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第1話 親孝行の失踪
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「探さないでください。」
そう置き手紙を残して失踪したのは志藤奈津子という女子高生だった。
「もしもし。警察ですか。娘が家出しました!行方がわからないんです。」
慌てた口調で受話器に訴えるのは奈津子の母親の雅美であった。
弥富の住宅街にサイレン音が鳴り響く。警察車両は5分ほどで到着した。
「状況を詳しくお話しいただけますか?」
所轄の刑事が雅美に事情を尋ねた。
「2時に仕事を終えて3時頃に家に帰ってきたんですが娘がいなくてリビングの机の上にこの手紙が。」
雅美は手紙を指さしてそういった。
「それですぐ通報されたんですね?」
「はい。」
雅美は刑事の確認に頷いた。
30分ほどして協力要請を受けた愛知県警の刑事が到着した。捜索員もいる。
「失礼ですが娘さんが家出をするということは以前にもありましたか?」
愛知県警捜査一課の沢村がそう尋ねた。
「その気はありました。最近反抗的になってきましたから。」
雅美のその返事に沢村は頷いた。北野が捜査の方針について言った。
「とりあえず娘さんを家出と誘拐の線で捜索します。娘さんが行きそうなところを教えていただけますか?」
こうして捜索が始まった。万が一誘拐だった時に備えて雅美の家では所轄の刑事や北野たちが電話を待っていた。
「ちょっと失礼。」
そんな中家の中に突然姿を表した人物がいた。今まで数々の難事件を解決してきた久野隆と隆と行動をともにする加納マリアだった。
「なんですかあなた方は!」
所轄の刑事たちが2人の前に立ち塞がる。
「私達。奈津子さんの知り合いなんですけど。」
マリアがそう言うと刑事たちの顔色が変わった。事情を聞きたいと考えたのだろう。
「どうぞ。」
といって道を開けた。
「嘘は泥棒の始まりですよ。」
それを見た北野が嫌味な口調でマリアに耳打ちした。そして
「2人からは我々が話を聞きますから。」
と所轄の刑事たちに告げた。刑事たちは不服そうだったが県警の刑事のほうが立場は上のようだった。
「で?なんで来てるんですか?」
「とある方から行方不明事件が起きているのでぜひ力を貸してほしいとの連絡がありましてね。」
隆のその言葉からすべてを察した北野は
「沼田の野郎。」
と毒づいた。沼田というのは愛知県警鑑識課の沼田のことである。
「我々日々オンライン授業で暇なものですから。北野さんたちのお力になれるならぜひと思いまして。」
マリアが心にもないことを言うと
「ならば結構です。十分間に合ってますから。」
「奈津子さんはまだ見つかっていないようですねえ。とても間に合っているとは思えませんが。」
隆の言葉に腹を立てた北野は
「あなた方の助けなど必要ではないという意味です!」
と言った。隆はそれを受け流すと雅美に声をかけた。
「奈津子さんの母親の雅美さんですね。我々、奈津子さんのちょっとした友人なのですが少しだけお話を伺えないかと思いまして。」
「ああ。なんですか?」
雅美が動揺したように受けると
「あなたが帰宅した時間、正確にはどれぐらいでしたか?」
「3時過ぎですよ。3時2分ぐらいだったと思います。」
雅美が部屋の壁にある時計を見上げながらそういった。
「3時2分、間違いありませんか?」
隆が確認を取ると雅美は少し怪訝そうな表情となった。
「もちろん、それが絶対正確とは限りませんよ。大体それぐらいだったと思います。」
「結構です。で、警察に通報なさったのが3時5分ですねえ。つまりあなたは家に帰って探さないでくださいという置き手紙を見てすぐさま警察に通報されたわけですか。」
隆が一人納得したようにそう言うと
「何がおっしゃりたいんです?」
と、雅美はますます怪訝な表情を見せた。
「僕の中で1つ、疑問がありましてね。探さないでくださいという置き手紙があったとしても娘がどこかに行ったともなれば親として探しはしないものですかねえ。家の中はもちろんのこと彼女が普段から行きそうな公園や場所など探し回りはしなかったのですか?」
「警察に探してもらったほうが早いかなと思って。」
「なるほど。納得です。」
隆はわざとらしく手を叩く素振りを見せるとまた新たな質問をした。
「ですがあなたは先程、奈津子さんは家出をすることも多かったと言っていましたよね?」
隆は北野にそう尋ねると
「言ってましたけど。まだあなたここに来てませんでしたよね?」
「雄弁な後輩が話してくれました。」
マリアがからかうような目でそう言うと北野は沢村を睨みつけた。隆は話を戻す。
「失敬。続けます。奈津子さんに家出をする事がよくあったのならばなおさらなぜ探さなかったのですか?」
「手紙を置いていくなんてことなかったから不安になった。それじゃご不満ですか!」
雅美が大声でそう言うと隆は引き下がった。
「なるほど。確かにそのような心情になったとも十分考えられますねぇ。」
「なんなんですか?この人たちは。奈津子を見つけてくれるんじゃ無かったのですか!お帰りください!」
「申し訳ない。立ち入ったことをお聞きしてしまう僕の悪い癖。」
悪びれる様子もなく謝罪した隆は
「ではマリアさん。お暇しましょうか。」
「え?もういいんですか?私たちも捜索しましょうよ。」
「我々が探したところで見つかるはずもないと思いますよ。捜索はその道のプロにお任せして我々は山田君の家に戻りましょう。」
隆はそう言うと家を出て行った。雅美は怪訝な顔つきで隆とマリアを見送った。
隆とマリアは一旦山田の家に戻った。その3日後朝のニュースでそれは報じられた。
「10月14日に行方が分からなくなっている女子高生、志藤奈津子さんの捜索は今日で打ち切ると愛知県警が発表しました。捜索隊はこれまで懸命に奈津子さんの捜索活動を行ってきましたが未だに奈津子さんは発見されていません。今後は目撃情報や情報提供などの捜索を行っていくとのことです。」
キャスターがそう述べると隆はサイダーから手を放して立ち上がった。
「妙ですねぇ。」
隆と同じことをマリアも考えていた。
「ええ。行方が分からなくなってから3日しか経っていないのに捜索打ち切りっていうのは流石に早すぎます。」
「何かあるのでしょうか。」
愛知県警では北野と沢村が刑事部長の猪俣の部屋に来ていた。
「今回の捜索打ち切りには到底納得できません!」
正義感の強い刑事である北野が猪俣に堂々とそう言う。
「誰が納得しろと言った?」
「は?」
「別に私は決定事項を伝えているだけで君たちにそれを納得してほしいだなんてこれっぽっちも思っちゃいないよ。君たちは指示通り動いてくれればそれでいい。」
いかにもキャリアの言いそうな言葉を猪俣は言った。だがこう言われてしまうと返す言葉も無いのも事実である。
「ですが3日で打ち切りっていうのはさすがに。」
下手に出る形で沢村がそう尋ねた。
「ふと思ったんだよね。このまま近所を捜索し続けても意味ないんじゃないかなって。だってさ。女子高生なんだから金持ってるだろ?遠くに行っている可能性も高い。仮に誘拐されたとしてもどこか別の場所に連れさられている可能性が高い。だったら目撃情報とかを募ったほうが幅広く捜索できる、そうは思わないかい?」
猪俣が揶揄すようにそう言うと
「恐れ入りました。」
北野でも頭を下げざるを得なかった。
「なぜ3日で捜索を打ち切ったのか非常に気になりますねぇ。」
隆はサイダーを飲みながらそういった。
「とりあえず足取りを追いますか?」
「行方が分からなくなった際の足取りはもう警察が洗っているでしょう。我々は奈津子さんのこれまでの人生をたどります。」
「善は急げです。行きましょうか。」
マリアは席を立ちスタスタを歩き始めた。まだサイダーを飲み干していない隆は一気にサイダーを飲むと不満そうな顔をして山田の家を出た。
「地元の小学校と中学校を卒業しそこそこ頭の良い高校に入学してたみたいですね。」
弥富に着いた後、マリアはそういった。
「学生というのは学校で見せる自分と家庭で見せる自分の2つの面を持っていると言いますからねえ。」
「同感です。というより環境上そうせざるを得ません。」
マリアは深く頷きながらそう言った。
「学校での様子も聞いてみる必要がありそうですねえ。」
マリアは隆の考えには納得したが方法が思い浮かばなかった。
「でも直接学校に行って先生に話を聞くのは難しいんじゃありません?」
「学校にいるのは先生だけですか?」
隆はそう言うと高校に向かって歩き始めた。
「奈津子は真面目だった。いつどんなときでも正論を言うんだよね。それが無性に腹が立った。行方不明になったんだって?一生見つからなくていんだよ。」
高校から出てきた女子生徒に声をかけるとそのような返答が返ってきた。
「まあ、要するに気に入らないと。」
さすがにそれは言い過ぎだと感じたマリアは生徒を咎めるように見た。しばらく沈黙が続いたが隆がお構いなしに尋ねた。
「真面目でしたか。成績などはどうだったか分かりますか?」
「テストの点数は良かった。家では相当勉強してたんじゃないかな。じゃなかったらあんな点数取れないから。」
「そうですか。どうもありがとうございました。」
隆は礼を述べると戻ろうとしたが再び振り返り右手の人差し指を立てた。
「ああ、最後に1つだけ。奈津子さんは親にはどのように接していたか分かりますか?反抗的だったかとか分かりますかね?」
「いや全く。一回見たことあるの。奈津子が母親と一緒に仲良く買い物に行ってるの全然あの親子は仲が良かったと思うけど。」
女子高生がそう回答すると隆は
「そうですか。何度もすみませんでしたね。」
といって今度こそその場を立ち去った。マリアも後に続いた。
「一致しませんねえ。雅美さんが言っていた人物像と。」
高校近くの定食屋で昼飯を食べながら隆はそういった。
「ええ。雅美さんは奈津子さんは反抗的だったと述べ、一方でクラスメイトの話だと真面目な性格で親とも仲が良かったと述べた。どう考えても食い違ってますよね。」
「今の段階ではクラスメイトの証言のほうが説得力はありますねえ。仮にクラスメイトの証言が本当だとしたら雅美さんは奈津子さんの人物像を大きく歪めたことになります。」
「なんでたってそんな事を?」
マリアが至極当然の疑問を口にすると
「それが分かれば苦労しませんがね。そういえば奈津子さんの父親は大手企業の社長でしたねえ。」
隆は奈津子の父親が気になっているようだった。
「ええ。もともとは小さな商店だったようですが最近は一気に勢力を拡大しているスーパー志藤の社長です。それがなにか?」
「そのあたりに何かあるかもしれませんねえ。」
その言葉にマリアが突っ込んだ。
「そう思う根拠は?」
「根拠などという物はなく勘のようなものです。雅美さんはごく普通の主婦で奈津子さんも真面目な高校生だとわかれば父親についても調べてみたくはありませんか?」
隆はそれっぽいことを言った。
「じゃあ父親について調べてみますか?」
「我々では難しいでしょうから助っ人が必要ですねえ。」
隆と行動をともにし始めてもう長いマリアは察しが良くなってきた。
「北野さんに頭を下げますか。」
「丁重にお願いしてみましょうか。」
隆はそう言うと伝票を持って会計を済ませに行った。
「丁重にお断りします。」
隆が北野に電話を掛け要件を伝えると即座にそう言われてしまった。
「北野さん、警察の捜索は3日で打ち切られたそうですねえ。」
「それがなにか?」
「あまりにも早すぎます。猪俣刑事部長の命令だとは思いますがどういう理由なんですか?」
隆のその言葉は火に油を注ぐ形となってしまった。
「父親から賄賂でも受け取ってたんじゃないんですか!それを隠そうとして猪俣は父親をかばうために捜索の打ち切りを強引に進めた。」
北野が捲し立てるようにそう言うと隆は下手に出る形で
「そう思うのであれば父親について調べてみる価値があると思いませんか?なにかつかめれば猪俣刑事部長を失脚させることも十分可能だと思いますよ。」
といった。隆にうまく誘導される形となった北野だったが北野は沢村を連れて愛知県警を出た。
だがその2日後になって事態は一気に急変した。
自宅から少し離れた草村で奈津子の遺体が発見されたのである。
「おいおい嘘だろ?」
沢村は現場に到着して遺体の顔を見るなりそう呟いた。
「死亡推定時刻は昨夜の午後9時頃ですな。首を絞められたことによる窒息死です。」
沼田は冷徹とも言える口調で死亡推定時刻を告げる。そう、捜査をする上で感傷に浸っている時間などこれっぽっちもないのである。
「着衣に乱れがあるな。」
北野は奈津子の遺体を見回してそういった。
「ええ。見ての通り悪戯された後殺されてしまったようです。」
「通り魔的犯行ってとこですかね?」
沢村がそうまとめた。
「全くひっでえことするよな。でも自宅からこんなに近いところで遺体となって発見されたとなるとやはり家出か?」
「実は気になる点がありまして。」
沼田はそういった。
「失踪時と同じ服装です。」
「そうか。家出をしたはいいけど高校生の女の子が何日も同じ服でいるのは抵抗がありますよね。」
沢村は沼田の言わんとする事を察した。
「いかにも。同じ服装で家出を続けるのは考えにくいですよね。」
「だったらなんで同じ服装で自宅の近くにいたんだよ。少なくとも奈津子さんは昨夜の午後9時頃まで生きてたんだろ?」
誰一人として北野の至極当然な疑問に答えられなかった。
「奈津子さんが何者かに殺害されましたか。」
サイダーの蓋を開けながら隆はそういった。
「謎は増えるばかりですね。奈津子さんの失踪、早すぎる捜索打ち切り、そして奈津子さんの死。」
マリアがそう言うと
「とりあえず殺害現場に行ってみますか。」
隆はそう言うと部屋を飛び出していった。
隆とマリアは弥富の奈津子が倒れていたという草村にたどり着いた。一人の男を連れて。
「なぜ私を呼んだんですか?」
隆が呼んだ男というのは沼田だった。
「奈津子さんは失踪時からの服装と変わらない服装で遺体となって発見されました。最近は冷えてきましたからねえ。夜を越すためにはどこかで潜伏しなければならない。潜伏中に犯人と出くわし性的暴行の上殺害されたのであれば殺害現場の側に潜伏先があるはずだと思いましてね。沼田さんの力を借りたいと思いまして。」
隆がざっと説明すると沼田は
「じゃあ潜伏先はどこなんですか?」
といった。
「そうですねえ。ああ、あの祠とかどうでしょう。」
隆が指さしたのは草村の少し丘のようになっているところの上にある祠であった。
「あの中の指紋を調べてください。」
マリアがそう言った。
「分かりました。指紋が奈津子さんのものであればこの祠が潜伏先であった証拠になるということですな。」
沼田は張り切った様子で祠の中を調べ始めた。
「指紋出ました!」
少しすると沼田が声を上げた。
「奈津子さんのものなのかは持ち帰って調べないとわかりませんがごく最近の指紋です。それも複数。」
「そうですか。しかしどうやら彼女はこの祠で食事も取っていたようですねえ。」
隆はそういった。
「どうしてそんな事分かるんです?」
マリアが疑問を述べると
「あれを見てください。コンビニ弁当のゴミが捨てられています。」
隆は祠の裏を指した。たしかにそこにはコンビニ弁当のゴミが散乱していた。
「弁当生活だったようですな。学生時代を思い出します。」
祠から出てきた沼田がそう言った。
「これ、ひょっとするとひょっとしますよ。」
隆がある可能性に目をつけた。
「ひょっとするって?」
マリアはまだそれには気づいていないようだった。
「コンビニの防犯カメラが奈津子さんを捉えている可能性があります。」
だがその可能性を沼田は否定した。
「お言葉ですが、近所のコンビニだったら捜索隊が防犯カメラをチャックしていると思いますが。」
ここでマリアが隆の言った可能性を肯定した。
「遠くのコンビニに行ったとしたらありえない話じゃないのでは?」
だがマリアのその意見を隆は否定した。
「いえ、ですが奈津子さんは捜索されている身です。下手に動けば捜索隊に見つかる可能性も高い。」
「何が言いたいんですか?最初に奈津子さんがコンビニに行った可能性が高いと言ったのは隆さんですよ!」
「ええ。ですから彼女の代わりに買いに行った人がいるということですよ。」
隆の意見に沼田は賛同した。
「なるほど!彼女の代わりにコンビニで弁当を買って届けていた人物がいたということですな。」
「ええ。しかもレシートまで落としてくれています。ここのコンビニの防犯カメラを調べましょう。沼田さんは愛知県警に戻って指紋を調べておいてください。」
隆はそう言うと沼田と別れ歩き始めた。
「沼田さん!ちょっと待ってください。」
少し歩いたところで隆は突然声を上げた。
「どうしました?」
「このケースなんですかねえ?」
隆が指さした先には大きいケースがあった。
「これ、よくドラマで見るお金が入っているケースですね。」
マリアが率直にそう言うと
「沼田さん念の為ここからも指紋を取っておいてください。」
「承知しました。」
沼田はケースを持ち帰っていった。
「なんですか?極めて重要な情報って?」
隆とマリアは次に北野を呼びつけた。
「もったいぶらなければ来てくれないかなと思って。」
マリアがからかうようにそういった。
「実は奈津子さんの失踪には協力者がいたようなのでその特定をしていただきたいと思いましてね。」
隆が成り行きを説明すると
「そういうことならお任せください。さ、先輩、行きましょう。」
と沢村は張り切ってコンビニの中へ入っていった。北野もコンビニに入っていった。
隆とマリアもドサクサに紛れて後に続いた。
「このレシートの時間のカメラ映像を見せていただけますか?」
隆が先程拾ったレシートを店員に見せた。
「ちょっと、ついてこないでください。」
すかさず北野が注意する。
「失礼。ですがこのレシートがなければどの時間のカメラ映像を見れが良いかわからないと思いましてね。」
「とにかく、捜査の邪魔は謹んでください。」
隆は北野の注意を受け流した。突然の訪問に店員は戸惑ったが警察手帳を見せられると店長を呼んだ。
「どうも。店長の矢野です。」
矢野に防犯カメラの映像を見せてもらった御一行は衝撃の光景を目にした。レシートの時間に弁当を買う一人の女が映っていた。
「これ。」
マリアも驚いているようだった。
「ええ。雅美さんですね。」
そう、映っていたのは奈津子の母の雅美だったのである。
「ということは雅美が奈津子さんの失踪の手助けをしていたってことか?」
北野がまとめると隆もそれを肯定した。
「ええ。信じがたい話ではありますがそういうことになりますねえ。」
「どうなってんだ?」
整理が追いつかない様子の沢村に北野が命令した。
「よし、この映像雅美に突きつけるぞ。」
走り出そうとした2人を隆が呼び止めた。
「待ってください。下手に雅美さんを刺激するのは危険です。ここは沼田さんの鑑定が終わって奈津子さん殺しの犯人が分かってからでも遅くはないかと。」
「もちろんそのつもりですよ。よし、手がかりを探すぞ。」
隆の言葉に方針をガラリと変えた北野は沢村にそう命じると走り始めた。
沼田から電話が入ったのはその翌日のことだった。
「ケースの指紋や、祠から採取された指紋から奈津子さんを殺害した犯人が割り出せました。」
「そうですか。お疲れさまでした。指紋で人物が特定できたということはデータベースに登録があったということでしょうか。」
察しの良い隆の言葉に沼田は大きく頷いた。
「ええ。犯人は山本匠。56歳です。20年に渡って性犯罪を繰り返してます。今、北野刑事たちが確保に向かってます。」
「性犯罪ですか。殺人を犯したことはありましたか?」
「ええ。10年ほど前に20代の女性にわいせつな行為をした後に殺害してます。それで実刑を食らって1年前に出所してますね。」
スピーカーで通話していたのでマリアが横から割り込んだ。
「変態的な通り魔ってやつですか?」
「如何にも。私も離婚してから待ち行く人を見てはあの人ではないかと探したものです。」
沼田の体験談を受け流した隆は
「分かりました。山本の住所を教えてもらえますか?」
「え?行くんですか?北野刑事が難なく確保すると思いますけど。」
沼田が驚いたように尋ねると
「尋ねておきたいことがあります。取調室に連れて行かれては聞きたいことも聞けませんからね。」
「なるほど。承知しました。」
沼田は山本の住所を読み上げた。
山本の自宅は築40年ほどのボロアパートの2階の一室だった。
北野がインターホンを押すと山本が出てきた。
「山本匠だな。愛知県警だ。用件は分かるよな?」
いかにも刑事ドラマに出てきそうなセリフを北野は言った。
その瞬間、山本は部屋の奥へと走り出しベランダから地上へと飛び降りた。あまりの咄嗟の動きに北野と沢村は驚いて部屋に上がって追いかける。だが何回も警察に逮捕されている山本の逃げ足は早くなかなか追いつけない。そこに山本の前に隆が現れた。隆は足を差し出すと山本はそれに引っかかって転んだ。そこに北野と沢村が走ってきて山本を取り押さえた。
「さすがに何回も警察に逮捕されているだけのことはあります。逃げ足だけは早いようですね。」
隆が皮肉を言うと
「仕方ないだろ。自分でも自分を止められなかったんだ。」
「署で話聞こうか。」
沢村が連行していこうとしたところをマリアが呼び止めた。
「ちょっと待ってください。」
「なんですか?」
北野が面倒くさそうに振り返ると
「いくつか聞きたいことがあります。山本さん、あなたは奈津子さんを殺害しましたね。その時の彼女の様子はどうでしたか?」
「様子も何も少し疲れた様子だったよ。抵抗するにはしたけど、力弱かったし正直拍子抜けしたな。」
山本はそう答えた。
「そうですか。そしてあなたが奈津子さんから奪ったお金の金額はわかりますか?」
隆はそう次の質問を繰り出した。沢村が初耳の様子で話に割り込んだ。
「お金?」
山本の体が少しビクッとしたのが分かった。
「あなたは奈津子さんの持っていた100万円単位のお金を盗みましたよね。」
隆のその言葉に何も知らない北野と沢村は頭の上にハテナマークを浮かべた。
「山本さん!」
隆が顔を震わせてそう言うと山本はついに口を割った。
「300万ぐらい。いや、体を触れたついでに大金も手に入るのは一石二鳥だと思って。」
「あんたねえ!」
マリアが山本に掴みかかろうとすると隆がそれを止めた。
「山本さん、あなたは自らの欲望に負け一人の人間を殺してるんです。それも今回が初めてではない。あなたは自分の犯した罪の大きさに気付くべきです。今回は長くなりますよ。」
隆は怒りを堪えながらそう言った。
山本は少しうつむくと北野に連行されて行った。
「いやあ、今回もご活躍だねえ。」
隆とマリアが山田の家に戻ると山田がそう言って出迎えた。
「ご活躍って?」
マリアがとぼけたように言うと
「例の女子高生失踪殺人事件の犯人を捕まえたみたいじゃないの。」
夕方のニュースで見たのか山田はそう言った。すると隆が
「それについては犯人はもうわかっていました。我々の活躍というより愛知県警の活躍のほうがでかいと思いますよ。」
「まあいずれにしろ今回も事件が解決したのは間違いないわけだ。」
山田が話を終わらせようとすると隆が思いがけないことを言った。
「本当に事件は解決と言えるのでしょうかねえ。」
「犯人捕まえたんだろ?これを解決と呼ばずしてなんと呼ぶんだよ。」
マリアが隆の言いたいことを言った。
「まだいくつか謎は残ってますよね。」
「ええ。まず第一に奈津子さんの失踪理由、そして早すぎる捜索打ち切り、そしてなぜ奈津子さんは殺害されるまでの間あんな小さな祠にいたのか、そして最大の謎が奈津子さんはなぜ300万もの大金を手にしていたのか、ですね。」
隆が解けていない謎を上げると山田が呆れたように言った。
「殺人犯が捕まっても1つでも引っかることがあれば調べるんだねえ。」
「当然です。どのみち我々は暇ですからねえ。」
隆はそう言うとサイダーを飲み始めた。
翌日、隆とマリアは弥富の志藤家を訪ねていた。
「どうも。生前の奈津子さんの知り合いだった久野隆と申します。」
「同じく、加納マリアです。」
2人が自己紹介すると雅美は思い出したように
「ああ、あの時の。」
といった。
「娘さんの死については真にお悔やみ申し上げます。」
家に上がらせてもらった2人はそういった。家には雅美の夫、奈津子の父である智昭もいた。
「いや、すみませんね。わざわざそんな事を言いにいらしてくれるなんて。」
智昭がそう言うと
「実は本日は伺いたいことがあって参りました。」
マリアはそう返した。
「何でしょう?」
「警察は奈津子さんが行方不明になった時捜索をわずか3日で打ち切りました。それはなぜかお聞きできればと思いましてね。」
「さあ。警察の方に事情があったのではないかと。」
智昭が丁寧な口調でそう応じた。隆が質問を重ねる。
「警察からはどのような説明を受けましたか?」
「娘さんはお金も持っているだろうから遠くに行っている可能性が高い。だから今後は幅広く情報提供を呼びかけていくとのことでした。」
「なるほど。そうでしたか。」
隆は頷くと礼をして家を出ていった。
「嘘、ですね。」
志藤家を去った後マリアはそう呟いた。
「はい?」
「警察との間に何か取引があったんですよ。」
「確かに、何かを隠しているようには見えましたねえ。」
「問題はその取引がどんな取引だったのかです。」
マリアがそう言うと隆は
「僕はねえ。マリアさん。奈津子さんの捜索が打ち切られてから数日の間に何かが起こっていたのではないかと考えています。」
と言った。
「なぜです?」
「警察がわずか3日で捜索を打ち切ったということは志藤家から捜索隊が姿を消すということです。それは志藤家のどなたかにとって警察が家にいるという状態が都合が悪い状態にあったからではないかと。」
隆がそう推理すると
「なるほど。その都合の悪い事と金を取引したとも考えられますね。」
「金かどうかはわかりませんが十分そう考えることもできますねえ。」
「じゃあ都合の悪いことが何かを知る必要がありますね。」
マリアがそう言うと隆は通行く人に声をかけた。
「どうも。あそこの志藤さんの家について聞きたいことがあるのですが。」
「ああ。娘さんが亡くなったねえ。」
隆が声をかけたのは如何にも噂好きそうな女性だった。
「まだ奈津子さんの行方を探している時に警察が捜索を打ち切って志藤さんの家を去ってからなにか動きはありませんでしたか?」
隆のその質問にも女性は不審がることもなく答えた。
「そうなのよ。この前何人ものスーツ着た人たちが志藤さんの家入ってったのよ。」
「警察じゃなくてですか?」
マリアがそう尋ねると女性は何の迷いもなく
「違うわよ。そういう感じじゃなかった。なんかドラマとかでよく見る家宅捜索みたいな感じだったけど。」
家宅捜索なら警察だろ、とマリアはツッコみたくなった。隆は少し思案顔になって
「そうですか。」
と頷いた。
「どういうことです?家宅捜索だったら警察が家に来てたってことですよね。」
マリアはそう呟いたが隆は
「あくまでも家宅捜索に見えたということですから、実際には違っていたのかもしれません。」
「違うって?」
「例えば税務調査とか。」
「税務調査?」
聞いたことがあるが知らないその響きにマリアは訊き返した。
「税務調査官が会社に調査に入ることですよ。嘘偽りなく決算を行っているかなど不正がないかを調べる調査のことです。裏金などの情報があれば自宅も調べられるときがあります。税務調査は普通抜き打ちで行われるはずですが大企業では調査の情報を極秘に入手しているところもあると聞いたことがあります。」
隆がざっと説明するとマリアがそれに今回の事例を当てはめた。
「なるほど。税務調査が行われる事を志藤智昭が察知して家に警察がいると厄介だから捜索を3日で打ち切るように警察と取引をしたってことですか?」
「僕はそう考えています。」
「でも今となっては確かめようもありませんよ。智昭さん本人に聞けたもんじゃありませんし。」
マリアがそう言うと隆は携帯電話を取り出して北野の電話番号をプッシュした。
「何なんですか!こっちはねえ。山本の調書作りで忙しいんですよ!」
電話に出た北野が開口一番にそう言った。隆はお構いなしに
「実は調べたいことがありまして。」
「調べたいこと?」
「ほら、以前にもお願いしたではありませんか。あのときは奈津子さん殺害でそれどころじゃなくなってしまいましたが。」
隆がそう言うと北野はうまく誘導される形で
「なんです?」
と尋ねてしまった。
「スーパー志藤の本社にご一緒していただけますか?」
スーパー志藤の本社は弥富の中では目立つビルとなっていた。高層ビルとまでは言えないが十分大きいその佇まいからはまさに最近伸びている会社を匂わせるものがあった。隆とマリアはそこで北野たちと合流した。
「隆さん直々にお呼び出しがあったということは我々があなた方のお役に立てるってことですか?」
北野がそう尋ねるとマリアが答えた。
「いいえ。我々が求めているのはあなた方ではなくあなた方の持っているその警察手帳です。」
「何様だよ。」
マリアの皮肉めいた発言に北野は腹を立てた。
「まあまあ先輩。落ち着いてください。」
それを沢村が止めると
「スーパー志藤の社員の方々にお伺いしたいことがあります。」
隆がそう言うと北野は覗き込むように
「お伺いしたいこと?」
と尋ねた。
「まあそれはこれから分かりますので」
隆はそう言うと昼休憩の時間で外に出てきた社員に声をかけた。社員は若干疲れているように見えた。
「どうも。警察です。」
北野から警察手帳を見せられた社員は困惑した表情を見せた。横から隆が質問する。
「スーパー志藤、いつも楽しく利用させてもらってます。このような立派なオフィスまで素晴らしいとしか言いようがありません。ここでの仕事はとても楽しいものなのでしょうねえ。」
隆のその言葉に社員は冗談じゃないという顔になった。
「その顔だと会社になにかご不満でも?」
マリアが社員が話しやすいように誘導すると社員は話し始めた。
「智昭社長はかなりの傲慢で。できるはずのない企画を通そうとしたり失敗の責任はすべて僕達に回ってくる。正直もう限界です。」
社員が不満をぶちまけると
「なるほど。それは意外ですねえ。しかしこの会社はホワイトというのが僕の印象です。やはり不正などは行われていませんよねえ。」
隆がそう言うと社員は更に冗談じゃないという顔になった。
「スーパー志藤は智昭社長が商店から始めたスーパーでその時のことで色々やばいことがあるんです。」
社員がそう言うと沢村が話に入ってきた。
「やばいことって?」
「自宅に数百万もの裏金を隠しているという噂です。だけど今は愛人宅に移されたようですが。」
愛人というキーワードも初耳ではあったが隆は別の所を尋ねた。
「自宅から愛人宅に裏金を移動させたという噂になっていた、となると裏金を移動せざるを得ない事情があったということですか?」
隆のその質問に社員は小さく首を縦に振った。
「事情ってなんだよ?」
北野がいきなり横から尋ねたが社員は答えない。沢村が北野の前に立った。
「ちょっと先輩!せっかくうまく誘導してたのに雰囲気ぶち壊さないでくださいよ!」
「俺、なんか言ったか?」
自覚すらない北野を沢村は後ろに下がらせた。だが隆がここでこう呟いた。
「税務調査。」
その言葉に社員の体がビクッとなったのは誰の目にも一目瞭然であった。
「そうなんですね?」
隆が念を押すと
「もういいですか?昼休憩終わっちゃうんで。」
社員は去っていった。
「図星ですね。」
その後マリアがそういった。
「ええ。確かに智昭さんの自宅で最近税務調査があったことは間違いなさそうですねえ。」
「ちょっと待って下さい。智昭さんの自宅で税務調査が行われていたとしてそれが一体何だと言うんですか?」
事の成り行きを理解できていない様子の北野は困惑するばかりだった。
「智昭さんの自宅に向かいましょう。真実はそこで話します。」
そういう隆に北野は腹を立てた。
「今ここで話していただけませんかねえ。」
「同じことを二度話すのはあなたが想像している以上に苦痛なんですよ。さあ行きましょうか。」
隆がそう言って歩き始めると北野は地団駄を踏んだ。
「ああ、もう!車乗ってってください!智昭の自宅に向かうんでしょう!」
「どうもありがとう。」
4人を乗せた車は智昭の自宅へと走り始めた。
4人が智昭の自宅を訪ねると雅美が仏壇に手を合わせていた。智昭が4人を家に上げた。
「奈津子が殺されて、犯人には本当に罪を償ってほしいと思ってます。」
智昭がそう語ると隆が火蓋を切った。
「娘さんの殺害についてはお悔やみ申し上げます。」
「私にも責任があると思っています。もっと奈津子の言うことを聞いて家出を事前に防げていれば、こんなことには。」
智昭が後悔した口ぶりでそういった。
「ええ。そうでしょうねえ。娘さんに裏金を託したはいいものの、娘さんは殺害され裏金も犯人に奪われてしまったのですから。」
隆のその言葉に智昭は
「は?」
と答えた。隆は続ける。
「ずっと気になってたんですよ。奈津子さんの学校の生徒にも話を聞きましたが成績もよく、家出をするとは考えられないような親思いな生徒だったと聞きました。そんな奈津子さんがなぜ家出をしたのでしょう。」
「さあ、こっちが聞きたいぐらいですよ。」
「こうは考えられませんか?奈津子さんは家出をせざるを得ない状況に陥っていた、この家では税務調査が行われる予定だったそうですねえ。この家にあなたは数百万単位の裏金を隠していました。その裏金を隠すために奈津子さんに裏金を託したんですよ。」
隆が仮説を述べるとマリアが雅美に駆け寄り写真を突きつけた。
「奈津子さんが小さな祠で潜伏している間食料などの調達はあなたが行っていたんですね。コンビニの防犯カメラ映像にあなたが映ってました。」
「バカバカしい。奈津子が失踪したとわかったら警察が来て税務調査が行われた時厄介じゃないか。」
智昭がそう反論すると隆が生徒を誘導した教師のように微笑んだ。
「いい反論ですね。ええ。警察が来れば来たであなたには都合が悪い。だから警察を形だけの捜索をさせて黙らせたんですよ。愛知県警猪俣刑事部長をご存知ですね?彼と以前から繋がりのあったあなたは彼に頼み込んで捜索を3日という短い期間に設定した、そして捜索範囲を拡大しなかったのも捜索員に奈津子さんが見つからないため。」
智昭に反論の余地はなく下を向いて黙るのみだった。
「税務調査から裏金を守るあなたが考えた完璧なシナリオでした。ですがここで最大の誤算が生まれます。」
隆の言葉をマリアが引き取った。
「奈津子さんは山本という通り魔に殺害され裏金も奪われてしまった。」
「ええ。結果、税務調査を乗り切ることはできたかもしれませんがあなたはかなりの損失を負いました。」
隆はここで一旦区切った。
「これが我々の考えです。どうでしょう。異論があればどうぞ?」
「確かに、確かに奈津子の失踪を指示したのは俺だ。だがそれが罪になるか。」
智昭が高圧的な態度を取ると黙って聞いていた北野が前に出てきた。
「当然だ。娘を失踪させておいて警察に虚偽の通報をしたなら立派な偽計業務妨害罪だ。」
「さすがの猪俣刑事部長も被疑者の逮捕までは止められないでしょう。」
マリアがそう言うと智昭は崩れ落ちた。隆は雅美に声をかけた。
「あなたが奈津子さんが置き手紙を見つけてからすぐに通報したのも最初から奈津子さんの失踪を知っていたからだったんですね。」
奈津子の殺害で雅美は精神的に追い詰められているようだった。ひとり語り始めた。
「全部、事実です。全部、認めます。」
「雅美!止めろ!」
尚も抵抗を続け雅美に殴りかかろうとした智昭の前に隆は立ちはだかり怒りをあらわにした。
「いい加減にしなさい!あなたは自らの裏金を隠すために娘をも利用したんですよ。そしてその結果。娘さんは殺された。あなたのそんな馬鹿げた考えが一人の人間を、いえ、娘さんをも殺したんですよ!」
その瞬間、智昭はすべての終わりを悟り、床にへばり崩れた。北野がそれを連行していった。
「立て。行くぞ。」
翌日、隆とマリアは山田の部屋で話していた。
「智昭は罪は軽いものの犯罪を犯したことに変わりはなく社長を辞任せざるを得なくなりました。インlまた刑事部長はお咎めなしだそうです。彼の力なら当然ですよね。」
「スーパー志藤にとっては相当な打撃でしょうねえ。」
「やはり秘密を隠すために自分の娘までも利用するなんていうのは間違ってますよ。」
「ええ。そしてその結果、その娘を不幸にさせてしまう。」
「奈津子さんも親思いすぎですよね。そんな馬鹿げた話断ればよかったのに。それだけ真面目だったってことか。」
「結果として奈津子さん自身も裏金を隠していたわけですから罪がないとは言えません。たとえ大切な人からの頼みでもそれが犯罪を犯していい理由にはなりませんよ。ええ。」
隆は一人強く頷いた。マリアはその姿を見て改めて正義感の強い人だなと感じた。
そう置き手紙を残して失踪したのは志藤奈津子という女子高生だった。
「もしもし。警察ですか。娘が家出しました!行方がわからないんです。」
慌てた口調で受話器に訴えるのは奈津子の母親の雅美であった。
弥富の住宅街にサイレン音が鳴り響く。警察車両は5分ほどで到着した。
「状況を詳しくお話しいただけますか?」
所轄の刑事が雅美に事情を尋ねた。
「2時に仕事を終えて3時頃に家に帰ってきたんですが娘がいなくてリビングの机の上にこの手紙が。」
雅美は手紙を指さしてそういった。
「それですぐ通報されたんですね?」
「はい。」
雅美は刑事の確認に頷いた。
30分ほどして協力要請を受けた愛知県警の刑事が到着した。捜索員もいる。
「失礼ですが娘さんが家出をするということは以前にもありましたか?」
愛知県警捜査一課の沢村がそう尋ねた。
「その気はありました。最近反抗的になってきましたから。」
雅美のその返事に沢村は頷いた。北野が捜査の方針について言った。
「とりあえず娘さんを家出と誘拐の線で捜索します。娘さんが行きそうなところを教えていただけますか?」
こうして捜索が始まった。万が一誘拐だった時に備えて雅美の家では所轄の刑事や北野たちが電話を待っていた。
「ちょっと失礼。」
そんな中家の中に突然姿を表した人物がいた。今まで数々の難事件を解決してきた久野隆と隆と行動をともにする加納マリアだった。
「なんですかあなた方は!」
所轄の刑事たちが2人の前に立ち塞がる。
「私達。奈津子さんの知り合いなんですけど。」
マリアがそう言うと刑事たちの顔色が変わった。事情を聞きたいと考えたのだろう。
「どうぞ。」
といって道を開けた。
「嘘は泥棒の始まりですよ。」
それを見た北野が嫌味な口調でマリアに耳打ちした。そして
「2人からは我々が話を聞きますから。」
と所轄の刑事たちに告げた。刑事たちは不服そうだったが県警の刑事のほうが立場は上のようだった。
「で?なんで来てるんですか?」
「とある方から行方不明事件が起きているのでぜひ力を貸してほしいとの連絡がありましてね。」
隆のその言葉からすべてを察した北野は
「沼田の野郎。」
と毒づいた。沼田というのは愛知県警鑑識課の沼田のことである。
「我々日々オンライン授業で暇なものですから。北野さんたちのお力になれるならぜひと思いまして。」
マリアが心にもないことを言うと
「ならば結構です。十分間に合ってますから。」
「奈津子さんはまだ見つかっていないようですねえ。とても間に合っているとは思えませんが。」
隆の言葉に腹を立てた北野は
「あなた方の助けなど必要ではないという意味です!」
と言った。隆はそれを受け流すと雅美に声をかけた。
「奈津子さんの母親の雅美さんですね。我々、奈津子さんのちょっとした友人なのですが少しだけお話を伺えないかと思いまして。」
「ああ。なんですか?」
雅美が動揺したように受けると
「あなたが帰宅した時間、正確にはどれぐらいでしたか?」
「3時過ぎですよ。3時2分ぐらいだったと思います。」
雅美が部屋の壁にある時計を見上げながらそういった。
「3時2分、間違いありませんか?」
隆が確認を取ると雅美は少し怪訝そうな表情となった。
「もちろん、それが絶対正確とは限りませんよ。大体それぐらいだったと思います。」
「結構です。で、警察に通報なさったのが3時5分ですねえ。つまりあなたは家に帰って探さないでくださいという置き手紙を見てすぐさま警察に通報されたわけですか。」
隆が一人納得したようにそう言うと
「何がおっしゃりたいんです?」
と、雅美はますます怪訝な表情を見せた。
「僕の中で1つ、疑問がありましてね。探さないでくださいという置き手紙があったとしても娘がどこかに行ったともなれば親として探しはしないものですかねえ。家の中はもちろんのこと彼女が普段から行きそうな公園や場所など探し回りはしなかったのですか?」
「警察に探してもらったほうが早いかなと思って。」
「なるほど。納得です。」
隆はわざとらしく手を叩く素振りを見せるとまた新たな質問をした。
「ですがあなたは先程、奈津子さんは家出をすることも多かったと言っていましたよね?」
隆は北野にそう尋ねると
「言ってましたけど。まだあなたここに来てませんでしたよね?」
「雄弁な後輩が話してくれました。」
マリアがからかうような目でそう言うと北野は沢村を睨みつけた。隆は話を戻す。
「失敬。続けます。奈津子さんに家出をする事がよくあったのならばなおさらなぜ探さなかったのですか?」
「手紙を置いていくなんてことなかったから不安になった。それじゃご不満ですか!」
雅美が大声でそう言うと隆は引き下がった。
「なるほど。確かにそのような心情になったとも十分考えられますねぇ。」
「なんなんですか?この人たちは。奈津子を見つけてくれるんじゃ無かったのですか!お帰りください!」
「申し訳ない。立ち入ったことをお聞きしてしまう僕の悪い癖。」
悪びれる様子もなく謝罪した隆は
「ではマリアさん。お暇しましょうか。」
「え?もういいんですか?私たちも捜索しましょうよ。」
「我々が探したところで見つかるはずもないと思いますよ。捜索はその道のプロにお任せして我々は山田君の家に戻りましょう。」
隆はそう言うと家を出て行った。雅美は怪訝な顔つきで隆とマリアを見送った。
隆とマリアは一旦山田の家に戻った。その3日後朝のニュースでそれは報じられた。
「10月14日に行方が分からなくなっている女子高生、志藤奈津子さんの捜索は今日で打ち切ると愛知県警が発表しました。捜索隊はこれまで懸命に奈津子さんの捜索活動を行ってきましたが未だに奈津子さんは発見されていません。今後は目撃情報や情報提供などの捜索を行っていくとのことです。」
キャスターがそう述べると隆はサイダーから手を放して立ち上がった。
「妙ですねぇ。」
隆と同じことをマリアも考えていた。
「ええ。行方が分からなくなってから3日しか経っていないのに捜索打ち切りっていうのは流石に早すぎます。」
「何かあるのでしょうか。」
愛知県警では北野と沢村が刑事部長の猪俣の部屋に来ていた。
「今回の捜索打ち切りには到底納得できません!」
正義感の強い刑事である北野が猪俣に堂々とそう言う。
「誰が納得しろと言った?」
「は?」
「別に私は決定事項を伝えているだけで君たちにそれを納得してほしいだなんてこれっぽっちも思っちゃいないよ。君たちは指示通り動いてくれればそれでいい。」
いかにもキャリアの言いそうな言葉を猪俣は言った。だがこう言われてしまうと返す言葉も無いのも事実である。
「ですが3日で打ち切りっていうのはさすがに。」
下手に出る形で沢村がそう尋ねた。
「ふと思ったんだよね。このまま近所を捜索し続けても意味ないんじゃないかなって。だってさ。女子高生なんだから金持ってるだろ?遠くに行っている可能性も高い。仮に誘拐されたとしてもどこか別の場所に連れさられている可能性が高い。だったら目撃情報とかを募ったほうが幅広く捜索できる、そうは思わないかい?」
猪俣が揶揄すようにそう言うと
「恐れ入りました。」
北野でも頭を下げざるを得なかった。
「なぜ3日で捜索を打ち切ったのか非常に気になりますねぇ。」
隆はサイダーを飲みながらそういった。
「とりあえず足取りを追いますか?」
「行方が分からなくなった際の足取りはもう警察が洗っているでしょう。我々は奈津子さんのこれまでの人生をたどります。」
「善は急げです。行きましょうか。」
マリアは席を立ちスタスタを歩き始めた。まだサイダーを飲み干していない隆は一気にサイダーを飲むと不満そうな顔をして山田の家を出た。
「地元の小学校と中学校を卒業しそこそこ頭の良い高校に入学してたみたいですね。」
弥富に着いた後、マリアはそういった。
「学生というのは学校で見せる自分と家庭で見せる自分の2つの面を持っていると言いますからねえ。」
「同感です。というより環境上そうせざるを得ません。」
マリアは深く頷きながらそう言った。
「学校での様子も聞いてみる必要がありそうですねえ。」
マリアは隆の考えには納得したが方法が思い浮かばなかった。
「でも直接学校に行って先生に話を聞くのは難しいんじゃありません?」
「学校にいるのは先生だけですか?」
隆はそう言うと高校に向かって歩き始めた。
「奈津子は真面目だった。いつどんなときでも正論を言うんだよね。それが無性に腹が立った。行方不明になったんだって?一生見つからなくていんだよ。」
高校から出てきた女子生徒に声をかけるとそのような返答が返ってきた。
「まあ、要するに気に入らないと。」
さすがにそれは言い過ぎだと感じたマリアは生徒を咎めるように見た。しばらく沈黙が続いたが隆がお構いなしに尋ねた。
「真面目でしたか。成績などはどうだったか分かりますか?」
「テストの点数は良かった。家では相当勉強してたんじゃないかな。じゃなかったらあんな点数取れないから。」
「そうですか。どうもありがとうございました。」
隆は礼を述べると戻ろうとしたが再び振り返り右手の人差し指を立てた。
「ああ、最後に1つだけ。奈津子さんは親にはどのように接していたか分かりますか?反抗的だったかとか分かりますかね?」
「いや全く。一回見たことあるの。奈津子が母親と一緒に仲良く買い物に行ってるの全然あの親子は仲が良かったと思うけど。」
女子高生がそう回答すると隆は
「そうですか。何度もすみませんでしたね。」
といって今度こそその場を立ち去った。マリアも後に続いた。
「一致しませんねえ。雅美さんが言っていた人物像と。」
高校近くの定食屋で昼飯を食べながら隆はそういった。
「ええ。雅美さんは奈津子さんは反抗的だったと述べ、一方でクラスメイトの話だと真面目な性格で親とも仲が良かったと述べた。どう考えても食い違ってますよね。」
「今の段階ではクラスメイトの証言のほうが説得力はありますねえ。仮にクラスメイトの証言が本当だとしたら雅美さんは奈津子さんの人物像を大きく歪めたことになります。」
「なんでたってそんな事を?」
マリアが至極当然の疑問を口にすると
「それが分かれば苦労しませんがね。そういえば奈津子さんの父親は大手企業の社長でしたねえ。」
隆は奈津子の父親が気になっているようだった。
「ええ。もともとは小さな商店だったようですが最近は一気に勢力を拡大しているスーパー志藤の社長です。それがなにか?」
「そのあたりに何かあるかもしれませんねえ。」
その言葉にマリアが突っ込んだ。
「そう思う根拠は?」
「根拠などという物はなく勘のようなものです。雅美さんはごく普通の主婦で奈津子さんも真面目な高校生だとわかれば父親についても調べてみたくはありませんか?」
隆はそれっぽいことを言った。
「じゃあ父親について調べてみますか?」
「我々では難しいでしょうから助っ人が必要ですねえ。」
隆と行動をともにし始めてもう長いマリアは察しが良くなってきた。
「北野さんに頭を下げますか。」
「丁重にお願いしてみましょうか。」
隆はそう言うと伝票を持って会計を済ませに行った。
「丁重にお断りします。」
隆が北野に電話を掛け要件を伝えると即座にそう言われてしまった。
「北野さん、警察の捜索は3日で打ち切られたそうですねえ。」
「それがなにか?」
「あまりにも早すぎます。猪俣刑事部長の命令だとは思いますがどういう理由なんですか?」
隆のその言葉は火に油を注ぐ形となってしまった。
「父親から賄賂でも受け取ってたんじゃないんですか!それを隠そうとして猪俣は父親をかばうために捜索の打ち切りを強引に進めた。」
北野が捲し立てるようにそう言うと隆は下手に出る形で
「そう思うのであれば父親について調べてみる価値があると思いませんか?なにかつかめれば猪俣刑事部長を失脚させることも十分可能だと思いますよ。」
といった。隆にうまく誘導される形となった北野だったが北野は沢村を連れて愛知県警を出た。
だがその2日後になって事態は一気に急変した。
自宅から少し離れた草村で奈津子の遺体が発見されたのである。
「おいおい嘘だろ?」
沢村は現場に到着して遺体の顔を見るなりそう呟いた。
「死亡推定時刻は昨夜の午後9時頃ですな。首を絞められたことによる窒息死です。」
沼田は冷徹とも言える口調で死亡推定時刻を告げる。そう、捜査をする上で感傷に浸っている時間などこれっぽっちもないのである。
「着衣に乱れがあるな。」
北野は奈津子の遺体を見回してそういった。
「ええ。見ての通り悪戯された後殺されてしまったようです。」
「通り魔的犯行ってとこですかね?」
沢村がそうまとめた。
「全くひっでえことするよな。でも自宅からこんなに近いところで遺体となって発見されたとなるとやはり家出か?」
「実は気になる点がありまして。」
沼田はそういった。
「失踪時と同じ服装です。」
「そうか。家出をしたはいいけど高校生の女の子が何日も同じ服でいるのは抵抗がありますよね。」
沢村は沼田の言わんとする事を察した。
「いかにも。同じ服装で家出を続けるのは考えにくいですよね。」
「だったらなんで同じ服装で自宅の近くにいたんだよ。少なくとも奈津子さんは昨夜の午後9時頃まで生きてたんだろ?」
誰一人として北野の至極当然な疑問に答えられなかった。
「奈津子さんが何者かに殺害されましたか。」
サイダーの蓋を開けながら隆はそういった。
「謎は増えるばかりですね。奈津子さんの失踪、早すぎる捜索打ち切り、そして奈津子さんの死。」
マリアがそう言うと
「とりあえず殺害現場に行ってみますか。」
隆はそう言うと部屋を飛び出していった。
隆とマリアは弥富の奈津子が倒れていたという草村にたどり着いた。一人の男を連れて。
「なぜ私を呼んだんですか?」
隆が呼んだ男というのは沼田だった。
「奈津子さんは失踪時からの服装と変わらない服装で遺体となって発見されました。最近は冷えてきましたからねえ。夜を越すためにはどこかで潜伏しなければならない。潜伏中に犯人と出くわし性的暴行の上殺害されたのであれば殺害現場の側に潜伏先があるはずだと思いましてね。沼田さんの力を借りたいと思いまして。」
隆がざっと説明すると沼田は
「じゃあ潜伏先はどこなんですか?」
といった。
「そうですねえ。ああ、あの祠とかどうでしょう。」
隆が指さしたのは草村の少し丘のようになっているところの上にある祠であった。
「あの中の指紋を調べてください。」
マリアがそう言った。
「分かりました。指紋が奈津子さんのものであればこの祠が潜伏先であった証拠になるということですな。」
沼田は張り切った様子で祠の中を調べ始めた。
「指紋出ました!」
少しすると沼田が声を上げた。
「奈津子さんのものなのかは持ち帰って調べないとわかりませんがごく最近の指紋です。それも複数。」
「そうですか。しかしどうやら彼女はこの祠で食事も取っていたようですねえ。」
隆はそういった。
「どうしてそんな事分かるんです?」
マリアが疑問を述べると
「あれを見てください。コンビニ弁当のゴミが捨てられています。」
隆は祠の裏を指した。たしかにそこにはコンビニ弁当のゴミが散乱していた。
「弁当生活だったようですな。学生時代を思い出します。」
祠から出てきた沼田がそう言った。
「これ、ひょっとするとひょっとしますよ。」
隆がある可能性に目をつけた。
「ひょっとするって?」
マリアはまだそれには気づいていないようだった。
「コンビニの防犯カメラが奈津子さんを捉えている可能性があります。」
だがその可能性を沼田は否定した。
「お言葉ですが、近所のコンビニだったら捜索隊が防犯カメラをチャックしていると思いますが。」
ここでマリアが隆の言った可能性を肯定した。
「遠くのコンビニに行ったとしたらありえない話じゃないのでは?」
だがマリアのその意見を隆は否定した。
「いえ、ですが奈津子さんは捜索されている身です。下手に動けば捜索隊に見つかる可能性も高い。」
「何が言いたいんですか?最初に奈津子さんがコンビニに行った可能性が高いと言ったのは隆さんですよ!」
「ええ。ですから彼女の代わりに買いに行った人がいるということですよ。」
隆の意見に沼田は賛同した。
「なるほど!彼女の代わりにコンビニで弁当を買って届けていた人物がいたということですな。」
「ええ。しかもレシートまで落としてくれています。ここのコンビニの防犯カメラを調べましょう。沼田さんは愛知県警に戻って指紋を調べておいてください。」
隆はそう言うと沼田と別れ歩き始めた。
「沼田さん!ちょっと待ってください。」
少し歩いたところで隆は突然声を上げた。
「どうしました?」
「このケースなんですかねえ?」
隆が指さした先には大きいケースがあった。
「これ、よくドラマで見るお金が入っているケースですね。」
マリアが率直にそう言うと
「沼田さん念の為ここからも指紋を取っておいてください。」
「承知しました。」
沼田はケースを持ち帰っていった。
「なんですか?極めて重要な情報って?」
隆とマリアは次に北野を呼びつけた。
「もったいぶらなければ来てくれないかなと思って。」
マリアがからかうようにそういった。
「実は奈津子さんの失踪には協力者がいたようなのでその特定をしていただきたいと思いましてね。」
隆が成り行きを説明すると
「そういうことならお任せください。さ、先輩、行きましょう。」
と沢村は張り切ってコンビニの中へ入っていった。北野もコンビニに入っていった。
隆とマリアもドサクサに紛れて後に続いた。
「このレシートの時間のカメラ映像を見せていただけますか?」
隆が先程拾ったレシートを店員に見せた。
「ちょっと、ついてこないでください。」
すかさず北野が注意する。
「失礼。ですがこのレシートがなければどの時間のカメラ映像を見れが良いかわからないと思いましてね。」
「とにかく、捜査の邪魔は謹んでください。」
隆は北野の注意を受け流した。突然の訪問に店員は戸惑ったが警察手帳を見せられると店長を呼んだ。
「どうも。店長の矢野です。」
矢野に防犯カメラの映像を見せてもらった御一行は衝撃の光景を目にした。レシートの時間に弁当を買う一人の女が映っていた。
「これ。」
マリアも驚いているようだった。
「ええ。雅美さんですね。」
そう、映っていたのは奈津子の母の雅美だったのである。
「ということは雅美が奈津子さんの失踪の手助けをしていたってことか?」
北野がまとめると隆もそれを肯定した。
「ええ。信じがたい話ではありますがそういうことになりますねえ。」
「どうなってんだ?」
整理が追いつかない様子の沢村に北野が命令した。
「よし、この映像雅美に突きつけるぞ。」
走り出そうとした2人を隆が呼び止めた。
「待ってください。下手に雅美さんを刺激するのは危険です。ここは沼田さんの鑑定が終わって奈津子さん殺しの犯人が分かってからでも遅くはないかと。」
「もちろんそのつもりですよ。よし、手がかりを探すぞ。」
隆の言葉に方針をガラリと変えた北野は沢村にそう命じると走り始めた。
沼田から電話が入ったのはその翌日のことだった。
「ケースの指紋や、祠から採取された指紋から奈津子さんを殺害した犯人が割り出せました。」
「そうですか。お疲れさまでした。指紋で人物が特定できたということはデータベースに登録があったということでしょうか。」
察しの良い隆の言葉に沼田は大きく頷いた。
「ええ。犯人は山本匠。56歳です。20年に渡って性犯罪を繰り返してます。今、北野刑事たちが確保に向かってます。」
「性犯罪ですか。殺人を犯したことはありましたか?」
「ええ。10年ほど前に20代の女性にわいせつな行為をした後に殺害してます。それで実刑を食らって1年前に出所してますね。」
スピーカーで通話していたのでマリアが横から割り込んだ。
「変態的な通り魔ってやつですか?」
「如何にも。私も離婚してから待ち行く人を見てはあの人ではないかと探したものです。」
沼田の体験談を受け流した隆は
「分かりました。山本の住所を教えてもらえますか?」
「え?行くんですか?北野刑事が難なく確保すると思いますけど。」
沼田が驚いたように尋ねると
「尋ねておきたいことがあります。取調室に連れて行かれては聞きたいことも聞けませんからね。」
「なるほど。承知しました。」
沼田は山本の住所を読み上げた。
山本の自宅は築40年ほどのボロアパートの2階の一室だった。
北野がインターホンを押すと山本が出てきた。
「山本匠だな。愛知県警だ。用件は分かるよな?」
いかにも刑事ドラマに出てきそうなセリフを北野は言った。
その瞬間、山本は部屋の奥へと走り出しベランダから地上へと飛び降りた。あまりの咄嗟の動きに北野と沢村は驚いて部屋に上がって追いかける。だが何回も警察に逮捕されている山本の逃げ足は早くなかなか追いつけない。そこに山本の前に隆が現れた。隆は足を差し出すと山本はそれに引っかかって転んだ。そこに北野と沢村が走ってきて山本を取り押さえた。
「さすがに何回も警察に逮捕されているだけのことはあります。逃げ足だけは早いようですね。」
隆が皮肉を言うと
「仕方ないだろ。自分でも自分を止められなかったんだ。」
「署で話聞こうか。」
沢村が連行していこうとしたところをマリアが呼び止めた。
「ちょっと待ってください。」
「なんですか?」
北野が面倒くさそうに振り返ると
「いくつか聞きたいことがあります。山本さん、あなたは奈津子さんを殺害しましたね。その時の彼女の様子はどうでしたか?」
「様子も何も少し疲れた様子だったよ。抵抗するにはしたけど、力弱かったし正直拍子抜けしたな。」
山本はそう答えた。
「そうですか。そしてあなたが奈津子さんから奪ったお金の金額はわかりますか?」
隆はそう次の質問を繰り出した。沢村が初耳の様子で話に割り込んだ。
「お金?」
山本の体が少しビクッとしたのが分かった。
「あなたは奈津子さんの持っていた100万円単位のお金を盗みましたよね。」
隆のその言葉に何も知らない北野と沢村は頭の上にハテナマークを浮かべた。
「山本さん!」
隆が顔を震わせてそう言うと山本はついに口を割った。
「300万ぐらい。いや、体を触れたついでに大金も手に入るのは一石二鳥だと思って。」
「あんたねえ!」
マリアが山本に掴みかかろうとすると隆がそれを止めた。
「山本さん、あなたは自らの欲望に負け一人の人間を殺してるんです。それも今回が初めてではない。あなたは自分の犯した罪の大きさに気付くべきです。今回は長くなりますよ。」
隆は怒りを堪えながらそう言った。
山本は少しうつむくと北野に連行されて行った。
「いやあ、今回もご活躍だねえ。」
隆とマリアが山田の家に戻ると山田がそう言って出迎えた。
「ご活躍って?」
マリアがとぼけたように言うと
「例の女子高生失踪殺人事件の犯人を捕まえたみたいじゃないの。」
夕方のニュースで見たのか山田はそう言った。すると隆が
「それについては犯人はもうわかっていました。我々の活躍というより愛知県警の活躍のほうがでかいと思いますよ。」
「まあいずれにしろ今回も事件が解決したのは間違いないわけだ。」
山田が話を終わらせようとすると隆が思いがけないことを言った。
「本当に事件は解決と言えるのでしょうかねえ。」
「犯人捕まえたんだろ?これを解決と呼ばずしてなんと呼ぶんだよ。」
マリアが隆の言いたいことを言った。
「まだいくつか謎は残ってますよね。」
「ええ。まず第一に奈津子さんの失踪理由、そして早すぎる捜索打ち切り、そしてなぜ奈津子さんは殺害されるまでの間あんな小さな祠にいたのか、そして最大の謎が奈津子さんはなぜ300万もの大金を手にしていたのか、ですね。」
隆が解けていない謎を上げると山田が呆れたように言った。
「殺人犯が捕まっても1つでも引っかることがあれば調べるんだねえ。」
「当然です。どのみち我々は暇ですからねえ。」
隆はそう言うとサイダーを飲み始めた。
翌日、隆とマリアは弥富の志藤家を訪ねていた。
「どうも。生前の奈津子さんの知り合いだった久野隆と申します。」
「同じく、加納マリアです。」
2人が自己紹介すると雅美は思い出したように
「ああ、あの時の。」
といった。
「娘さんの死については真にお悔やみ申し上げます。」
家に上がらせてもらった2人はそういった。家には雅美の夫、奈津子の父である智昭もいた。
「いや、すみませんね。わざわざそんな事を言いにいらしてくれるなんて。」
智昭がそう言うと
「実は本日は伺いたいことがあって参りました。」
マリアはそう返した。
「何でしょう?」
「警察は奈津子さんが行方不明になった時捜索をわずか3日で打ち切りました。それはなぜかお聞きできればと思いましてね。」
「さあ。警察の方に事情があったのではないかと。」
智昭が丁寧な口調でそう応じた。隆が質問を重ねる。
「警察からはどのような説明を受けましたか?」
「娘さんはお金も持っているだろうから遠くに行っている可能性が高い。だから今後は幅広く情報提供を呼びかけていくとのことでした。」
「なるほど。そうでしたか。」
隆は頷くと礼をして家を出ていった。
「嘘、ですね。」
志藤家を去った後マリアはそう呟いた。
「はい?」
「警察との間に何か取引があったんですよ。」
「確かに、何かを隠しているようには見えましたねえ。」
「問題はその取引がどんな取引だったのかです。」
マリアがそう言うと隆は
「僕はねえ。マリアさん。奈津子さんの捜索が打ち切られてから数日の間に何かが起こっていたのではないかと考えています。」
と言った。
「なぜです?」
「警察がわずか3日で捜索を打ち切ったということは志藤家から捜索隊が姿を消すということです。それは志藤家のどなたかにとって警察が家にいるという状態が都合が悪い状態にあったからではないかと。」
隆がそう推理すると
「なるほど。その都合の悪い事と金を取引したとも考えられますね。」
「金かどうかはわかりませんが十分そう考えることもできますねえ。」
「じゃあ都合の悪いことが何かを知る必要がありますね。」
マリアがそう言うと隆は通行く人に声をかけた。
「どうも。あそこの志藤さんの家について聞きたいことがあるのですが。」
「ああ。娘さんが亡くなったねえ。」
隆が声をかけたのは如何にも噂好きそうな女性だった。
「まだ奈津子さんの行方を探している時に警察が捜索を打ち切って志藤さんの家を去ってからなにか動きはありませんでしたか?」
隆のその質問にも女性は不審がることもなく答えた。
「そうなのよ。この前何人ものスーツ着た人たちが志藤さんの家入ってったのよ。」
「警察じゃなくてですか?」
マリアがそう尋ねると女性は何の迷いもなく
「違うわよ。そういう感じじゃなかった。なんかドラマとかでよく見る家宅捜索みたいな感じだったけど。」
家宅捜索なら警察だろ、とマリアはツッコみたくなった。隆は少し思案顔になって
「そうですか。」
と頷いた。
「どういうことです?家宅捜索だったら警察が家に来てたってことですよね。」
マリアはそう呟いたが隆は
「あくまでも家宅捜索に見えたということですから、実際には違っていたのかもしれません。」
「違うって?」
「例えば税務調査とか。」
「税務調査?」
聞いたことがあるが知らないその響きにマリアは訊き返した。
「税務調査官が会社に調査に入ることですよ。嘘偽りなく決算を行っているかなど不正がないかを調べる調査のことです。裏金などの情報があれば自宅も調べられるときがあります。税務調査は普通抜き打ちで行われるはずですが大企業では調査の情報を極秘に入手しているところもあると聞いたことがあります。」
隆がざっと説明するとマリアがそれに今回の事例を当てはめた。
「なるほど。税務調査が行われる事を志藤智昭が察知して家に警察がいると厄介だから捜索を3日で打ち切るように警察と取引をしたってことですか?」
「僕はそう考えています。」
「でも今となっては確かめようもありませんよ。智昭さん本人に聞けたもんじゃありませんし。」
マリアがそう言うと隆は携帯電話を取り出して北野の電話番号をプッシュした。
「何なんですか!こっちはねえ。山本の調書作りで忙しいんですよ!」
電話に出た北野が開口一番にそう言った。隆はお構いなしに
「実は調べたいことがありまして。」
「調べたいこと?」
「ほら、以前にもお願いしたではありませんか。あのときは奈津子さん殺害でそれどころじゃなくなってしまいましたが。」
隆がそう言うと北野はうまく誘導される形で
「なんです?」
と尋ねてしまった。
「スーパー志藤の本社にご一緒していただけますか?」
スーパー志藤の本社は弥富の中では目立つビルとなっていた。高層ビルとまでは言えないが十分大きいその佇まいからはまさに最近伸びている会社を匂わせるものがあった。隆とマリアはそこで北野たちと合流した。
「隆さん直々にお呼び出しがあったということは我々があなた方のお役に立てるってことですか?」
北野がそう尋ねるとマリアが答えた。
「いいえ。我々が求めているのはあなた方ではなくあなた方の持っているその警察手帳です。」
「何様だよ。」
マリアの皮肉めいた発言に北野は腹を立てた。
「まあまあ先輩。落ち着いてください。」
それを沢村が止めると
「スーパー志藤の社員の方々にお伺いしたいことがあります。」
隆がそう言うと北野は覗き込むように
「お伺いしたいこと?」
と尋ねた。
「まあそれはこれから分かりますので」
隆はそう言うと昼休憩の時間で外に出てきた社員に声をかけた。社員は若干疲れているように見えた。
「どうも。警察です。」
北野から警察手帳を見せられた社員は困惑した表情を見せた。横から隆が質問する。
「スーパー志藤、いつも楽しく利用させてもらってます。このような立派なオフィスまで素晴らしいとしか言いようがありません。ここでの仕事はとても楽しいものなのでしょうねえ。」
隆のその言葉に社員は冗談じゃないという顔になった。
「その顔だと会社になにかご不満でも?」
マリアが社員が話しやすいように誘導すると社員は話し始めた。
「智昭社長はかなりの傲慢で。できるはずのない企画を通そうとしたり失敗の責任はすべて僕達に回ってくる。正直もう限界です。」
社員が不満をぶちまけると
「なるほど。それは意外ですねえ。しかしこの会社はホワイトというのが僕の印象です。やはり不正などは行われていませんよねえ。」
隆がそう言うと社員は更に冗談じゃないという顔になった。
「スーパー志藤は智昭社長が商店から始めたスーパーでその時のことで色々やばいことがあるんです。」
社員がそう言うと沢村が話に入ってきた。
「やばいことって?」
「自宅に数百万もの裏金を隠しているという噂です。だけど今は愛人宅に移されたようですが。」
愛人というキーワードも初耳ではあったが隆は別の所を尋ねた。
「自宅から愛人宅に裏金を移動させたという噂になっていた、となると裏金を移動せざるを得ない事情があったということですか?」
隆のその質問に社員は小さく首を縦に振った。
「事情ってなんだよ?」
北野がいきなり横から尋ねたが社員は答えない。沢村が北野の前に立った。
「ちょっと先輩!せっかくうまく誘導してたのに雰囲気ぶち壊さないでくださいよ!」
「俺、なんか言ったか?」
自覚すらない北野を沢村は後ろに下がらせた。だが隆がここでこう呟いた。
「税務調査。」
その言葉に社員の体がビクッとなったのは誰の目にも一目瞭然であった。
「そうなんですね?」
隆が念を押すと
「もういいですか?昼休憩終わっちゃうんで。」
社員は去っていった。
「図星ですね。」
その後マリアがそういった。
「ええ。確かに智昭さんの自宅で最近税務調査があったことは間違いなさそうですねえ。」
「ちょっと待って下さい。智昭さんの自宅で税務調査が行われていたとしてそれが一体何だと言うんですか?」
事の成り行きを理解できていない様子の北野は困惑するばかりだった。
「智昭さんの自宅に向かいましょう。真実はそこで話します。」
そういう隆に北野は腹を立てた。
「今ここで話していただけませんかねえ。」
「同じことを二度話すのはあなたが想像している以上に苦痛なんですよ。さあ行きましょうか。」
隆がそう言って歩き始めると北野は地団駄を踏んだ。
「ああ、もう!車乗ってってください!智昭の自宅に向かうんでしょう!」
「どうもありがとう。」
4人を乗せた車は智昭の自宅へと走り始めた。
4人が智昭の自宅を訪ねると雅美が仏壇に手を合わせていた。智昭が4人を家に上げた。
「奈津子が殺されて、犯人には本当に罪を償ってほしいと思ってます。」
智昭がそう語ると隆が火蓋を切った。
「娘さんの殺害についてはお悔やみ申し上げます。」
「私にも責任があると思っています。もっと奈津子の言うことを聞いて家出を事前に防げていれば、こんなことには。」
智昭が後悔した口ぶりでそういった。
「ええ。そうでしょうねえ。娘さんに裏金を託したはいいものの、娘さんは殺害され裏金も犯人に奪われてしまったのですから。」
隆のその言葉に智昭は
「は?」
と答えた。隆は続ける。
「ずっと気になってたんですよ。奈津子さんの学校の生徒にも話を聞きましたが成績もよく、家出をするとは考えられないような親思いな生徒だったと聞きました。そんな奈津子さんがなぜ家出をしたのでしょう。」
「さあ、こっちが聞きたいぐらいですよ。」
「こうは考えられませんか?奈津子さんは家出をせざるを得ない状況に陥っていた、この家では税務調査が行われる予定だったそうですねえ。この家にあなたは数百万単位の裏金を隠していました。その裏金を隠すために奈津子さんに裏金を託したんですよ。」
隆が仮説を述べるとマリアが雅美に駆け寄り写真を突きつけた。
「奈津子さんが小さな祠で潜伏している間食料などの調達はあなたが行っていたんですね。コンビニの防犯カメラ映像にあなたが映ってました。」
「バカバカしい。奈津子が失踪したとわかったら警察が来て税務調査が行われた時厄介じゃないか。」
智昭がそう反論すると隆が生徒を誘導した教師のように微笑んだ。
「いい反論ですね。ええ。警察が来れば来たであなたには都合が悪い。だから警察を形だけの捜索をさせて黙らせたんですよ。愛知県警猪俣刑事部長をご存知ですね?彼と以前から繋がりのあったあなたは彼に頼み込んで捜索を3日という短い期間に設定した、そして捜索範囲を拡大しなかったのも捜索員に奈津子さんが見つからないため。」
智昭に反論の余地はなく下を向いて黙るのみだった。
「税務調査から裏金を守るあなたが考えた完璧なシナリオでした。ですがここで最大の誤算が生まれます。」
隆の言葉をマリアが引き取った。
「奈津子さんは山本という通り魔に殺害され裏金も奪われてしまった。」
「ええ。結果、税務調査を乗り切ることはできたかもしれませんがあなたはかなりの損失を負いました。」
隆はここで一旦区切った。
「これが我々の考えです。どうでしょう。異論があればどうぞ?」
「確かに、確かに奈津子の失踪を指示したのは俺だ。だがそれが罪になるか。」
智昭が高圧的な態度を取ると黙って聞いていた北野が前に出てきた。
「当然だ。娘を失踪させておいて警察に虚偽の通報をしたなら立派な偽計業務妨害罪だ。」
「さすがの猪俣刑事部長も被疑者の逮捕までは止められないでしょう。」
マリアがそう言うと智昭は崩れ落ちた。隆は雅美に声をかけた。
「あなたが奈津子さんが置き手紙を見つけてからすぐに通報したのも最初から奈津子さんの失踪を知っていたからだったんですね。」
奈津子の殺害で雅美は精神的に追い詰められているようだった。ひとり語り始めた。
「全部、事実です。全部、認めます。」
「雅美!止めろ!」
尚も抵抗を続け雅美に殴りかかろうとした智昭の前に隆は立ちはだかり怒りをあらわにした。
「いい加減にしなさい!あなたは自らの裏金を隠すために娘をも利用したんですよ。そしてその結果。娘さんは殺された。あなたのそんな馬鹿げた考えが一人の人間を、いえ、娘さんをも殺したんですよ!」
その瞬間、智昭はすべての終わりを悟り、床にへばり崩れた。北野がそれを連行していった。
「立て。行くぞ。」
翌日、隆とマリアは山田の部屋で話していた。
「智昭は罪は軽いものの犯罪を犯したことに変わりはなく社長を辞任せざるを得なくなりました。インlまた刑事部長はお咎めなしだそうです。彼の力なら当然ですよね。」
「スーパー志藤にとっては相当な打撃でしょうねえ。」
「やはり秘密を隠すために自分の娘までも利用するなんていうのは間違ってますよ。」
「ええ。そしてその結果、その娘を不幸にさせてしまう。」
「奈津子さんも親思いすぎですよね。そんな馬鹿げた話断ればよかったのに。それだけ真面目だったってことか。」
「結果として奈津子さん自身も裏金を隠していたわけですから罪がないとは言えません。たとえ大切な人からの頼みでもそれが犯罪を犯していい理由にはなりませんよ。ええ。」
隆は一人強く頷いた。マリアはその姿を見て改めて正義感の強い人だなと感じた。
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