伯爵夫人を殺したのは誰だ

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足取りの妙

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シルバの足取りを追っていくと、不思議なところへ出てしまった。


「あれ、あの馬番の名前、何だったっけ。」

アーサーは目の前に現れた伊達男を一目見て顔を顰めると、「リッキーですね。」と囁いた。

「リッキーは、ケイトを救えなかった自責の念に駆られて辞めた筈だよな?」
「ええ、そう聞いています。」

なら、この昼間から酒を飲んで娼婦を抱え込んでいる羽振の良い男は、何なのか。

「自責の念に耐えかねて、酒を食らっているような」酔い方ではない。明らかにお金をばら撒くような酔い方だ。破滅的ともいえる彼について、恥ずかしい話だが、雇われていることすら知らなかったぐらいだ。しかし、一度ぐらいは挨拶をされていると思う。別邸とは言え、伯爵家に仕えているものは、ケイトが選ぶのだし、彼女ならデイビスに伝え忘れることはない。

なのに、彼に関しては全く雇った覚えがない。今回に限らず、そういうことは多々あった。別邸の今回の事件で辞めていった者の多くは、デイビスが知らない者達だった。

デイビスが知らなくとも、使用人を纏めるベラや、侍女長、アーサーなどとは意思疎通できていたから、いいのだが。

「随分羽振りが良さそうだね。」

騒いでる集団を遠目に、二人店のカウンターに腰を掛ける。

「ああ、今なら奢ってもらえるぜ。漸く金が届いたって大喜びだったからな。まあ、少しヤバい仕事の報酬みたいだから、早く使い切ってしまいたい気持ちもあるんだろうが。」

リッキーとは飲み友達だという人の良さそうな男は、ここだけの話、と少々声を顰め、ある重要なことを教えてくれた。

「あいつ、ちょっと危ない橋を渡っていたみたいでよう。金が入るまではいつ殺されてもおかしくはなかったんだ。ほら、少し前にあっただろう。伯爵夫人が亡くなったとかいう事件。アレにアイツは関わってるんだと。証言するように命令されて、見てないものを見たと言って。ここにも、何度かアイツの元雇い主?とかいうのが来てたんだけど。偉い執念だったよな。可愛らしい顔しながら、罪深いことを。」

「それは証言が嘘だったということか?」
「ああ、夫人の友人に罪を着せるために、仕組まれたことだったらしい。いや、どこの世界も恐ろしいが、勝手に犯人にされるなんて、平民をゴミだと思っている貴族様にありがちな行為だよ。

ま、それがなければこの酒は飲めなかっただろうが。」

男はリッキーに奢って貰ったという酒を美味そうに飲み干すと、二人に興味を失い、別の客に絡んでいた。

「シルバからのメッセージか何かか、コレは。」

あまりにも出来過ぎな舞台裏に、デイビスは頭を抱えた。わかったことは、一つ。

「伯爵家に敵がいるな。もう一度洗い直してみるか。」
デイビスの真横でアーサーが小さく震えた。
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