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エミリー
王子と王子の婚約者
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エミリーは途方に暮れていた。目の前に広がるのは美しいドレスの山。キャサリンの姉であるターナー伯爵夫人が新たな商売を始めるらしい。山を隔てた隣国であるムルムン国の特産品である布を使ったドレスで、所謂広告塔になってほしい、と着せ替えされている最中だ。
こうしていると、初めてお茶会に呼ばれた時のことを思い出す。エミリーはまだまだ終わらない現状に、現実逃避を始める。
キャサリンの姉、ミシェルは、一時期、第一王子の婚約者として名前があがった才女だが、王妃になると、好きなことが出来なくなる、とさっさとターナー伯爵夫人に収まってしまった。
ターナー伯爵は、奥様を早くに亡くし、それからずっと一人だが、後妻を狙うご令嬢やご婦人から絶大な人気を誇っていた。
どう言う因果かはわからないが、ミシェル様の一目惚れからの縁付きだと言う話で、第一王子としては、おじさんに婚約者候補を奪われた形になって、少しの間、両者には気まずい空気が漂っていたと言う。
第一王子は、その後すぐに小国の姫とやらと婚約をした。その婚約披露パーティーが来週行われる。
エミリーは当初、ルカとパーティーに出るつもりだったが、彼が忙しくなりパーティーのことについても話ができていない、とキャサリンに溢したところ、ここに連れてこられた。
「男性はこちらで用意するから、手伝ってほしい。」
頼まれたら嫌とは言えない性格を熟知されている。キャサリンの婚約者は当日忙しいのでエスコートは従兄弟に頼むらしい。その従兄弟も明らかに大物っぽいのだけれど。
「そんな難しい顔してないで、楽しめば良いのよ。パーティーなんだから。主役を祝えば良いだけよ。多分、第一王子の婚約者の姫様は、このドレスのデザインを気に入ってくれると思うのよね。ムルムン国に興味がある様子だったし。聡明な子だったから。」
「ターナー伯爵夫人は、姫様とお知り合いなんですか?」
「勿論。彼女、この国へ留学していたこともあるぐらいなの。学園時代、私と彼女は何度も交流を深めたわ。とてもおとなしい女性よ。」
エミリーとミシェルの会話を聞いていたキャサリンが怪訝な顔をして入ってきた。
「その今話しているのは、婚約者の方?」
「そうよ。どうして?」
「私が聞いている話と違うから、気になっただけよ。私が聞いた話では、姫様は贅沢三昧、いつでも傍若無人に振る舞って、人によって態度を変える嫌な女だと聞いたわ。」
キャサリンの言葉に心底驚いて、顔を歪めるミシェルは、妹にすら殴りかかりそうな勢いで噂を否定した。
「誰なの、そんな出鱈目な噂を流すのは。」
キャサリンは姉の怒りを宥めながら、続ける。
「まるで人が変わったようだと、第一王子が気落ちしていたと、聞いたのよ。あ、それは側近のカイルにね。」
カイルとは第一王子の側近として、次期宰相と名高い貴族令息だ。
「彼女の名誉の為に話すけれど、彼女はとても良い人よ。だけど、今思えばキャサリンの言った噂は本当かもしれない。彼女は第一王子の婚約者を降りたいのかもしれない。だから、そのように振る舞って、手を離してもらえるのを期待しているのかもね。」
(王子の婚約者を降りたいなんて、できるのかしら。)
「ここだけの話、第一王子と婚約者は、運命の目で、繋がっている、って話よ。」
ミシェルから聞いた話は、一種の伝説に近い、とても信じられない話だった。
こうしていると、初めてお茶会に呼ばれた時のことを思い出す。エミリーはまだまだ終わらない現状に、現実逃避を始める。
キャサリンの姉、ミシェルは、一時期、第一王子の婚約者として名前があがった才女だが、王妃になると、好きなことが出来なくなる、とさっさとターナー伯爵夫人に収まってしまった。
ターナー伯爵は、奥様を早くに亡くし、それからずっと一人だが、後妻を狙うご令嬢やご婦人から絶大な人気を誇っていた。
どう言う因果かはわからないが、ミシェル様の一目惚れからの縁付きだと言う話で、第一王子としては、おじさんに婚約者候補を奪われた形になって、少しの間、両者には気まずい空気が漂っていたと言う。
第一王子は、その後すぐに小国の姫とやらと婚約をした。その婚約披露パーティーが来週行われる。
エミリーは当初、ルカとパーティーに出るつもりだったが、彼が忙しくなりパーティーのことについても話ができていない、とキャサリンに溢したところ、ここに連れてこられた。
「男性はこちらで用意するから、手伝ってほしい。」
頼まれたら嫌とは言えない性格を熟知されている。キャサリンの婚約者は当日忙しいのでエスコートは従兄弟に頼むらしい。その従兄弟も明らかに大物っぽいのだけれど。
「そんな難しい顔してないで、楽しめば良いのよ。パーティーなんだから。主役を祝えば良いだけよ。多分、第一王子の婚約者の姫様は、このドレスのデザインを気に入ってくれると思うのよね。ムルムン国に興味がある様子だったし。聡明な子だったから。」
「ターナー伯爵夫人は、姫様とお知り合いなんですか?」
「勿論。彼女、この国へ留学していたこともあるぐらいなの。学園時代、私と彼女は何度も交流を深めたわ。とてもおとなしい女性よ。」
エミリーとミシェルの会話を聞いていたキャサリンが怪訝な顔をして入ってきた。
「その今話しているのは、婚約者の方?」
「そうよ。どうして?」
「私が聞いている話と違うから、気になっただけよ。私が聞いた話では、姫様は贅沢三昧、いつでも傍若無人に振る舞って、人によって態度を変える嫌な女だと聞いたわ。」
キャサリンの言葉に心底驚いて、顔を歪めるミシェルは、妹にすら殴りかかりそうな勢いで噂を否定した。
「誰なの、そんな出鱈目な噂を流すのは。」
キャサリンは姉の怒りを宥めながら、続ける。
「まるで人が変わったようだと、第一王子が気落ちしていたと、聞いたのよ。あ、それは側近のカイルにね。」
カイルとは第一王子の側近として、次期宰相と名高い貴族令息だ。
「彼女の名誉の為に話すけれど、彼女はとても良い人よ。だけど、今思えばキャサリンの言った噂は本当かもしれない。彼女は第一王子の婚約者を降りたいのかもしれない。だから、そのように振る舞って、手を離してもらえるのを期待しているのかもね。」
(王子の婚約者を降りたいなんて、できるのかしら。)
「ここだけの話、第一王子と婚約者は、運命の目で、繋がっている、って話よ。」
ミシェルから聞いた話は、一種の伝説に近い、とても信じられない話だった。
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