それは私の仕事ではありません

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女騎士の恋人

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成り行きを見守ると言った。確かにそう言った。アネットはその発言を早くも撤回したい気持ちでいっぱいだ。

いや、私は何を見せられているんだろうか。できるならたくさん情報を持って、彼から逃げ出す算段を立てるつもりだった。

彼はずっと持っていた薬瓶をあれでもない、これでもない、とひっくり返して何かをさがしている。暗闇で判断がつきにくいのか明かりを探してずっと壁伝いに歩いていく。

時折、逃げようとすると、押さえつける力が強まるから、アネットは余計なことを考えるのをやめた。


彼の話によると、ここは他国から人気の市場らしい。労働力と嫁が手に入ると、人気の非合法の市場。元はただの見合いでしかなかったものが、変化したのは騎士を扱うようになってから。

「私も前から利用させてもらってるんだけどね。中々これだってものがなくてね。ご令嬢だとすぐに壊れるし、男性の騎士だと、国に奪われて、私の手元に残らないんだ。女性の騎士だとちょうどいいかと思ったら、当たり外れがあるらしくて。また空振りかと諦めていたんだけど。良かった。君に会えて……私は幸運だ。」

こういう状況でなかったら、アネットも男性から熱烈な愛を乞われて嬉しかっただろう。だが、今は違う。

あの人間らしい人形は、やはり人間らしい。人間を何らかの技術で、人形にして、ソレを操る。彼は奇術師か何かで、今からアネットをこの人形のようにしたいと思っているという。

禍々しい色の飲み物をアネットに飲ませようとしているのだが、うっかりその瓶を落としてしまい、暗闇でもがいている。

彼の側にはたくさんの人形が転がされている。

「いやいや、待たせて申し訳ない。これは君が逃げようとしないなら飲ませないよ。まだ君とは少し話をしたいからね。私はあまり誰とも話をしないんだが、君の声は割と好きだよ。」

「その液体を飲んだら、私もそんな風になるのね?」

「そう。運ぶのは楽になるけれど、それだけだよ。君は今のところ、恐怖で動けないわけでもないし、精神がおかしいわけでも、すぐに逃げようとしているわけでもない。どちらかと言うと、たくさん情報を集めて、援護を待とうとしている。」

「そうね。その通りよ。」

「んー、まだ希望があるね、いいよ、その顔好きだな。もしかして、恋人とか?援護に来るの。」

「貴方に関係ないでしょう?それか気になるの?」

「うん。君が選ぶ男に少し興味はあるよ。だって騎士として君は完璧だから、
それ以外の判断基準が僕にはわからないから。」

ずっと「私」と話していた彼が「僕」になった。素はこちら?それも罠?

「僕さー、君さえ良ければその恋人も国に一緒に連れて行ってあげてもいい、って思ってるんだよ。まあ、その後幸せになるかはわからないけどね。」

勝手に話してくれるのはありがたい。それだけ時間稼ぎもできるし、情報も得られる。

「恋人」と言われて、浮かべた顔によってアネットは落ち着きを取り戻す。

多分来てくれるとしたら、もう少し後。今頃、エリーともう一方が合流している筈。グリドを助ける為に自分が捕まった間抜けを助けるのは後で良い。グリドを助ける時間を稼ぐ為に、アネットは男にある提案をした。

もし嘘だと思っても、騙されてくれるだろうか。これは一種の賭けだったが、男は、了承してくれた。

「意外だね、恋人は年下なの?んー、面白くないけど、彼を助けに行こう。じゃあ、教えてよ、彼の好きなところを。グリド君とやらの、可愛いところをさ。」




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