伯爵夫人を殺したのは誰だ

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美しい花嫁

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ケイトに初めて出会った時のことは、今でもはっきりと覚えている。政略結婚ではあるが、何人かのご令嬢の中から、デイビスが選んだのはケイトだった。他のご令嬢方は、皆事前に聞いていた評判と会った時の印象が殆ど同じだった。違うな、と感じ、興味を持ったのは、ケイト・ブラウンだけだった。

女学園の成績もさることながら、彼女を讃える評判は多くあった。デイビスは本人に会う前は、すっかり気後れしてしまい、そんなに凄いご令嬢を自分が幸せにすることなどできるのかと、悩んでいた。丁重にお断りする為に、言葉を選んでいたのだが、実際に彼女を目の当たりにすると、評判はどうあれ、瞬く間に心を奪われていた。

学生の頃もそうだが、デイビスは気に入った人間にはとことん甘くなるらしい。一目惚れもしやすく、熱は余程のことがない限り冷めることはない。

ケイトとは歳の差があったが、正直貴族の婚姻においては、まだ差は小さい部類だった。彼女と接してみてわかったことは、彼女は完璧と言われる評判の中には見えない可愛らしい部分を普段は隠していると言うこと。

二人だけの茶会では、領内で人気のお菓子をみて、目を輝かせていたり、手入れされ美しく咲いている花よりも、一輪でも逞しく自ら咲いている野花を愛でていたり、初対面の子供に妙に懐かれたり、紙ナプキンで器用に花を作ったり。

淑女の仮面が少しずつ剥がれて、素の自分を見せてくれるごとに、デイビスはケイトを好きになっていく。


デイビスの寝癖を笑いながら綺麗に治してくれたり、毎日ハグしたり、キスをしたりしているのに、いつも顔を赤くするところも可愛くて。


周りからは色々言われても、デイビスはケイトさえ、側にいてくれればそれで良かった。極端な話、ケイトとの子どもは可愛いだろうけれど、子どもは重要ではない。ケイトとの子どもでないと意味がない。

だから、後妻など、取る気はなかった。それならケイトに似た男の子を探し出し、引き取り育てる方がまだマシだ。

愛のない政略結婚なんて、可哀想だと、以前誰かが言った。

だけど、政略結婚だろうが何だろうがお互いに想い合う気持ちを持って接すればいつかは愛が芽生える。デイビスはケイトを愛しているし、その気持ちはケイトがいない今も続いている。ケイトにしたって、面倒なことから、デイビスを守ろうとするぐらいには愛してくれていたのではないか。自惚れだろうか。自分が何も気づかなかったことへの言い訳にすぎないことは百も承知だが、都合の良い解釈だろうか。

ケイトにとって、自分が頼りにならなかったことは自覚している。

うまいことやれていたら、彼女は死なずに済んだかもしれない。

美しい花嫁は、少しの間だけでもデイビスを幸せにしてくれた。自分は彼女に幸せを少しは与えられていただろうか。




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