伯爵夫人を殺したのは誰だ

mios

文字の大きさ
10 / 53

グリーン家の末娘

しおりを挟む
第一印象は「ケイトが好きそうな」清廉な女性だった。彼女は、デイビスの知るフレディとは口元の黒子ぐらいしか似ていない可愛らしい見た目をしていた。

ケイトは、彼女自身もそうだが、メイクをとれば幼く見えるあどけない素顔をしていて、年齢よりも若く見える。

「キンバリー・グリーンと申します。ケイト様とは学園で一位を争っておりました。まさか、あのようなことが起きるなんて。……お悔やみを申し上げます。」

彼女は女学園時代の友人ではあったが、ケイトとは常に一緒という訳ではなかった。

「彼女は、何と言いましょうか、人気がありましたから。彼女の周りにいることは、一種のステータスであり、予約制でしたのよ?驚くことに、彼女の親友と名乗っている者達の中には、彼女と話したことのない者達までいたのです。」

「それはまた、何とも……」
「呆れますでしょう?ケイト様もうんざりしておられましたわ。ケイト様からしたら、善意で少し行ったことが、勝手に一人歩きしてしまいまして、困惑しているようでした。」

「それはエミリア嬢との関係とかですか?」

「ええ、そうです。彼女は所謂いじめられっ子でした。没落した元貴族で平民の特待生ですから、貴族令嬢達の憂さ晴らしの恰好の獲物でした。彼女自身、特におとなしい性格でもありませんでしたし、男爵令嬢だった頃にも色々やらかしてはいたようですので、仕返しみたいな嫌がらせをされていました。」

「ケイトは彼女を助けたとか?」

「その通りです。彼女はあのような曲がったことが許せない性格でしたので、いじめに遭っている彼女を見捨てられなかったのでしょう。彼女のそばに置くことで、彼女を守ったのです。ですが、エミリア嬢は調子に乗りました。ケイト様を裏切り、たくさんのことをやらかしました。」

「やらかしとは具体的には?」

「例えば、ケイト様の交友関係に口を出したり、ケイト様の威を借りて、周りを操っていたり、またケイト様の物を勝手に借りたり、彼女の功績を自分との共同のものにしたり、ですね。」

「それは、また……」

デイビスはエミリア・エポックに会ったことはない。妻から聞いたことすらなかった。ただ妻の死を知らせるニュースで聞いただけ。

彼女のことを妻の親友だと思い込んだのは何が原因だったか、思い返してみる。

「リスキー侯爵夫人とは、女学園時代、仲が良かったのですか?」

キンバリー嬢は、少し考えていたが、眉を顰めて首を横に振った。

「リスキー侯爵夫人、ミラ・コーリン子爵令嬢ですわね。彼女は、エミリア嬢と共にケイト様の威を借りていた人物です。性格は派手好きで見栄っ張り。ケイト様の努力を横から掻っ攫うようなまるで寄生虫のような人物ですわ。ただ、リスキー侯爵家には、ほぼ身売りのような形で嫁いでいったようなので、ケイト様は最後の最後に清算なさったのなら、良かったですわ。」

「と言うと、借金があった訳ですか。」

「ええ、リスキー侯爵家の出資しているブティックをご存知?侯爵家の前夫人が、女学園でケイト様の劇を見てからの大ファンで、彼女から色々な情報を仕入れていたそうです。

ケイト様の友人だと言うことで、ドレスを安く融通して貰ったり、ケイト様の好きな形だと言って、会わせる見返りにとドレスを騙し取ったりしていたようです。代金がいくら待っても未払いだった為、ケイト様に初めて話がいって、気がついた、と。


彼女についていた寄生虫については、伯爵の方が詳しいのではありません?

彼女のご家族にも、お会いしたことはあるのでしょう?お兄様のご婚約者に、お会いしたことは?」

ケイトの兄の婚約者には、結婚の際に一度お会いしたことがある。小動物を思わせる見た目に反して獰猛な猛禽類のような視線がアンバランスな感じがして、怖かった。

「あの方も、お兄様と、ケイト様にご執心な様子でしたわ。ケイト様は人を信じることも、利用されることも、どこか諦めているような様子でした。

結婚して、幸せそうにしているのなら、良かったと思っていたのですが。」

リスキー侯爵夫人も、彼方側だったのか。自分の迂闊さに呆れるのは何度目だろう。


目に見えて狼狽えるデイビスをキンバリー嬢は見ないようにしてくれた。

「ああ、申し訳ない。妻が亡くなって、初めてこんな風に話を聞いたのがリスキー侯爵夫人だったのですよ。彼女の話を鵜呑みにして、ケイトのことを考えていたなんて、愚かなことです。」

「彼女は何と?」
「妻は何かを隠しているように見えたと。」

「ああ、それは本当だと思います。私にも彼女は何も言ってはくれませんでしたが。私は、言い出してくれるのを待っていましたが。」

「妻はエミリア嬢にはどんな態度でしたか?」

「されるが儘でしたわね。最初はそれでも仕方ない、と言うように穏やかな目で彼女を見ていたようですが、段々と彼女の行いに興味がなくなっていったようです。ただ先のように、エミリア嬢は彼女に執着していましたから、今思えば痛々しい程には、ケイト様に付き纏っていました。」




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ
恋愛
サヘルはお飾りの妻で、夫とは式で顔を合わせたきり。 何もさせてもらえず、退屈な彼女の趣味は、天井裏から夫と愛人の様子を覗くこと。そのうち、彼らの小説を書いてみようと思い立って……?

婚約破棄したら食べられました(物理)

かぜかおる
恋愛
人族のリサは竜種のアレンに出会った時からいい匂いがするから食べたいと言われ続けている。 婚約者もいるから無理と言い続けるも、アレンもしつこく食べたいと言ってくる。 そんな日々が日常と化していたある日 リサは婚約者から婚約破棄を突きつけられる グロは無し

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

地獄の業火に焚べるのは……

緑谷めい
恋愛
 伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。  やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。  ※ 全5話完結予定  

番など、今さら不要である

池家乃あひる
恋愛
前作「番など、御免こうむる」の後日談です。 任務を終え、無事に国に戻ってきたセリカ。愛しいダーリンと再会し、屋敷でお茶をしている平和な一時。 その和やかな光景を壊したのは、他でもないセリカ自身であった。 「そういえば、私の番に会ったぞ」 ※バカップルならぬバカ夫婦が、ただイチャイチャしているだけの話になります。 ※前回は恋愛要素が低かったのでヒューマンドラマで設定いたしましたが、今回はイチャついているだけなので恋愛ジャンルで登録しております。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

[きみを愛することはない」祭りが開催されました~祭りのあと2

吉田ルネ
恋愛
出奔したサーシャのその後 元気かな~。だいじょうぶかな~。

処理中です...