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グリーン家の末娘
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第一印象は「ケイトが好きそうな」清廉な女性だった。彼女は、デイビスの知るフレディとは口元の黒子ぐらいしか似ていない可愛らしい見た目をしていた。
ケイトは、彼女自身もそうだが、メイクをとれば幼く見えるあどけない素顔をしていて、年齢よりも若く見える。
「キンバリー・グリーンと申します。ケイト様とは学園で一位を争っておりました。まさか、あのようなことが起きるなんて。……お悔やみを申し上げます。」
彼女は女学園時代の友人ではあったが、ケイトとは常に一緒という訳ではなかった。
「彼女は、何と言いましょうか、人気がありましたから。彼女の周りにいることは、一種のステータスであり、予約制でしたのよ?驚くことに、彼女の親友と名乗っている者達の中には、彼女と話したことのない者達までいたのです。」
「それはまた、何とも……」
「呆れますでしょう?ケイト様もうんざりしておられましたわ。ケイト様からしたら、善意で少し行ったことが、勝手に一人歩きしてしまいまして、困惑しているようでした。」
「それはエミリア嬢との関係とかですか?」
「ええ、そうです。彼女は所謂いじめられっ子でした。没落した元貴族で平民の特待生ですから、貴族令嬢達の憂さ晴らしの恰好の獲物でした。彼女自身、特におとなしい性格でもありませんでしたし、男爵令嬢だった頃にも色々やらかしてはいたようですので、仕返しみたいな嫌がらせをされていました。」
「ケイトは彼女を助けたとか?」
「その通りです。彼女はあのような曲がったことが許せない性格でしたので、いじめに遭っている彼女を見捨てられなかったのでしょう。彼女のそばに置くことで、彼女を守ったのです。ですが、エミリア嬢は調子に乗りました。ケイト様を裏切り、たくさんのことをやらかしました。」
「やらかしとは具体的には?」
「例えば、ケイト様の交友関係に口を出したり、ケイト様の威を借りて、周りを操っていたり、またケイト様の物を勝手に借りたり、彼女の功績を自分との共同のものにしたり、ですね。」
「それは、また……」
デイビスはエミリア・エポックに会ったことはない。妻から聞いたことすらなかった。ただ妻の死を知らせるニュースで聞いただけ。
彼女のことを妻の親友だと思い込んだのは何が原因だったか、思い返してみる。
「リスキー侯爵夫人とは、女学園時代、仲が良かったのですか?」
キンバリー嬢は、少し考えていたが、眉を顰めて首を横に振った。
「リスキー侯爵夫人、ミラ・コーリン子爵令嬢ですわね。彼女は、エミリア嬢と共にケイト様の威を借りていた人物です。性格は派手好きで見栄っ張り。ケイト様の努力を横から掻っ攫うようなまるで寄生虫のような人物ですわ。ただ、リスキー侯爵家には、ほぼ身売りのような形で嫁いでいったようなので、ケイト様は最後の最後に清算なさったのなら、良かったですわ。」
「と言うと、借金があった訳ですか。」
「ええ、リスキー侯爵家の出資しているブティックをご存知?侯爵家の前夫人が、女学園でケイト様の劇を見てからの大ファンで、彼女から色々な情報を仕入れていたそうです。
ケイト様の友人だと言うことで、ドレスを安く融通して貰ったり、ケイト様の好きな形だと言って、会わせる見返りにとドレスを騙し取ったりしていたようです。代金がいくら待っても未払いだった為、ケイト様に初めて話がいって、気がついた、と。
彼女についていた寄生虫については、伯爵の方が詳しいのではありません?
彼女のご家族にも、お会いしたことはあるのでしょう?お兄様のご婚約者に、お会いしたことは?」
ケイトの兄の婚約者には、結婚の際に一度お会いしたことがある。小動物を思わせる見た目に反して獰猛な猛禽類のような視線がアンバランスな感じがして、怖かった。
「あの方も、お兄様と、ケイト様にご執心な様子でしたわ。ケイト様は人を信じることも、利用されることも、どこか諦めているような様子でした。
結婚して、幸せそうにしているのなら、良かったと思っていたのですが。」
リスキー侯爵夫人も、彼方側だったのか。自分の迂闊さに呆れるのは何度目だろう。
目に見えて狼狽えるデイビスをキンバリー嬢は見ないようにしてくれた。
「ああ、申し訳ない。妻が亡くなって、初めてこんな風に話を聞いたのがリスキー侯爵夫人だったのですよ。彼女の話を鵜呑みにして、ケイトのことを考えていたなんて、愚かなことです。」
「彼女は何と?」
「妻は何かを隠しているように見えたと。」
「ああ、それは本当だと思います。私にも彼女は何も言ってはくれませんでしたが。私は、言い出してくれるのを待っていましたが。」
「妻はエミリア嬢にはどんな態度でしたか?」
「されるが儘でしたわね。最初はそれでも仕方ない、と言うように穏やかな目で彼女を見ていたようですが、段々と彼女の行いに興味がなくなっていったようです。ただ先のように、エミリア嬢は彼女に執着していましたから、今思えば痛々しい程には、ケイト様に付き纏っていました。」
ケイトは、彼女自身もそうだが、メイクをとれば幼く見えるあどけない素顔をしていて、年齢よりも若く見える。
「キンバリー・グリーンと申します。ケイト様とは学園で一位を争っておりました。まさか、あのようなことが起きるなんて。……お悔やみを申し上げます。」
彼女は女学園時代の友人ではあったが、ケイトとは常に一緒という訳ではなかった。
「彼女は、何と言いましょうか、人気がありましたから。彼女の周りにいることは、一種のステータスであり、予約制でしたのよ?驚くことに、彼女の親友と名乗っている者達の中には、彼女と話したことのない者達までいたのです。」
「それはまた、何とも……」
「呆れますでしょう?ケイト様もうんざりしておられましたわ。ケイト様からしたら、善意で少し行ったことが、勝手に一人歩きしてしまいまして、困惑しているようでした。」
「それはエミリア嬢との関係とかですか?」
「ええ、そうです。彼女は所謂いじめられっ子でした。没落した元貴族で平民の特待生ですから、貴族令嬢達の憂さ晴らしの恰好の獲物でした。彼女自身、特におとなしい性格でもありませんでしたし、男爵令嬢だった頃にも色々やらかしてはいたようですので、仕返しみたいな嫌がらせをされていました。」
「ケイトは彼女を助けたとか?」
「その通りです。彼女はあのような曲がったことが許せない性格でしたので、いじめに遭っている彼女を見捨てられなかったのでしょう。彼女のそばに置くことで、彼女を守ったのです。ですが、エミリア嬢は調子に乗りました。ケイト様を裏切り、たくさんのことをやらかしました。」
「やらかしとは具体的には?」
「例えば、ケイト様の交友関係に口を出したり、ケイト様の威を借りて、周りを操っていたり、またケイト様の物を勝手に借りたり、彼女の功績を自分との共同のものにしたり、ですね。」
「それは、また……」
デイビスはエミリア・エポックに会ったことはない。妻から聞いたことすらなかった。ただ妻の死を知らせるニュースで聞いただけ。
彼女のことを妻の親友だと思い込んだのは何が原因だったか、思い返してみる。
「リスキー侯爵夫人とは、女学園時代、仲が良かったのですか?」
キンバリー嬢は、少し考えていたが、眉を顰めて首を横に振った。
「リスキー侯爵夫人、ミラ・コーリン子爵令嬢ですわね。彼女は、エミリア嬢と共にケイト様の威を借りていた人物です。性格は派手好きで見栄っ張り。ケイト様の努力を横から掻っ攫うようなまるで寄生虫のような人物ですわ。ただ、リスキー侯爵家には、ほぼ身売りのような形で嫁いでいったようなので、ケイト様は最後の最後に清算なさったのなら、良かったですわ。」
「と言うと、借金があった訳ですか。」
「ええ、リスキー侯爵家の出資しているブティックをご存知?侯爵家の前夫人が、女学園でケイト様の劇を見てからの大ファンで、彼女から色々な情報を仕入れていたそうです。
ケイト様の友人だと言うことで、ドレスを安く融通して貰ったり、ケイト様の好きな形だと言って、会わせる見返りにとドレスを騙し取ったりしていたようです。代金がいくら待っても未払いだった為、ケイト様に初めて話がいって、気がついた、と。
彼女についていた寄生虫については、伯爵の方が詳しいのではありません?
彼女のご家族にも、お会いしたことはあるのでしょう?お兄様のご婚約者に、お会いしたことは?」
ケイトの兄の婚約者には、結婚の際に一度お会いしたことがある。小動物を思わせる見た目に反して獰猛な猛禽類のような視線がアンバランスな感じがして、怖かった。
「あの方も、お兄様と、ケイト様にご執心な様子でしたわ。ケイト様は人を信じることも、利用されることも、どこか諦めているような様子でした。
結婚して、幸せそうにしているのなら、良かったと思っていたのですが。」
リスキー侯爵夫人も、彼方側だったのか。自分の迂闊さに呆れるのは何度目だろう。
目に見えて狼狽えるデイビスをキンバリー嬢は見ないようにしてくれた。
「ああ、申し訳ない。妻が亡くなって、初めてこんな風に話を聞いたのがリスキー侯爵夫人だったのですよ。彼女の話を鵜呑みにして、ケイトのことを考えていたなんて、愚かなことです。」
「彼女は何と?」
「妻は何かを隠しているように見えたと。」
「ああ、それは本当だと思います。私にも彼女は何も言ってはくれませんでしたが。私は、言い出してくれるのを待っていましたが。」
「妻はエミリア嬢にはどんな態度でしたか?」
「されるが儘でしたわね。最初はそれでも仕方ない、と言うように穏やかな目で彼女を見ていたようですが、段々と彼女の行いに興味がなくなっていったようです。ただ先のように、エミリア嬢は彼女に執着していましたから、今思えば痛々しい程には、ケイト様に付き纏っていました。」
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