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グリドの良いところ

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「グリドの良いところ……」
駄目だ。全く思いつかない。嘘が下手なアネットの悪いところがこんなところで出るなんてまさか、アネット本人すら思っていなかった。

「恋人の良いところがわからないなんて、……何か妬けるなぁ。そういう何もかもわかってる、みたいな感じ。」

そうなの?

アネットは嘘がいつバレるか気が気でないが、案外上手くいっていることに驚いていた。

「じゃあ、グリド君との馴れ初めは?」

「馴れ初めは……そうね。あれは」

アネットが思い出すのは、憎たらしい生意気なグリドの顔と、おじさん達を味方につけたエミリアのこれまた得意気な顔。

適当に話を合わせるだけのことなのに、エミリアの顔を想像するだけで、昔のことが思い出されてムカムカしてしまう。

アネットの苛立ちの感情を読み取ったのか、「何か機嫌が悪いの、何で?」と言っていたけれど、適当に話を合わせておく。

「モテる男みたいだね。君に嫉妬されるぐらい愛される男なんて、どれだけの凄い騎士なのか、会うのがさらに楽しみになって来たよ。」

彼は何度も此処には来たことがある、と話していた通り、グリドが連れてこられた部屋を見事に当てた。だが、中々入ろうとはせずに、アネットに囁いた。

「君の恋人、ってもしかして、浮気性?女の子と絡み合ってるけど?」

驚いて扉を少し開けて確認すると、男が言ったように女性に抱きつかれているグリドがいた。女性は被害者の一人だろうか。グリドは優しく彼女を諭しながら、寝かしつけている。いつも狂犬のような彼の珍しい姿にアネットは驚きつつもホッとしていた。

「いや、ショックをうけるかと思っていたけど、当てがが外れたな。残念。それにしても彼こんな場所でドレスも脱いで、見つかったらやばいんじゃない?」

男はそう言ったが、アネットは気が付いていた。グリドの騎士服は、所属している団のものではなく、別のデザインをしている。男爵令嬢を助けた騎士が被せた服と同じもの。

確かに見つかったら不味いのは変わらないが、それは仲間が何とかするだろう。

アネットには援軍が来ている。どうにかしてグリドと合流してくれたらしい。

考えるより先に身体が動くのは、騎士ではなくアネットの仕様。何故か男の拘束は、今はアネットには効かず、あっさりと部屋に入ることができた。

グリドがこちらを向いて「アネット」と名を呼ぶ瞬間と、「確保」の声が被ったのも、単なる仕様だ。

グリドに被さるように走り出したアネットをグリドが支えられなくて、倒れ込んだのも、アネットを捕まえようとした客がアネットに引っ張られるように部屋に傾れ込んだのも元からの作戦である。

話は少し先に遡る。

エミリアが騎士団を失格になったその日に。

スエード卿は言った。
「君は騎士に向いていない。だけど、折角の逸材だ。騎士でないならそれで終わりではない。私の元で働いてみないか。」

エミリアには、他の才能があるのでは?それは突然の閃きだった。スエード卿に話を持ちかけたところ二つ返事で乗ってくれた。

騎士団をクビになった落ちこぼれの元騎士のご令嬢。そこに何の価値もない、と皆が勝手に思い込んだのだ。

エミリアは断る選択肢はなかったが、後悔はしていた。面倒なことを避けただけなのに。何でこうなった、と。
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