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別邸で起きたこと③と現在
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ココに怪我はなかった。エミリア嬢が短剣を叩き落としてくれたからだ。それらは一瞬の出来事だったにも関わらず、まるで長い時間をかけて上映された劇のように、ココの目には映った。
侍女は護衛に捕まった。現行犯だから、言い逃れはできない。彼女と一緒に伯爵家に来た人達は、事情聴取はするものの、それだけに終わった。
アントンがいたことも伏せられ、平民のシルバも守られた。ただエポック嬢は叩き落とした短剣をじっと見つめていた。眉間に皺が寄っている。奥様は一言二言エポック嬢に何かを囁いたが、ココには聞こえなかった。
それらのことを別邸の使用人達に教えなかったのは、侍女が一人であれだけの人間を引き入れるとは思えず、誰か手助けした者がいると、踏んだからだ。
案の定、別邸の使用人を纏めているベラが王弟がつれていた男の知り合いで手引きをしたことを認めた。悪質なのは、ベラはその日のアリバイまでも用意していたことだ。その嘘がバレたとしても、王弟が背後にいるのだから、問題ないとさえ思っているのか、反省しているどころか何も問題などないかのように振る舞うその姿をココは恐ろしく感じた。
伯爵家にはたくさんの使用人がいるが、統率が取れているかと言うと、そうではない。旦那様にだって、思うことのある人達がいる一方で、いまだに奥様ないし、前伯爵夫人をも認めていない連中もいるのだ。彼らにとって、主人とは誰になるのだろう。プライドだけ高く、自分がお仕えする主人に敬意すら払えない。
ココは憤慨していたが、どうすることもできない。そんなココに寄り添ってくれたのはやはり、奥様で。奥様はこのままにするつもりも、彼女達をのさばらせる気もなかったのだと、ココは思い知ることとなる。
奥様はココにある指示を出した。馬番のリッキーと言う男を訪ね、「そのまま決行だ。」と伝えるように、と。
「どういう意味ですか?」
「彼女達がやりたかったことをそのままして貰うのよ。貴女はこの短剣で刺されている私を発見し、大声で叫んでね。エミリアは私の為に別の仕事を頼んでいるからそのままで。私はちゃんと死体役を全うするから気にしないで。」
「え?でも、死体役なんて、できる訳ないじゃないですか。危ないですよ。」
「大丈夫。この日のために、彼にお願いしておいたのよね。効果はちゃんと確認済みよ?」
あっけらかんと、晴れた表情で何ら難しいことなどないように、言い含めようとする奥様に、ココは彼女が本来の性格を今まで隠していたことを知った。
「大丈夫。貴女には面倒をかけるけれど、伯爵家を辞めても、伯爵家のために働いてくれるのだから、悪いようにはしないわ。私、これでも稼いでいたから、蓄えはあるの。貴女の人生を私に下さらない?」
ココが知りたかった細部については、奥様はお話にならなかった。それは多分、ココ自身に責任が向かない為にそうしてくれているのだろう。
奥様は危ないことなど、何もない、という。
実際本当に奥様にも、ココ自身にもエポック嬢にも危ないことは何もなかった。
「奥様、いつから計画していたのですか。」
「あの人と婚約が決まったその日からよ。」
ココは、現在国外にいる。勿論奥様と、エポック嬢と一緒だ。生まれてからずっと国の外に出たことなどないココには見るもの全てが驚きの連続だ。
自分は楽しいが、時折見せる奥様の寂しそうな顔が気になる。ご自身ではわかってはいないようだが、多分伯爵に会えないせいだろうと、容易に想像はついた。
「伯爵様に何も言わなくてよかったのですか。」
「あの人、鈍いから心配だけれど、多分いつか会いに来てくれると思うわ。アーサーにはちゃんと伝えているから。」
ココは頼りない印象の伯爵を思い出し、短くため息をつくと、伯爵様の代わりに奥様を守らなくては、という決意を再確認した。
侍女は護衛に捕まった。現行犯だから、言い逃れはできない。彼女と一緒に伯爵家に来た人達は、事情聴取はするものの、それだけに終わった。
アントンがいたことも伏せられ、平民のシルバも守られた。ただエポック嬢は叩き落とした短剣をじっと見つめていた。眉間に皺が寄っている。奥様は一言二言エポック嬢に何かを囁いたが、ココには聞こえなかった。
それらのことを別邸の使用人達に教えなかったのは、侍女が一人であれだけの人間を引き入れるとは思えず、誰か手助けした者がいると、踏んだからだ。
案の定、別邸の使用人を纏めているベラが王弟がつれていた男の知り合いで手引きをしたことを認めた。悪質なのは、ベラはその日のアリバイまでも用意していたことだ。その嘘がバレたとしても、王弟が背後にいるのだから、問題ないとさえ思っているのか、反省しているどころか何も問題などないかのように振る舞うその姿をココは恐ろしく感じた。
伯爵家にはたくさんの使用人がいるが、統率が取れているかと言うと、そうではない。旦那様にだって、思うことのある人達がいる一方で、いまだに奥様ないし、前伯爵夫人をも認めていない連中もいるのだ。彼らにとって、主人とは誰になるのだろう。プライドだけ高く、自分がお仕えする主人に敬意すら払えない。
ココは憤慨していたが、どうすることもできない。そんなココに寄り添ってくれたのはやはり、奥様で。奥様はこのままにするつもりも、彼女達をのさばらせる気もなかったのだと、ココは思い知ることとなる。
奥様はココにある指示を出した。馬番のリッキーと言う男を訪ね、「そのまま決行だ。」と伝えるように、と。
「どういう意味ですか?」
「彼女達がやりたかったことをそのままして貰うのよ。貴女はこの短剣で刺されている私を発見し、大声で叫んでね。エミリアは私の為に別の仕事を頼んでいるからそのままで。私はちゃんと死体役を全うするから気にしないで。」
「え?でも、死体役なんて、できる訳ないじゃないですか。危ないですよ。」
「大丈夫。この日のために、彼にお願いしておいたのよね。効果はちゃんと確認済みよ?」
あっけらかんと、晴れた表情で何ら難しいことなどないように、言い含めようとする奥様に、ココは彼女が本来の性格を今まで隠していたことを知った。
「大丈夫。貴女には面倒をかけるけれど、伯爵家を辞めても、伯爵家のために働いてくれるのだから、悪いようにはしないわ。私、これでも稼いでいたから、蓄えはあるの。貴女の人生を私に下さらない?」
ココが知りたかった細部については、奥様はお話にならなかった。それは多分、ココ自身に責任が向かない為にそうしてくれているのだろう。
奥様は危ないことなど、何もない、という。
実際本当に奥様にも、ココ自身にもエポック嬢にも危ないことは何もなかった。
「奥様、いつから計画していたのですか。」
「あの人と婚約が決まったその日からよ。」
ココは、現在国外にいる。勿論奥様と、エポック嬢と一緒だ。生まれてからずっと国の外に出たことなどないココには見るもの全てが驚きの連続だ。
自分は楽しいが、時折見せる奥様の寂しそうな顔が気になる。ご自身ではわかってはいないようだが、多分伯爵に会えないせいだろうと、容易に想像はついた。
「伯爵様に何も言わなくてよかったのですか。」
「あの人、鈍いから心配だけれど、多分いつか会いに来てくれると思うわ。アーサーにはちゃんと伝えているから。」
ココは頼りない印象の伯爵を思い出し、短くため息をつくと、伯爵様の代わりに奥様を守らなくては、という決意を再確認した。
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