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そして、何も起こらなかった
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学園の卒業式で、第一王子は公爵令嬢をエスコートした。二人は卒業して一年後の婚姻が決まっていて、仲睦まじい様子に周りの卒業生達まで幸せな気持ちになった。
卒業式が終わると、今まで学友として仲良くしていた友人達とは言え、その身分に合った付き合いに変わっていく。
公爵令嬢の友人は、大半は第一王子の側近の婚約者などで、これからも深く付き合っていく人ばかり。対して、第一王子の方も側近と一部の下位貴族を中心に何ら変わりないこれからになりそうだと、思われていた。
第一王子と側近達の集まる隙間に、ふと、違和感を覚える卒業生達。
誰かを忘れているような?
「あら、そういえばあの男爵令嬢は、卒業されていませんの?」
「確か……退学されたのではありませんこと?階段から足を踏み外し、大怪我をされたとか。」
「半年前に休学の末、医療修道院に入られたと聞いたわ。傷は治っているけれど後遺症が残ってしまって、貴族令嬢としてはもう生きていけないから、と。お気の毒ね。あれだけ卒業パーティーに出られることを楽しみにしてらしたのに。」
男爵令嬢の不在に気づいた令嬢達は次々と現れて彼女の近況を噂する。先程まで第一王子が浮かべていた笑顔に翳りが見えるのは、公爵令嬢の気のせいではないだろう。
半年前に学園に通っていた男爵令嬢が不幸な事故にあったのは記憶に新しい。第一王子の隣に居座り、高位貴族の男性ばかりに声をかけて風紀を乱しに乱していた彼女は、階段を踏み外し、大怪我を負って、休学した。
彼女は以前から廊下を走っては転んだり、見ず知らずのご令嬢にぶつかって、傷を負わせたり、非常に落ち着きのない学生だった。
いつかやると思っていた、彼女に苦言を呈していた親切なご令嬢達は、彼女を気の毒に思っていたのと同時に、彼女が復学するのは自分達の卒業後になってほしい、と密かに期待した。
男爵令嬢の名前は知らない。公爵令嬢に挨拶もなかったからだ。彼女は所謂妄言吐きで、「卒業パーティーで、真実を明らかにしましょうね。」とよく言っていた。
実際には、その前にいなくなり、パーティーどころか、卒業も出来なかったのだけれど。彼女が何をしたかったのかはよくわからない。身分を弁えない、下位貴族の令嬢の考えを公爵令嬢が理解できる筈もない。
「彼女、どうしていらっしゃるのかしら。」
ふと呟いた公爵令嬢にわかりやすく顔を歪める第一王子。あらあら、そんなに表情を顔に出すなんて、王太子教育のやり直しかしら?
「どうされました?顔色が悪いようですが。」
「……久しぶりのダンスで疲れたようだ。少し休憩にしようか。」
「ええ、そうですわね。」
飲み物を手渡され、シュワシュワとした炭酸で喉を潤す。ピリッとした刺激があるのは、想定内。
違いに気がついた第一王子は予想以上に慌てている。公爵令嬢は今頃気がついたことに呆れさえ覚えるが、そんなことは胸にしまい、表情は変えない。
幼少期からこの程度の毒には慣れている。第一王子だってきっとそうだろう。なのに、どうしてこんなに狼狽えているのか、と考えて、納得した。
男爵令嬢を害したのは、公爵令嬢だと思っていたのか、と。
そんな訳ないじゃないの。公爵家が男爵家を潰すなら個人ではなく、家ごと潰す。パワーバランスは圧倒的。文句も言われない。それがあんな中途半端な、結果を運任せにするような手段を取るなんて、公爵家を馬鹿にしてるのね。
「お口に合わないようですわね。別のをお持ちしましょうか。」
有無を言わさず新しい飲み物を差し出し、手に掴ませると、にっこりと微笑む。
彼が震えているのはご愛嬌。中々口をつけないのは、それに入っている毒が何なのかがわからないから。
男爵令嬢も生きているのだから、きっと大丈夫ですわよ。後遺症は残るかもしれませんけれど。
公爵令嬢は、お化粧直しにその場を立ち去る。
果たして彼は飲み干すのか、否か。
卒業パーティーは何ごともなく終わる。半年後、立太子の儀が行われ、第一王子が王太子となった。彼の隣には婚約者である公爵令嬢。
国中が彼らの華々しい門出に湧き立っていた。
卒業式が終わると、今まで学友として仲良くしていた友人達とは言え、その身分に合った付き合いに変わっていく。
公爵令嬢の友人は、大半は第一王子の側近の婚約者などで、これからも深く付き合っていく人ばかり。対して、第一王子の方も側近と一部の下位貴族を中心に何ら変わりないこれからになりそうだと、思われていた。
第一王子と側近達の集まる隙間に、ふと、違和感を覚える卒業生達。
誰かを忘れているような?
「あら、そういえばあの男爵令嬢は、卒業されていませんの?」
「確か……退学されたのではありませんこと?階段から足を踏み外し、大怪我をされたとか。」
「半年前に休学の末、医療修道院に入られたと聞いたわ。傷は治っているけれど後遺症が残ってしまって、貴族令嬢としてはもう生きていけないから、と。お気の毒ね。あれだけ卒業パーティーに出られることを楽しみにしてらしたのに。」
男爵令嬢の不在に気づいた令嬢達は次々と現れて彼女の近況を噂する。先程まで第一王子が浮かべていた笑顔に翳りが見えるのは、公爵令嬢の気のせいではないだろう。
半年前に学園に通っていた男爵令嬢が不幸な事故にあったのは記憶に新しい。第一王子の隣に居座り、高位貴族の男性ばかりに声をかけて風紀を乱しに乱していた彼女は、階段を踏み外し、大怪我を負って、休学した。
彼女は以前から廊下を走っては転んだり、見ず知らずのご令嬢にぶつかって、傷を負わせたり、非常に落ち着きのない学生だった。
いつかやると思っていた、彼女に苦言を呈していた親切なご令嬢達は、彼女を気の毒に思っていたのと同時に、彼女が復学するのは自分達の卒業後になってほしい、と密かに期待した。
男爵令嬢の名前は知らない。公爵令嬢に挨拶もなかったからだ。彼女は所謂妄言吐きで、「卒業パーティーで、真実を明らかにしましょうね。」とよく言っていた。
実際には、その前にいなくなり、パーティーどころか、卒業も出来なかったのだけれど。彼女が何をしたかったのかはよくわからない。身分を弁えない、下位貴族の令嬢の考えを公爵令嬢が理解できる筈もない。
「彼女、どうしていらっしゃるのかしら。」
ふと呟いた公爵令嬢にわかりやすく顔を歪める第一王子。あらあら、そんなに表情を顔に出すなんて、王太子教育のやり直しかしら?
「どうされました?顔色が悪いようですが。」
「……久しぶりのダンスで疲れたようだ。少し休憩にしようか。」
「ええ、そうですわね。」
飲み物を手渡され、シュワシュワとした炭酸で喉を潤す。ピリッとした刺激があるのは、想定内。
違いに気がついた第一王子は予想以上に慌てている。公爵令嬢は今頃気がついたことに呆れさえ覚えるが、そんなことは胸にしまい、表情は変えない。
幼少期からこの程度の毒には慣れている。第一王子だってきっとそうだろう。なのに、どうしてこんなに狼狽えているのか、と考えて、納得した。
男爵令嬢を害したのは、公爵令嬢だと思っていたのか、と。
そんな訳ないじゃないの。公爵家が男爵家を潰すなら個人ではなく、家ごと潰す。パワーバランスは圧倒的。文句も言われない。それがあんな中途半端な、結果を運任せにするような手段を取るなんて、公爵家を馬鹿にしてるのね。
「お口に合わないようですわね。別のをお持ちしましょうか。」
有無を言わさず新しい飲み物を差し出し、手に掴ませると、にっこりと微笑む。
彼が震えているのはご愛嬌。中々口をつけないのは、それに入っている毒が何なのかがわからないから。
男爵令嬢も生きているのだから、きっと大丈夫ですわよ。後遺症は残るかもしれませんけれど。
公爵令嬢は、お化粧直しにその場を立ち去る。
果たして彼は飲み干すのか、否か。
卒業パーティーは何ごともなく終わる。半年後、立太子の儀が行われ、第一王子が王太子となった。彼の隣には婚約者である公爵令嬢。
国中が彼らの華々しい門出に湧き立っていた。
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