初恋は叶わないと知っている

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エミリー

元婚約者の知らなかったこと

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エミリーとオリバーの婚約解消は、瞬く間に学園中に広まった。エミリーを悪役のように仕立て上げていた一部の生徒は喜ぶのかと思いきや、まるでお気に入りのおもちゃを取り上げられたかのような不満気な顔をしていた。

公爵は、婚約解消について、エミリーに慰謝料を払ってくれるという。貰えるものは貰っておこうと思ったが、元はと言えばエミリーの家から援助したお金であり、何だか複雑な気分になった。

公爵は、オリバーに対して、以前から少し冷たいような気がしていたが、婚約者を蔑ろにして平民の娘に付き纏っていることを聞いてからは、無表情な顔に青筋が見えるぐらい怒りを露わにしていた。

「エミリー嬢は、その平民の娘を見たことは?」

不貞の証拠集めだろうか。エミリーは少し考えて、首をゆっくりと横に振る。

「嫉妬するのが怖くて、見ないようにしていました。オリバー様にはいつも言われました。彼女は可憐で働き者だと。君は恵まれた環境でそれに甘えているが、彼女は不遇な状況にいても、それに立ち向かう素晴らしい人だと。」

目の端で、エミリーの父が静かに憤っているのが見えた。まるで裕福な環境にいるのが、悪いみたい。自分だって同じ状況にいるくせに。記憶の中のオリバーの得意気な顔は、エミリーを再びうんざりさせた。公爵様はそれには気がつかず、ただ懐かしいような、慈しむような表情を浮かべている。

オリバーには見せない公爵の表情に、エミリーはふと思い出す。そういえば、彼女の母親は公爵家のメイドだったんだわ。

公爵はエミリーと、エミリーの父に対して深くお辞儀をした後、意外なことを話し始めた。

「私は公爵の座を降りようと思うのですよ。」

「それはオリバー様が次期公爵になるということでしょうか?」

エミリーの横で父が焦っている。公爵は首を振り、次期公爵は数年前に平民となった弟に継がせるつもりだと口にした。

「実はオリバーは私の実子ではないのです。だから、彼を後継者にすることはできないのですよ。私には血を分けた娘がいましてね、彼女が望むなら、爵位を継がせようと思っていたのです。聞けば、オリバーと違い娘は優秀らしいし、長い間平民として暮らしていましたが、優秀な彼女なら、教育すれば何とかできるようになるのではないか、と思いましたが。」

「その方は、公爵家に?」

「いや、既に市井に逃げてしまいました。」

エミリーは、公爵がいきなりこの話を赤の他人である自分達の前でしたことに驚いていた。聞かなかったことにはするが、あまり知りたくはない話ではある。エミリーは父と顔を見合わせて、他言無用と、互いに言い聞かせていた。


今回のことでわかったことは、オリバーは公爵家を継ぐつもりだったけれど、公爵は継がせる気はなかったと言うことだ。私は伯爵家があるから、伯爵位を私が彼と結婚しながら継ぐことは可能だったけれど。

公爵が帰ったあと、エミリーは疲れて自室に戻り、倒れ込んだ。いつもならはしたないからしないが、今日ぐらいは許されるだろう。

(意外と簡単なことだったな。)

侍女が入れてくれたお茶を飲みながら、エミリーは暫しぼうっとする。


ここ最近ずっと考えていたオリバーとの婚約がなくなった今、エミリーが考えなくてはならないのは新しい婚約者のことだ。

昨今若い貴族達の間では、幼い頃から婚約を結んでいる者は数えるほどしかいない。これは幼い頃に結んだ婚約の為に、不幸な結婚や、婚約を強いられた令息令嬢が声をあげたことに起因する。

幼い頃に結んだ縁が、何年も経った後では、嬉しいものより、断ち切りたいものに変わることはよくある話だ。それに、何をしても婚約者だから、許されると自分に都合の良い解釈をする者も一定数いたのである。



とは言え、政略結婚がなくなったわけではない。幼い頃からのしがらみを切った結果、寧ろ政略結婚の件数としては増えたぐらいだ。

ある程度大人になってからの方が、家の都合を理解しやすく、相手側の立場を慮り行動し、我儘を通さないからだ。



エミリーははしたなくも、天井を見上げながら、伯爵家に必要な貴族の家を思い浮かべる。だが、疲れていたのか全く頭が働かない。

目を閉じると、ルカの顔が浮かんできて、エミリーは彼に会って、話がしたいと強く思った。




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