つけられない為だったとしたら。

デイビスは、ヴィクトリアの提案通り、グリーン家の末娘に話を聞くことにした。

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