4 / 20
第4話 生まれる場所、そして、死ぬ場所
しおりを挟む
それは愛知県新城市に位置する廃病院だった。今から約90年前に誕生した病院だが病院周辺の人口が年々減少し、今から約20年前に倒産した。名前を堀田病院という。たくさんの人を迎え、たくさんの人を見送ってきたこの病院では近年、心霊スポットとして有名である。
「廃病院で遺体ですか。」
久野隆は山田幸助と加納マリアとともにテレビを見ている。
「死因は転落死らしいな。夜、廃病院に肝試しに行って穴に気づかず落ちて死んだってとこだろうな。」
「被害者の名前は小浜圭史というそうですねぇ。」
マリアはなにか引っかかっている。
「小浜圭史って聞いたことがあります。」
「おお!知っているのか?ヤクザだよ。反社会勢力の王道組の人だってさ。しかしよく知ってるね。」
「新聞で見たんだったかな。」
「1年前に詐欺罪で逮捕されたんだってな。未成年ってこともあって釈放されたらしいけど。反社会勢力とつるんでいたそうだ。」
「しかし、疑問が生まれました。」
「なんだよ?疑問って?」
山田が聞くと
「反社会勢力に属しているいわいるヤクザが1人で廃病院に肝試しとはあまり考えにくいです。」
「だれか連れがいたんじゃないですか?で小浜さんが死んじゃって、怖くなって逃げたとか。」
マリアが隆の疑問にそう答えた。
「ええ、僕もそう思うのですが人数が多ければ多いほど反社会勢力の人たちがわざわざ夜中に廃病院に行ってすることが肝試しだけとは考えにくいんですよ。反社会勢力というのは不正に利益を計上しようとします。となると廃病院でなにか金になるものを探していたのかもしれませんねぇ。」
「つまり、単なる肝試しというわけではなかったということですか。」
「ええ、僕はそう思うのですがねぇ。とりあえず、行ってみましょう。」
マリアと隆は部屋から出て行った。山田それを見送る。
「いってらっしゃい。気をつけてな。」
堀田病院のある新城市は相当遠い。まず最寄りの大曽根駅から電車に乗り、金山総合駅まで行く。乗り換えをし、また乗り換えを何度も繰り返すとJR飯田線にたどり着く。飯田線で山奥の秘境駅まで乗り、そこで降りた。電車は3時間に1本しかなく、帰りが不安になる。
堀田病院はその駅から徒歩5分程度のところにありかなり規模のでかい病院だ。
「こないだの放浪閣よりもひどいですね。」
「ええ、反社会勢力の人々によって破壊され尽くし、見るも無残な状態となってしまっています。」
病院の正面玄関には病院閉院のお知らせの張り紙が張られていた。
「ちょっと入ってみましょう。」
隆はそういって病院の中に入ったが不法侵入は違法行為だ。まあ廃墟に侵入して逮捕されるケースというのは数は少ないが。
「怖い。」
マリアは震える。現在の時刻は午前10時30分ごろで外は明るく、日がさして暑いが病院の中は薄暗く、肌寒い。いたるところの窓ガラスが割られており、病院事務所は書類や機械などが散らかっており足の踏み場もない。それに雨漏りもしていて病院の中はとてもいい匂いとはいえない。
「隆さん、怖いです。」
マリアは隆にくっつきながら行動している。
「別に無理についてこなくてもいいのですよ。怖いのであれば病院を出て帰ってもらって結構です。」
「せっかくここまで来たんですから。お供しますよ。」
「書類ですねぇ。」
事務所には大量の書類の山が積まれている。
「何の書類ですかね?」
マリアが書類を見ると
「え?これって。」
マリアは固まってしまった。
「ちょっと見せてください。」
隆はそういって紙を見ると
「これは履歴書ですね。当時の医療従事者のもののようです。」
「めちゃくちゃ個人情報じゃないですか。こんなの病院に残して行っていいのでしょうか?」
「普通なら処分しますねぇ。処分する時間がなかったか、処分する余裕がなかったか。」
「こんな大事なの処分してもらわないと困りますよね。」
「ええ。」
2人は足を進めて病院の奥の方まで入っていく。
「うわ!手術室!」
「そのようですねぇ。」
手術室には医療器具や患者が横になる台のようなものが生々しく残されている。
「ここでお腹を開いたんですね。」
「ええ、助かる人も助からぬ人もここで治療を受けたのでしょうねぇ。」
「それにしてもこの落書き、不謹慎すぎません?」
マリアは手術室の壁面に描かれている女性のお腹が切り刻まれているというような落書きを見てそういった。
「ええ、人の命を扱っていた場所でこのような絵とは。不届き者がいるようですねぇ。」
「これも反社会勢力の連中のしわざなんですかね?」
「恐らくそうでしょうねぇ。廃病院に限らず廃墟で金になるものを探して、そのついでにこのような落書きを書いたり窓ガラスなどを破壊したりしているのでしょう。」
「なんてやつらだ。」
「彼らは病院を人の死ぬ場所という認識をしています。」
隆は語りだす。
「たしかに病院は人が最期を迎える場所です。しかし、生まれる場所でもある。死んだ分だけ、生まれるんです。そちらの事を考えず一方的な解釈をしているからこのような落書きはできるのでしょうねぇ。」
「そうですね。ところで、ヤクザたちが探していたという金になる物って一体、何なんでしょう?」
「さあ、まだわかりません。」
隆にもわからないことがあるのだとマリアは感じた。
「もう少し病院を見てみましょう。」
トイレは便座や小便器が粉々に粉砕されておりなんとも無残な状態だった。
「ここが小浜圭史が転落死した場所みたいですよ。」
病院内を歩いているとようやく小浜圭史が転落死した場所にたどり着いた。床には正方形の穴がある。この正方形の穴は天井にもあって上の階へも穴が続いている。夜来たらまず気が付かないだろう。
「この正方形の穴は何なのでしょうねぇ。」
隆はそういって考え込んでいる。
「何者かが掘って小浜がそこから落ちるように誘導したとかですかね?つまり殺人なんじゃないですかね?」
隆は考え込んでいて、返事はない。
「なるほど。そういうことでしたか。反社会勢力の人たちが何を求めていたかが分かりました。」
「え?なんです?」
マリアは興味津々だ。
「まずこの穴から説明しましょう。この穴は解体業者が掘ったものだと思います。建物を解体するにはまず、建物内にある道具や物などを片付けなくてはなりません。上の階にある物は片付けが面倒です。そのため、穴を掘って物を落としてしまおうというアイデアの元、掘られた穴だと考えます。しかし、この規模の病院となると解体には相当な費用が掛かります。解体は断念され、そのまま放置され、この穴だけが残っているのでしょう。そしてそこに小浜が落ちた。つまり、小浜は事故死だったんです。」
「小浜達反社会勢力の人たちがこの廃病院で求めていたものはなんです?」
「恐らく金属と個人情報でしょう。蛇口などの金属類は盗って売れば結構なお金になりますからねぇ。建物を壊して金属類を集めていたのでしょう。そして反社会勢力というのは詐欺グループです。先程見た履歴書にかいてある電話番号をもとに詐欺をしようと考えたのでしょう。」
「なるほど。小浜はそのような目的で仲間と暴れまわって転落死したってことですね?」
「ええ、」
「じゃあ事件じゃなくて事故ですから捜査する必要はありませんね。」
「今のところは、ですがね。」
「これから何かあるかもしれませんね。」
マリアはそういうと、意味ありげな表情で隆を見つめる。
「飯食いに行きましょう。」
飯を食うといってもここは新城の山奥、お店は一軒もない。駅前に蕎麦屋があるのがありがたかった。
「何にします?」
蕎麦屋に入ると店を経営している年配の男性が水を持ってきてくれた。
「僕は山菜そばにします。」
「じゃあ私も山菜そばにします。すみませーん。」
マリアが呼ぶと水を持ってきてくれた男性が戻ってきた。
「注文ですか?」
「はい。えーっと、山菜そばを2つください。」
「山菜そばですね。分かりました。少々お待ちください。」
男性は戻っていった。
「蕎麦ってなんか物足りなくありません?ラーメンとかの方が私は好きですね。」
「ならば食べなければいいではありませんか。」
「そういわれると困りますけど。」
「蕎麦は健康にいいと聞きますからねぇ。僕は一切物足りなさを感じることはありませんが。」
「はーい。山菜そばでーす。」
蕎麦が来た。随分早い。
「いただきまーす。」
マリアはそういうと麺をそそりだす。
「おいしいですね。この地域ならではの蕎麦なのでしょうか?」
「かもしれませんね。」
2人は30分ほどで蕎麦を食べ終わると店を出た。
「そろそろ帰りますか。」
隆がそう言って駅に向かおうとすると
「えー、もう帰るんですか。もうちょっと探検しましょうよ。」
「そうすると家に帰るころには夜ですよ。」
「確かにそうですね。帰りますか。」
「ええ、」
運よく電車が来る時間ぴったりに駅に着いた。
山田の家に戻ると山田がいた。
「おお、お帰り。どうだった。堀田病院は。」
「小浜圭史は事故死だったのだと思います。」
「そうみたいだな。警察も事故死として処理するらしい。」
「夜中には病院は修羅場と化しているでしょうねぇ。」
隆はそういった。
「どういうことですか?」
「警察が夜中、張り込みをしているのだと思いますよ。」
「そうなんですか?」
「一度遺体が見つかっているものですからねぇ。警察の警備体制も強化されると思いますよ。」
隆の予想は当たっていた。
「来たぞ。」
北野と沢村は堀田病院の近くに車を駐車させ、暴力団の出入りがないか張り込んでいた。
奴らが来た。
「いくぞ。」
北野と沢村が車から飛び出した。他の刑事も続々と車から出てくる。
連中は病院内を荒らしまくっていた。机をなげたりブラウン管テレビを野球バットで殴りつけて壊したりなどやりたい放題だ。
「やめろ!警察だ!」
北野が叫んだ。
「なんだお前ら!」
連中は金属バットなどの武器があることを良いことに、北野たちに襲い掛かってきた。
北野たちは必死に戦った。病院は広いので数名取り逃がすことは仕方のないことだ。連中は石やいすなどを投げてくる。もはや殺す気だ。北野と沢村は廊下に置いてあったソファアを盾にして前に進む。連中の投げるものがひどくなった。ガラスブロックを投げてくる。しかし北野と沢村はひるむことなく突撃した。見事連中を確保した。
「住居侵入罪と公務執行妨害で逮捕する!」
翌朝いつものように隆は山田の家に行った。マリアが先に来ていた。
「おはようございます。」
山田はいない。1階でゲームをしているようだ。
「隆さんの読み通り、例の暴力団の連中、昨夜逮捕されたそうですよ。」
「王道組ですか?」
「はい。」
「逮捕された人物から小浜圭史について聞き出せるかもしれませんね。」
「だといいですね。」
隆は買ってきたサイダーのキャップを開けて、飲みだした。
「一度、王道会の方にも話を聞いてみたいですねぇ。」
「相手は暴力団ですよ。リスクが高すぎますよ。」
「それは分かっています。北野さんたちと一緒に行きましょう。」
「小浜圭史は事故死ってことで片が付いているのですがねぇ。」
「我々も事故死ということに異論はありません。王道会は小浜圭史の死についてどう対応するのか知りたくて。」
「しゃーないな。沢村。行くぞ。」
「はい。」
王道会のアジトは3階建てのビルだった。
中に入るとヤクザがこっちを見つめてくる。
「なんだお前ら。」
「警察だ。」
「警察?俺たちを捕まえに来たのか?」
「いえいえ、そういうわけではありませんよ。」
隆が割って入った。
「隆さんは入ってこないでください。」
そうすると中から男が出てきた。
「警察の方ですか?私、王道会副組長の熊川五郎と申します。」
「愛知県警の北野です。」
「同じく沢村です。」
「そこの2人は?」
熊川は隆とマリアのことが気になったらしい。
「お気になさらず。今日は話が聞きたくて参りました。」
沢村はそういってごまかした。
「まあ、どうぞ。」
熊川はそういうと4人を案内した。
「話というのは?」
「亡くなった小浜圭史さんなんですがね?そちらではどう対応するのか知りたくてお伺いしました。」
北野と沢村は横で隆と熊川とのやり取りを見つめている。
「小浜圭史さんのことは残念で仕方ありません。うちの連中が夜中に廃病院なんかいって暴れまわるから。」
「その廃病院にある金属類や個人情報が小浜さんたちの目当てだったのですね?」
「そんなことやめた方が良いのに。」
「おや、詐欺などの犯罪にも反対ですか?」
「ええ、この王道会にいる若者たちは生活に困った人たちの集まりです。そんな人たちに犯罪に手を染めさせるなんて僕にはできません。そうなんども訴えてきました。」
「だれに訴えたのですか?」
「組長の三方国吉に訴えました。」
王道会の組長、つまりトップは三方国吉というらしい。
「あなたはその三方さんにどのような提案をしたのですか?」
「うちは贋作を作って販売するようなこともやっていたので、新しい絵画を描いて売って儲けようという、いわゆる、違法行為をせずに利益を上げるという王道会内での改革をしようと提案しました。しかし三方は従来のやり方で儲けなければ王道会の会員から批判が上がりかねないといわれました。」
「なるほど。よくわかりました。ありがとうございました。北野さん、何か聞きたいことがあったらどうぞ。我々はこれで失礼します。」
「聞くことなんて何にもねーよ。沢村、行くぞ。」
北野たちと別れた隆とマリアは山田の家へと帰っていた。
その途中、マリアは隆に話しかけた。
「あの熊川さんという人、いい人みたいですね。」
「良い人かどうかはわかりませんが、反社会勢力を違法なことをして金儲けをするのではなく、普通の会社と同じようにして利益を上げる組織にしようと必死に改革を訴えていたのは事実のようですねぇ。」
隆とマリアが山田の家に着くと、テレビがついていた。ニュース番組が付いていてニュースキャスターが
「王道会の会員が再び逮捕されました。容疑は愛知県瀬戸市や、北名古屋市などにある廃墟に侵入したことです。王道会会員は昨夜も愛知県新城市の廃業した病院に侵入した容疑で逮捕されており、王道会には警察の監視の目が向けられている模様です。」
「そんな熊川さんの思いとは裏腹にどんどん過激になっていきますね。王道組。」
「熊川さんなどの幹部ですら彼らの暴走を止めることはできないのかもしれませんねぇ。」
「熊川さん、かわいそうですね。会員のために改革を訴えてきたのに会員の動きが活発になって組長からも反対されて。」
「改革をするときというのは必ず反対意見があります。むしろ反対意見の方が多いと思いますよ。従来の方法に付き従おうとする人間は多数いますからねぇ。」
「明日、また熊川さんを訪ねてみましょう。これ以上の暴走はなんとしても食い止めなければなりません。」
翌日隆とマリアは早速、王道組へ行った。今度は北野も沢村もいない。
「失礼します。熊川さんはいますか?」
「あいつならまだ来てねーよ。」
中から男が1人出てきてそう答えた。
「そうですか。失礼します。」
「ちょっと待て!」
男が隆とマリアを呼び止めた。
「お前ら、昨日からいろいろ嗅ぎまわってるみたいだが、いずれ痛い目に合うことになるよ。」
「あなた、三方さんですね。」
「よくわかったね。」
「痛い目に合うのはあなた方の方です。あなた方の犯罪は必ず暴かれます。」
「いい度胸しているじゃねーか。小僧。」
「今ここで我々を殺したり殴ったりしたいのであればどうぞご自由に、しかし、後で痛い目に合うのはあなたですよ。」
「なんだと!」
「では失礼します。」
隆が立ち去ろうとすると、
「ああ、最後に1つだけ。私はあなた方の犯罪を暴いて、必ずや、首を取ります。」
王道組から出てきた隆とマリアは北野に電話した。
「北野さんですか?至急、昨日の熊川さんの自宅を調べて向かってください。彼は自らの命を絶つつもりかもしれません。急いでください。」
隆はそういって電話を切ると山田の家に帰って熊川についての情報を待った。
「熊川が死にました。」
北野から電話がかかってきた。一歩間に合わなかったようだ。
「そうですか。自殺で間違いなさそうですか。」
「ええ、首をつっていましたよ。」
「分かりました。どうもありがとう。」
「熊川さんが亡くなりました。」
隆は残念そうにいう。
「なんででしょうか?」
「恐らく、自分の力で若者の暴走を止められなかったことに責任を感じたのでしょう。」
「悲しいですね。」
「ええ、しかし、僕は王道組の人たちを許す気はありません。近いうちに首を取ります。」
隆はそう強く誓った。
「廃病院で遺体ですか。」
久野隆は山田幸助と加納マリアとともにテレビを見ている。
「死因は転落死らしいな。夜、廃病院に肝試しに行って穴に気づかず落ちて死んだってとこだろうな。」
「被害者の名前は小浜圭史というそうですねぇ。」
マリアはなにか引っかかっている。
「小浜圭史って聞いたことがあります。」
「おお!知っているのか?ヤクザだよ。反社会勢力の王道組の人だってさ。しかしよく知ってるね。」
「新聞で見たんだったかな。」
「1年前に詐欺罪で逮捕されたんだってな。未成年ってこともあって釈放されたらしいけど。反社会勢力とつるんでいたそうだ。」
「しかし、疑問が生まれました。」
「なんだよ?疑問って?」
山田が聞くと
「反社会勢力に属しているいわいるヤクザが1人で廃病院に肝試しとはあまり考えにくいです。」
「だれか連れがいたんじゃないですか?で小浜さんが死んじゃって、怖くなって逃げたとか。」
マリアが隆の疑問にそう答えた。
「ええ、僕もそう思うのですが人数が多ければ多いほど反社会勢力の人たちがわざわざ夜中に廃病院に行ってすることが肝試しだけとは考えにくいんですよ。反社会勢力というのは不正に利益を計上しようとします。となると廃病院でなにか金になるものを探していたのかもしれませんねぇ。」
「つまり、単なる肝試しというわけではなかったということですか。」
「ええ、僕はそう思うのですがねぇ。とりあえず、行ってみましょう。」
マリアと隆は部屋から出て行った。山田それを見送る。
「いってらっしゃい。気をつけてな。」
堀田病院のある新城市は相当遠い。まず最寄りの大曽根駅から電車に乗り、金山総合駅まで行く。乗り換えをし、また乗り換えを何度も繰り返すとJR飯田線にたどり着く。飯田線で山奥の秘境駅まで乗り、そこで降りた。電車は3時間に1本しかなく、帰りが不安になる。
堀田病院はその駅から徒歩5分程度のところにありかなり規模のでかい病院だ。
「こないだの放浪閣よりもひどいですね。」
「ええ、反社会勢力の人々によって破壊され尽くし、見るも無残な状態となってしまっています。」
病院の正面玄関には病院閉院のお知らせの張り紙が張られていた。
「ちょっと入ってみましょう。」
隆はそういって病院の中に入ったが不法侵入は違法行為だ。まあ廃墟に侵入して逮捕されるケースというのは数は少ないが。
「怖い。」
マリアは震える。現在の時刻は午前10時30分ごろで外は明るく、日がさして暑いが病院の中は薄暗く、肌寒い。いたるところの窓ガラスが割られており、病院事務所は書類や機械などが散らかっており足の踏み場もない。それに雨漏りもしていて病院の中はとてもいい匂いとはいえない。
「隆さん、怖いです。」
マリアは隆にくっつきながら行動している。
「別に無理についてこなくてもいいのですよ。怖いのであれば病院を出て帰ってもらって結構です。」
「せっかくここまで来たんですから。お供しますよ。」
「書類ですねぇ。」
事務所には大量の書類の山が積まれている。
「何の書類ですかね?」
マリアが書類を見ると
「え?これって。」
マリアは固まってしまった。
「ちょっと見せてください。」
隆はそういって紙を見ると
「これは履歴書ですね。当時の医療従事者のもののようです。」
「めちゃくちゃ個人情報じゃないですか。こんなの病院に残して行っていいのでしょうか?」
「普通なら処分しますねぇ。処分する時間がなかったか、処分する余裕がなかったか。」
「こんな大事なの処分してもらわないと困りますよね。」
「ええ。」
2人は足を進めて病院の奥の方まで入っていく。
「うわ!手術室!」
「そのようですねぇ。」
手術室には医療器具や患者が横になる台のようなものが生々しく残されている。
「ここでお腹を開いたんですね。」
「ええ、助かる人も助からぬ人もここで治療を受けたのでしょうねぇ。」
「それにしてもこの落書き、不謹慎すぎません?」
マリアは手術室の壁面に描かれている女性のお腹が切り刻まれているというような落書きを見てそういった。
「ええ、人の命を扱っていた場所でこのような絵とは。不届き者がいるようですねぇ。」
「これも反社会勢力の連中のしわざなんですかね?」
「恐らくそうでしょうねぇ。廃病院に限らず廃墟で金になるものを探して、そのついでにこのような落書きを書いたり窓ガラスなどを破壊したりしているのでしょう。」
「なんてやつらだ。」
「彼らは病院を人の死ぬ場所という認識をしています。」
隆は語りだす。
「たしかに病院は人が最期を迎える場所です。しかし、生まれる場所でもある。死んだ分だけ、生まれるんです。そちらの事を考えず一方的な解釈をしているからこのような落書きはできるのでしょうねぇ。」
「そうですね。ところで、ヤクザたちが探していたという金になる物って一体、何なんでしょう?」
「さあ、まだわかりません。」
隆にもわからないことがあるのだとマリアは感じた。
「もう少し病院を見てみましょう。」
トイレは便座や小便器が粉々に粉砕されておりなんとも無残な状態だった。
「ここが小浜圭史が転落死した場所みたいですよ。」
病院内を歩いているとようやく小浜圭史が転落死した場所にたどり着いた。床には正方形の穴がある。この正方形の穴は天井にもあって上の階へも穴が続いている。夜来たらまず気が付かないだろう。
「この正方形の穴は何なのでしょうねぇ。」
隆はそういって考え込んでいる。
「何者かが掘って小浜がそこから落ちるように誘導したとかですかね?つまり殺人なんじゃないですかね?」
隆は考え込んでいて、返事はない。
「なるほど。そういうことでしたか。反社会勢力の人たちが何を求めていたかが分かりました。」
「え?なんです?」
マリアは興味津々だ。
「まずこの穴から説明しましょう。この穴は解体業者が掘ったものだと思います。建物を解体するにはまず、建物内にある道具や物などを片付けなくてはなりません。上の階にある物は片付けが面倒です。そのため、穴を掘って物を落としてしまおうというアイデアの元、掘られた穴だと考えます。しかし、この規模の病院となると解体には相当な費用が掛かります。解体は断念され、そのまま放置され、この穴だけが残っているのでしょう。そしてそこに小浜が落ちた。つまり、小浜は事故死だったんです。」
「小浜達反社会勢力の人たちがこの廃病院で求めていたものはなんです?」
「恐らく金属と個人情報でしょう。蛇口などの金属類は盗って売れば結構なお金になりますからねぇ。建物を壊して金属類を集めていたのでしょう。そして反社会勢力というのは詐欺グループです。先程見た履歴書にかいてある電話番号をもとに詐欺をしようと考えたのでしょう。」
「なるほど。小浜はそのような目的で仲間と暴れまわって転落死したってことですね?」
「ええ、」
「じゃあ事件じゃなくて事故ですから捜査する必要はありませんね。」
「今のところは、ですがね。」
「これから何かあるかもしれませんね。」
マリアはそういうと、意味ありげな表情で隆を見つめる。
「飯食いに行きましょう。」
飯を食うといってもここは新城の山奥、お店は一軒もない。駅前に蕎麦屋があるのがありがたかった。
「何にします?」
蕎麦屋に入ると店を経営している年配の男性が水を持ってきてくれた。
「僕は山菜そばにします。」
「じゃあ私も山菜そばにします。すみませーん。」
マリアが呼ぶと水を持ってきてくれた男性が戻ってきた。
「注文ですか?」
「はい。えーっと、山菜そばを2つください。」
「山菜そばですね。分かりました。少々お待ちください。」
男性は戻っていった。
「蕎麦ってなんか物足りなくありません?ラーメンとかの方が私は好きですね。」
「ならば食べなければいいではありませんか。」
「そういわれると困りますけど。」
「蕎麦は健康にいいと聞きますからねぇ。僕は一切物足りなさを感じることはありませんが。」
「はーい。山菜そばでーす。」
蕎麦が来た。随分早い。
「いただきまーす。」
マリアはそういうと麺をそそりだす。
「おいしいですね。この地域ならではの蕎麦なのでしょうか?」
「かもしれませんね。」
2人は30分ほどで蕎麦を食べ終わると店を出た。
「そろそろ帰りますか。」
隆がそう言って駅に向かおうとすると
「えー、もう帰るんですか。もうちょっと探検しましょうよ。」
「そうすると家に帰るころには夜ですよ。」
「確かにそうですね。帰りますか。」
「ええ、」
運よく電車が来る時間ぴったりに駅に着いた。
山田の家に戻ると山田がいた。
「おお、お帰り。どうだった。堀田病院は。」
「小浜圭史は事故死だったのだと思います。」
「そうみたいだな。警察も事故死として処理するらしい。」
「夜中には病院は修羅場と化しているでしょうねぇ。」
隆はそういった。
「どういうことですか?」
「警察が夜中、張り込みをしているのだと思いますよ。」
「そうなんですか?」
「一度遺体が見つかっているものですからねぇ。警察の警備体制も強化されると思いますよ。」
隆の予想は当たっていた。
「来たぞ。」
北野と沢村は堀田病院の近くに車を駐車させ、暴力団の出入りがないか張り込んでいた。
奴らが来た。
「いくぞ。」
北野と沢村が車から飛び出した。他の刑事も続々と車から出てくる。
連中は病院内を荒らしまくっていた。机をなげたりブラウン管テレビを野球バットで殴りつけて壊したりなどやりたい放題だ。
「やめろ!警察だ!」
北野が叫んだ。
「なんだお前ら!」
連中は金属バットなどの武器があることを良いことに、北野たちに襲い掛かってきた。
北野たちは必死に戦った。病院は広いので数名取り逃がすことは仕方のないことだ。連中は石やいすなどを投げてくる。もはや殺す気だ。北野と沢村は廊下に置いてあったソファアを盾にして前に進む。連中の投げるものがひどくなった。ガラスブロックを投げてくる。しかし北野と沢村はひるむことなく突撃した。見事連中を確保した。
「住居侵入罪と公務執行妨害で逮捕する!」
翌朝いつものように隆は山田の家に行った。マリアが先に来ていた。
「おはようございます。」
山田はいない。1階でゲームをしているようだ。
「隆さんの読み通り、例の暴力団の連中、昨夜逮捕されたそうですよ。」
「王道組ですか?」
「はい。」
「逮捕された人物から小浜圭史について聞き出せるかもしれませんね。」
「だといいですね。」
隆は買ってきたサイダーのキャップを開けて、飲みだした。
「一度、王道会の方にも話を聞いてみたいですねぇ。」
「相手は暴力団ですよ。リスクが高すぎますよ。」
「それは分かっています。北野さんたちと一緒に行きましょう。」
「小浜圭史は事故死ってことで片が付いているのですがねぇ。」
「我々も事故死ということに異論はありません。王道会は小浜圭史の死についてどう対応するのか知りたくて。」
「しゃーないな。沢村。行くぞ。」
「はい。」
王道会のアジトは3階建てのビルだった。
中に入るとヤクザがこっちを見つめてくる。
「なんだお前ら。」
「警察だ。」
「警察?俺たちを捕まえに来たのか?」
「いえいえ、そういうわけではありませんよ。」
隆が割って入った。
「隆さんは入ってこないでください。」
そうすると中から男が出てきた。
「警察の方ですか?私、王道会副組長の熊川五郎と申します。」
「愛知県警の北野です。」
「同じく沢村です。」
「そこの2人は?」
熊川は隆とマリアのことが気になったらしい。
「お気になさらず。今日は話が聞きたくて参りました。」
沢村はそういってごまかした。
「まあ、どうぞ。」
熊川はそういうと4人を案内した。
「話というのは?」
「亡くなった小浜圭史さんなんですがね?そちらではどう対応するのか知りたくてお伺いしました。」
北野と沢村は横で隆と熊川とのやり取りを見つめている。
「小浜圭史さんのことは残念で仕方ありません。うちの連中が夜中に廃病院なんかいって暴れまわるから。」
「その廃病院にある金属類や個人情報が小浜さんたちの目当てだったのですね?」
「そんなことやめた方が良いのに。」
「おや、詐欺などの犯罪にも反対ですか?」
「ええ、この王道会にいる若者たちは生活に困った人たちの集まりです。そんな人たちに犯罪に手を染めさせるなんて僕にはできません。そうなんども訴えてきました。」
「だれに訴えたのですか?」
「組長の三方国吉に訴えました。」
王道会の組長、つまりトップは三方国吉というらしい。
「あなたはその三方さんにどのような提案をしたのですか?」
「うちは贋作を作って販売するようなこともやっていたので、新しい絵画を描いて売って儲けようという、いわゆる、違法行為をせずに利益を上げるという王道会内での改革をしようと提案しました。しかし三方は従来のやり方で儲けなければ王道会の会員から批判が上がりかねないといわれました。」
「なるほど。よくわかりました。ありがとうございました。北野さん、何か聞きたいことがあったらどうぞ。我々はこれで失礼します。」
「聞くことなんて何にもねーよ。沢村、行くぞ。」
北野たちと別れた隆とマリアは山田の家へと帰っていた。
その途中、マリアは隆に話しかけた。
「あの熊川さんという人、いい人みたいですね。」
「良い人かどうかはわかりませんが、反社会勢力を違法なことをして金儲けをするのではなく、普通の会社と同じようにして利益を上げる組織にしようと必死に改革を訴えていたのは事実のようですねぇ。」
隆とマリアが山田の家に着くと、テレビがついていた。ニュース番組が付いていてニュースキャスターが
「王道会の会員が再び逮捕されました。容疑は愛知県瀬戸市や、北名古屋市などにある廃墟に侵入したことです。王道会会員は昨夜も愛知県新城市の廃業した病院に侵入した容疑で逮捕されており、王道会には警察の監視の目が向けられている模様です。」
「そんな熊川さんの思いとは裏腹にどんどん過激になっていきますね。王道組。」
「熊川さんなどの幹部ですら彼らの暴走を止めることはできないのかもしれませんねぇ。」
「熊川さん、かわいそうですね。会員のために改革を訴えてきたのに会員の動きが活発になって組長からも反対されて。」
「改革をするときというのは必ず反対意見があります。むしろ反対意見の方が多いと思いますよ。従来の方法に付き従おうとする人間は多数いますからねぇ。」
「明日、また熊川さんを訪ねてみましょう。これ以上の暴走はなんとしても食い止めなければなりません。」
翌日隆とマリアは早速、王道組へ行った。今度は北野も沢村もいない。
「失礼します。熊川さんはいますか?」
「あいつならまだ来てねーよ。」
中から男が1人出てきてそう答えた。
「そうですか。失礼します。」
「ちょっと待て!」
男が隆とマリアを呼び止めた。
「お前ら、昨日からいろいろ嗅ぎまわってるみたいだが、いずれ痛い目に合うことになるよ。」
「あなた、三方さんですね。」
「よくわかったね。」
「痛い目に合うのはあなた方の方です。あなた方の犯罪は必ず暴かれます。」
「いい度胸しているじゃねーか。小僧。」
「今ここで我々を殺したり殴ったりしたいのであればどうぞご自由に、しかし、後で痛い目に合うのはあなたですよ。」
「なんだと!」
「では失礼します。」
隆が立ち去ろうとすると、
「ああ、最後に1つだけ。私はあなた方の犯罪を暴いて、必ずや、首を取ります。」
王道組から出てきた隆とマリアは北野に電話した。
「北野さんですか?至急、昨日の熊川さんの自宅を調べて向かってください。彼は自らの命を絶つつもりかもしれません。急いでください。」
隆はそういって電話を切ると山田の家に帰って熊川についての情報を待った。
「熊川が死にました。」
北野から電話がかかってきた。一歩間に合わなかったようだ。
「そうですか。自殺で間違いなさそうですか。」
「ええ、首をつっていましたよ。」
「分かりました。どうもありがとう。」
「熊川さんが亡くなりました。」
隆は残念そうにいう。
「なんででしょうか?」
「恐らく、自分の力で若者の暴走を止められなかったことに責任を感じたのでしょう。」
「悲しいですね。」
「ええ、しかし、僕は王道組の人たちを許す気はありません。近いうちに首を取ります。」
隆はそう強く誓った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる