それは私の仕事ではありません

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懐かしい人

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新人騎士の試用期間は終わり、残った騎士は数名となった。エミリアの失態を見た何人かには同情されたものの、新人にはまだまだ下に見られているアネット達。

その後、団長と副団長、他上層部の壮絶な言い争いにより、副団長の書類仕事が多すぎて、仕事が回らないことから、事務専用の人間をつけることになり、更にもう一人副団長を付けることが決定した。元々団長より副団長にかかる負担が多く、検討はずっとされていたらしい。

「誰がやるんだろ?」
「ね。」

ニコルとマリアと雑談しながら、成り行きを見守っていたのに、これはどういうこと?

「いつまで経っても、若い奴等の態度が改善しないから、君達にも役をつけることにしたんだ。爵位の関係で、ニコルが新たな副団長に。補佐官として、マリアとアネットは、新人教育を担って貰うことにした。書類仕事は優秀な文官を回してもらえることになったから、気にしないで。」

新たに入ってきた文官の名を見て、成る程、と納得したのは、それがサイラス・ビースだったから。彼はうちの問題児の新人騎士グリド・ビースの兄で、こちらは宰相補佐を務めるほどの優秀な人材。彼が派遣されたということは、今までの生ぬるい仕事の仕方では絶対にまずいということ。

「ビース子爵家はそもそも、代々文官系の家だからな。勉学の方が壊滅的だった彼が騎士を目指したのは良いが、劣等感が相まって、あんなに偉そうな態度をとるようになってしまったらしい。」

「アネットは、そういえば面識はあったな。」

「ええ、リディア王女の護衛をしておりました際に少し。とはいえ、学園時代の話ですので、もう随分と互いに変わってしまったと思います。」

グリドを見た時に彼を思い出さなかったのはあまりにも二人に似ているところがなかったからだが、学園時代の記憶を思い起こせば、あの頃のサイラスも今のグリドのようにツンケンした生意気な子供だった。

アネットはあの頃、学園内で一番モテていた。女性として一番人気だったのはリディア王女。男性として一番人気だったのはアネット。ん?何で?と思うだろう。アネットは男装していた訳ではない。ただ職務を全うしていた。王女殿下の護衛として、気合いが入りすぎたのだ。王女様には申し訳ないが、アネットとリディア王女の恋物語までもが一部女子に囁かれたぐらいにアネットはまるで王子様のようにチヤホヤされていた。

今でならただの笑い話なのだが、そんなアネットに本物の男性は、白い目で見ていたような気がする。サイラスもその一人で、よく「お前が強いのはわかっているが少しは男の気持ちも考えてくれ。」だの、「ナチュラルに王子様はやめてくれ。」と言われたりした。

どうにもあの頃のアネットは王女殿下だけでなく、全ての人をやたらエスコートしようとしていた。サイラスはいつもそういう自分に反抗し、諌め、ため息ばかりついていた。

アレ?考えてみると私って問題児では?

サイラスも文官系ではあったが、最低限の鍛錬はしていたので、アネットに守られる必要はなかった。

アネットは王女殿下の護衛なので、最終的には彼女以外は放置する。だが、サイラスは良い友人だったので、何となく気にかけていたのだと思う。

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