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第1話 全然だめだよマグリナちゃん!
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「うわーん! 今日も全然だめだよマグリナちゃん!」
暖炉の前でクロとお菓子を食べながら話していると、泣きながらお姉様が帰ってきた。今日も学園で嫌なことがあったみたい。
外からは夕陽が差しこんでいて、気がつくと部屋も暗かったから明かりをつけた。
お姉様はソファーの隣に来ると、私はその手に思い切り抱き締められる。顔にお姉様の涙が付いた。
「だめだめだったの! どうしよう、今日こそハリルに嫌われちゃったかも!」
そう言ってさめざめと泣く。
毎日こうだ。ミシェルお姉様は、私よりも四つ年上の十六歳だ。国立の学園に通っていて、妹のひいきめでなく容姿端麗、頭脳明晰、完璧超人だ。……ある一点を除いては。
「人の視線を感じると、緊張しちゃうのよ-!」
そう、お姉様は、重度の人見知り――平たく言えばコミュ障なのだ。身内の前だと平気みたいだけど、他の人の前だと固まってしまう。本当は素直でかわいいのに、しばしば誤解されてしまう。
例えばこうだ。
エピソード1 殺人微笑
お姉様は人と話すと緊張して顔の筋肉が固まってしまうらしい。
でも、なんとか笑おうとして頬を持ち上げるから、目がまるで笑っていない。それが周囲からするとなにか気を損ねてしまったように見えるらしい。
その微笑みを向けられた人は、自分に落ち度がなくても思わず泣きながら「どうか殺さないでください」と懇願するという。その様子を見ていた人が噂したのは、ミシェル・フィッツジェラルド嬢の笑顔を見た人は死ぬ、という都市伝説だ。
だからお姉様は余計に人前で笑わなくなってしまった。
エピソード2 省略地獄
お姉様は人と話すとき上手く言葉が出てこないらしい。
でも、なんとか伝えようとすると断片的なかけらとなって表出する。こんな感じだ。
友人になりたいご令嬢がいたとして、こう話しかけてきたとする。「街で素敵なハンカチを見かけて、あなたにどうかしらと思っ買ったのよ。受け取っていただけるかしら?」
かわいそうなお姉様はこう答える。「(そんな素敵なハンカチを)あなたに(ただで)貰うなんて、(今度何かお礼にお茶でも誘わせていただかなくては)恥よ」
……始終こんな感じだから、友達はゼロ人。だけどお姉様の目下の悩みは友達づくりではなかった。
「今日はどうしたの?」
お姉様の背中をさすってやると嗚咽とともに今日の出来事を話し始めた。
「ハリルとレイアちゃんが中庭で話してるのを見かけたから私も一緒に仲間に入れてもらいたくて話しかけたら、すごく怖がられちゃって、レイアちゃんは泣き出しちゃったの。ハリルも私のこと睨み付けて、す、す、すごく怖かった……」
「話しかけたって、どんな風に?」
お姉様の分のお茶を運んできたクロが言った。会話を途中から聞いていたみたい。憎たらしいほど整った顔をこちらに向けながら、向かいのソファーに座る。
「ミシェルちゃんみたいな美人に話しかけられたら男も女も嬉しいとおもうけどなあ。マグリナならともかくさ」
「ひとこと余計」
ギロッとクロを睨むと肩をすくめられる。たしかに姉妹だけど美人のお姉様と違って私の見た目はあんまりだ。でも悲観してない。人それぞれいいところって違うもの。でもそれをこのクロに言われるとどうしようもなくむかつく。
クロ……、この人はお姉様と同じ歳の我が家の居候。お父様の昔のご友人のご子息で、勉強のために我が家に来ているらしい。かっこいい、と思ったのは初日の対面だけで、会った瞬間「うわ、君はぽっちゃりの呪いにでもかけられたの?」と言われてから大嫌いになった。おまけにクロが勉強してるところはみたことない。大抵寝てるか本を読んでるか、女の子を誘ってるか、趣味のお菓子作りをしているか、のどれかだ。
つまり、クロは
「ごくつぶし」
「マグリナはオレに辛辣すぎる」
私の嫌味は容易くかわされた。クロはまたお姉様に聞いた。
「で、なんて言ったの?」
「別に、普通のことよ。一緒に話しましょうって」
私とクロは顔を見合わせた。きっとコミュ障お姉様のことだから、なにかまた誤解されるようなことを行ったんじゃないだろうか。
「ハリルに嫌われたら生きていけない」
そう言ってお姉様はまた泣いた。
先ほどから話に出ているハリルというのは、お姉様の婚約者の公爵家の跡取り息子のこと。小さい頃に決められた許嫁という奴で(ちなみに私にはいない)、結婚するのが当たり前みたいなんだけど、最近雲行きが怪しいのだ。
なんだかハリルにちょっかいを出してる女がいるみたい。お姉様はちっとも気がついていないけど、そのレイアという女は、なんだかいけ好かない。私の勘がぴこんと告げる。
「このままではお姉様が誤解されちゃうわ! お姉様の立ち位置は、聞いてる限り少女小説のライバル令嬢そのものね!」
「つまり噛ませ犬ってことか?」
クロが長めの金髪をさらりとかき上げる。お姉様はまた泣く。
「こらクロ! お姉様が傷ついたじゃないの!」
「初めに言ったのはマグリナだ!」
しくしくと泣いているお姉様は言った。
「……そしたら、私はどうしたらいいの?」
「作戦を考えるのよ! お姉様がヒロインに返り咲くウルトラCを!」
そう言ってクロが作ったクッキーをまたひと囓り。クロが感心したように言った。
「まだ食べるのか? また太るぞ」
暖炉の前でクロとお菓子を食べながら話していると、泣きながらお姉様が帰ってきた。今日も学園で嫌なことがあったみたい。
外からは夕陽が差しこんでいて、気がつくと部屋も暗かったから明かりをつけた。
お姉様はソファーの隣に来ると、私はその手に思い切り抱き締められる。顔にお姉様の涙が付いた。
「だめだめだったの! どうしよう、今日こそハリルに嫌われちゃったかも!」
そう言ってさめざめと泣く。
毎日こうだ。ミシェルお姉様は、私よりも四つ年上の十六歳だ。国立の学園に通っていて、妹のひいきめでなく容姿端麗、頭脳明晰、完璧超人だ。……ある一点を除いては。
「人の視線を感じると、緊張しちゃうのよ-!」
そう、お姉様は、重度の人見知り――平たく言えばコミュ障なのだ。身内の前だと平気みたいだけど、他の人の前だと固まってしまう。本当は素直でかわいいのに、しばしば誤解されてしまう。
例えばこうだ。
エピソード1 殺人微笑
お姉様は人と話すと緊張して顔の筋肉が固まってしまうらしい。
でも、なんとか笑おうとして頬を持ち上げるから、目がまるで笑っていない。それが周囲からするとなにか気を損ねてしまったように見えるらしい。
その微笑みを向けられた人は、自分に落ち度がなくても思わず泣きながら「どうか殺さないでください」と懇願するという。その様子を見ていた人が噂したのは、ミシェル・フィッツジェラルド嬢の笑顔を見た人は死ぬ、という都市伝説だ。
だからお姉様は余計に人前で笑わなくなってしまった。
エピソード2 省略地獄
お姉様は人と話すとき上手く言葉が出てこないらしい。
でも、なんとか伝えようとすると断片的なかけらとなって表出する。こんな感じだ。
友人になりたいご令嬢がいたとして、こう話しかけてきたとする。「街で素敵なハンカチを見かけて、あなたにどうかしらと思っ買ったのよ。受け取っていただけるかしら?」
かわいそうなお姉様はこう答える。「(そんな素敵なハンカチを)あなたに(ただで)貰うなんて、(今度何かお礼にお茶でも誘わせていただかなくては)恥よ」
……始終こんな感じだから、友達はゼロ人。だけどお姉様の目下の悩みは友達づくりではなかった。
「今日はどうしたの?」
お姉様の背中をさすってやると嗚咽とともに今日の出来事を話し始めた。
「ハリルとレイアちゃんが中庭で話してるのを見かけたから私も一緒に仲間に入れてもらいたくて話しかけたら、すごく怖がられちゃって、レイアちゃんは泣き出しちゃったの。ハリルも私のこと睨み付けて、す、す、すごく怖かった……」
「話しかけたって、どんな風に?」
お姉様の分のお茶を運んできたクロが言った。会話を途中から聞いていたみたい。憎たらしいほど整った顔をこちらに向けながら、向かいのソファーに座る。
「ミシェルちゃんみたいな美人に話しかけられたら男も女も嬉しいとおもうけどなあ。マグリナならともかくさ」
「ひとこと余計」
ギロッとクロを睨むと肩をすくめられる。たしかに姉妹だけど美人のお姉様と違って私の見た目はあんまりだ。でも悲観してない。人それぞれいいところって違うもの。でもそれをこのクロに言われるとどうしようもなくむかつく。
クロ……、この人はお姉様と同じ歳の我が家の居候。お父様の昔のご友人のご子息で、勉強のために我が家に来ているらしい。かっこいい、と思ったのは初日の対面だけで、会った瞬間「うわ、君はぽっちゃりの呪いにでもかけられたの?」と言われてから大嫌いになった。おまけにクロが勉強してるところはみたことない。大抵寝てるか本を読んでるか、女の子を誘ってるか、趣味のお菓子作りをしているか、のどれかだ。
つまり、クロは
「ごくつぶし」
「マグリナはオレに辛辣すぎる」
私の嫌味は容易くかわされた。クロはまたお姉様に聞いた。
「で、なんて言ったの?」
「別に、普通のことよ。一緒に話しましょうって」
私とクロは顔を見合わせた。きっとコミュ障お姉様のことだから、なにかまた誤解されるようなことを行ったんじゃないだろうか。
「ハリルに嫌われたら生きていけない」
そう言ってお姉様はまた泣いた。
先ほどから話に出ているハリルというのは、お姉様の婚約者の公爵家の跡取り息子のこと。小さい頃に決められた許嫁という奴で(ちなみに私にはいない)、結婚するのが当たり前みたいなんだけど、最近雲行きが怪しいのだ。
なんだかハリルにちょっかいを出してる女がいるみたい。お姉様はちっとも気がついていないけど、そのレイアという女は、なんだかいけ好かない。私の勘がぴこんと告げる。
「このままではお姉様が誤解されちゃうわ! お姉様の立ち位置は、聞いてる限り少女小説のライバル令嬢そのものね!」
「つまり噛ませ犬ってことか?」
クロが長めの金髪をさらりとかき上げる。お姉様はまた泣く。
「こらクロ! お姉様が傷ついたじゃないの!」
「初めに言ったのはマグリナだ!」
しくしくと泣いているお姉様は言った。
「……そしたら、私はどうしたらいいの?」
「作戦を考えるのよ! お姉様がヒロインに返り咲くウルトラCを!」
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