それは私の仕事ではありません

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逃げ足は早い方

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騎士団に珍しいお客様が来た。蜘蛛の子を散らすように人がいなくなる。新人騎士達も、先輩の見様見真似で隠れて見ていると、現れたのは押しが強そうな、貴族のご婦人だった。ツバの広い大きな帽子が存在をこれでもかと主張している。

運悪く見つかってしまった新人の一人が対応すると、新しい騎士団長に見合いの話を持ってきたという。

「騎士団長はただ今不在にしておりまして。」
「そう。それなら副団長はいらっしゃる?」
「いえ、一緒に出ておりまして。帰りが何時になるかわかりませんが、待たれますか?」
「それなら、こちらをお渡ししてくださる?お見合い写真ですの。」

受け取るだけ受け取ると、婦人は辺りを見渡して、去って行った。

アネットは、一応写真を受け取ると首を傾げる。

「騎士団長ってご婚約を公表されていませんでしたっけ。」
「どうだったかしら。皆知ってるものだと思っていたけれど。」
「知っているのなら、持ってこないですよね?態々。」

見合い写真を持ってきたのは厚化粧の小柄なご婦人だったそう。

「いつものマルク夫人ではないわね。パメラ夫人でもないわ。」

いつもどこからか現れて、騎士のお見合いを企む貴族のご婦人。暇なんですか、と嫌味の一つもいいたくなるくらい、忙しい時に狙ってやってくる。アネットも何度か絡まれたことがある。どういう伝手があるのか裕福な老人の後妻やら、地方の男爵の愛人やら、何故そんな特殊な相手ばかりと詰め寄りたくなるような相手を勧めてくる。

何度か家経由で抗議をしたのだが、本人は良いことをしているつもりの為、会話が噛み合わない。

だから、アネットは婚約者がいることになっている。そんな事実はないけれど、下手に干渉して貰いたくない。


「いつも思うけれど皆何を基準に紹介してくるのかしら。直接公爵家に送らない時点で何かしら後ろ暗い人、という認識になってしまうのよね。」

普通の貴族家に籍を置く騎士ならば、縁談は必ず家を通す。彼女達が如何に善意であっても彼女達の力を借りるのは、自分に価値がないことを認めた人だけ。

「そもそも、二人の結婚を纏めて紹介料をせしめるのでしょう。お金、どれくらいになるのでしょう。」

アネットは一応中身を見るのは躊躇していたのに、ニコルは何も言わずにさっと中身を見た。

「うわ。転んでもタダでは起きないってやつ?執念って恐ろしいわね。」

アネットが端から覗いてみると、そこには見慣れた顔があった。

「エミリア?」

騎士を辞めて何をしてるかと思えば、騎士団長との見合いを狙っていたなんて。修羅場に巻き込まれる未来しか見えない。

「一度痛い目に遭わなければ、あの子の根性は治らないわよ。」

「なら騎士団長には申し訳ないけれど囮になって貰いましょう。」

こうして本人の知らぬ間に着々と、生贄の処遇は決まったのだった。
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