伯爵夫人を殺したのは誰だ

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ケイト・モリス⑧

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シルバの話した幾つかの物語は、実話だ。シルバは非常に珍しいのだが、何度か人生を体験している。貴族家の庭師だった最初の人生から始まり、漁師、警察官、学生等、様々な経験をしている。彼は今は男性だが、中には女性としての人生を体験したこともあったという。

箱の話は、本当は最後に、一番自分が欲しいものが届くという、結末だった。実際その時に一番欲しかった物は、小さな箱には入りきらなかったらしいがちゃんと届いたという。

大部分の記憶の中の人達はそこまで主張はしないのだが、森島エミリという人生はシルバにとっては、黒歴史と言えるほどの汚点だった。

エミリは、妻子持ちの男と恋仲になり、彼の死後、逆恨みで彼に助けられた女性を殺してしまう。

「彼女は、どうやら僕のことを自分ではなく、啓斗という男だと思っているんだ。そして、自分はケイトの侍女だと思い込んでいる。多分彼女は君の旦那さんに懸想しているようなんだ。旦那さんはモテるタイプだけど、それだけが原因じゃなく、彼女自身が人の男を欲しがるような人なんだと思う。」

シルバの中に、エミリという名前の女性が生きていて、シルバの自我を無視して好き放題していることには、リディとの関係が急に悪くなったことや、マリアの話でわかっていた。

「彼女は、前の人生でも躊躇いなく人を殺してる。今回は君の命を狙ってくると思うんだ。僕が自分の自我を保っていられるうちは大丈夫だけれど、彼女が無理矢理出てきたら、僕一人じゃ、多分制御できない。君達にお願いなんだが、その時は一芝居打って欲しいんだ。彼女を騙す為に。」

御伽話のようなその話は、やっぱり実話で彼女がシルバの中から出てきた時は本当に驚いた。アレが演技なら賞を取れるほどだと思う。

シルバの姿をした彼女は、歪んだ笑顔を浮かべ、品のない態度で横柄に返事をする。こんな態度でケイトの侍女でいる気なんて、馬鹿にされているとしか思えない。

彼女を好きになる人がいること自体が到底信じられずに、ケイトはただ呆然としていたが、それが相手にはケイトを侮っても良いと認識されることとなった。

エミリにとって、男を奪いたいと思う女性の基準は、自分より下だと思える女だ。自分より下の癖に自分より幸せそうな女が許せない、所謂逆恨み。

「奪ったら奪ったで、啓斗に対して来世こそ、という気概もないのだから、特に啓斗を好きだったわけでもないのかもしれない。」

シルバの言う通り、もし彼女が啓斗に固執していたなら、啓斗の記憶持ちのところに真っ先に行くはずだ。何せ王弟の護衛が真っ先に手を挙げた状態なのだから。彼は彼でアントンの都合で前世とは言えなくなっているものの、前世啓斗だったのは彼で間違いない。だってあんなに似ていて他人の空似には無理がある。


「あの時はさっと帰って来てくれてありがとう。」

今のシルバにはシルバしか存在していない。森島エミリという魂は、ナイフの中にケイトの遺体と共に置いて来た。

「いや、それでも上手くいってよかったよ。」

久しぶりのシルバの元気な声に、安堵の溜息を一つ吐くと、伯爵家の様子を思い浮かべた。

「あちらは侍従さんに任せましょ?」

エミリアがケイトの腕を取る。空を見上げると、太陽が真上にあった。

「私がおばあちゃんになる前に来てくれたら良いけど。」

ケイトは自分のお腹に手を当て、体温を感じると、これからの生活をのんびりと考えた。
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