それは私の仕事ではありません

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やばい奴

連れてこられた先は暗い闇の中。灯一つなく、だけど確実に何かいる。気配だけで強いとわかる。野生の獣?

「あはは。さっきまでと明らかに顔が変わったね。いやあ、君みたいな本物に会えるとはラッキーだったね。さっきの女騎士なんか、怖い怖い助けてって泣いてばかりでまともに動けやしない。あんなので騎士なんて恥ずかしくないのかな。」

「こんなに暗くて周りの様子がわからなければ無理もないと思うわ。それで、私に何をさせたいの?」

アネットは先程すれ違ったエミリアも、同じことをされたのなら、彼女の性格上泣き叫んで戦わないということもある、と考えた。

アネットに対してもそうだった。戦おうとすればエミリアだって充分戦える。だって、学園の騎士科の先生もそこまで甘くはない。少なくとも学生時代のエミリアは何だかんだでちゃんと課題をクリアしたのだもの。筆記はアネットのノートでクリアしても、実技は実力で勝負するしかないのだから。そして、アネットも教わった教師陣は、騎士として命を軽く考える生徒を合格させたりしない。

エミリアは頭の良い子だ。人に迷惑をかけてかけてかけまくっても、自分を大事にできる子。振り回されるのは大変だけど、彼女は生き延びる為に演じた。役に立たない元騎士を。

だけど残念ながらアネットにはそれができない。既に実力が多分バレている。というか。

「貴方もこれをしたの?貴方、騎士でしょう?」

「やっぱりわかるんだね、騎士同士は互いの実力を瞬時に判断するもんね。うーん、やっぱり欲しいな。質問の答えは、難しい。はいともいいえとも言える。私が騎士だとして、どこの騎士かは、君にはわかるかな?」

「それは、……戦ってみないと。」
「あはは。拳でやり合うって奴?君、黙っていると美人なのに、残念って言われない?ま、私は好きだけどね。」

話しているうちに目が慣れてきた。意外なことに闇の中感じた気配は獣、ではなかった。

「人間?」
「うふふ、どうだろうね?」

アネットは、間合いを十分に取ると、意識を男から、その人間に集中させる。

それは少し緊張しているように見える。目が慣れてきて、漸くソレが何か、わかる。

「え?」

人間だと思ったものは、何の変哲もない、ただの人形。人形?人形にしては、随分と人間らしい……

「何これ。」

男はやはり凄い力で、アネットを押さえつけた。いや、彼は先程いた位置から動いてさえいない。

「は?」

「うふふ。君みたいな完璧な女騎士を探していたんだよ。これからは私がご主人様だ。泣いても喚いても君ならいいよ。楽しく末長く暮らそうね。」

アネットは自分が失敗したことを知った。とりあえず、様子を見て、援軍を待つことにした。

「何だ、あんまり怯えないんだね、つまんない。」

男は、おかしな言動を繰り返していたが、相当の実力者。しかも多分異国の者。

先程表にいた客の中で、よりにもよって、一番変な奴を引き当ててしまった。くじ運の悪さにため息をついて、呼吸を整える。

だけど、アネットはそこまで悲観していなかった。何故ならば先生がそこまできているから。先生に会わずに自分が耐えられるとは思わない。火事場の馬鹿力とやらに期待して、今は成り行きを見守ることにした。

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