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第2話 学園に潜入
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ともあれ現地視察だと考えた。作戦を立てるには、敵をまず知らなくてはならない。今回の場合、敵というのはお姉様の難儀な性格だ。
と言うわけで、私はお姉様には秘密で学園に来ていた。秘密なのは知ってしまったらお姉様が羞恥で死んでしまうと思ったから。なぜかクロも来ていた。邪魔だ。
「おお、かわいい子がいっぱいいるな」
「遊びじゃないのよ!」
「当たり前だろ、まさかマグリナ、君は遊びだと思ってたのか?」
はあ。思わずため息を吐きそうになる。いやいやこんな男にかまけていられない。お姉様を探さなきゃ。
それにしてもすごく大きな学園。私もあと三年したらここに通うことになると思うとゆっくり見て回りたい気もする。でもそれをすると遊びに来たと思われて、クロの思うつぼだ。だから知らんぷりしてお姉様を探した。
「確か、休み時間は大抵中庭にいるって言ってたわ」
「お、あれじゃないか」
クロが指差す先には、ベンチに座る一組の男女。そして、ああ、なんてこと! 仁王立ちでその前に立つお姉様。時既に遅し。
男の方は見覚えがある。お姉様の婚約者のハリルだ。ならきっとその隣にいるのはレイアだろう。レイアの顔はここからだとよく見えない。
「なにやらただ事じゃなさそうね」
お姉様は何かを言って、二人は怯えたような表情をしている。
そっと近づく。
校舎の陰から耳をそばだてると三人の会話が聞こえてきた。
「なぜそんな事を言うんだミシェル!」
とがめるようなハリルの声の後にお姉様の声が続く。
「あら、当然のことでしょう? いつもその人と私の婚約者は一体何をしているのかしら? どうして平民出身のレイアさんと一緒にいるの? レイアさん、話があるわ、向こうに行きましょう」
そう言ってお姉様はレイアの手を取る。でもレイアはそれを振りほどいた。
「ひどいです! いつもそうやってわたしをいじめて! わたしはただ、転校したばかりでハリル様にいろいろ教えて貰っていただけです!」
「ふーん、色々ね? それって他の人じゃだめなのかしら? どうしてもハリルじゃなきゃだめなの?」
「そ、そんな言い方!」
様子を見ていたクロがぼそりと呟く。
「すごいな、あれでミシェルちゃんは普通に話してるつもりなのか。どう見ても、嫉妬で言いがかりをつけてるようにしか見えない……」
「お姉様的にはこうよ。『ふたりとも何を話してるの? 私も混ぜて~』『レイアちゃん、分からないことがあったら私が教えてあげるよ~。あっちにいい場所があるから案内するよ』って感じかしら」
「マグリナ、通訳に向いてるんじゃないか」
クロはため息をついた。
「でもあれじゃ、完全にミシェルちゃんがお邪魔虫だ」
確かに、ハリルとレイアはかなり仲が良さそうだ。お姉様の言葉は客観的に見ると嫌味に見える。レイアは怯えているし、ハリルは冷たい視線をお姉様に向けている。
かわいそうなお姉様は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。
「そのままでいられると思わないで!」(訳:後で一緒に話そうね~)
と叫ぶとその場を去ってしまった。
お姉様が去った後、泣き出したレイアの頭をハリルがぎこちなく撫でる。私は舌打ちをした。慰めるのはそのしたたかそうな女ではなく、ご自分の婚約者でしょうが!
家に帰ったら、またお姉様を慰めてあげよう。
帰路の馬車の中でそういえばと思ってクロに聞いた。
「あなたはお姉様と同じ歳だけど、学園にはいかないのね」
外を眺めていたクロは横目でちらっとこっちを見る。
「家庭教師が付いてたから、勉強終わってるんだ。実家が金持ちなんでね」
「へえ。じゃあこっちで何の勉強してるの?」
クロは確か勉強を口実に我が家に居候している。
「別に勉強することはないけどさ。親父が結婚しろってうるさいから逃げてきた」
「へえ」
「聞いといて興味ないのかよ!」
内心、初めて聞く理由だったからびっくりした。クロが誰かと結婚する姿なんて想像できない。
クロの結婚相手ってどんな人なんだろう。よくお姉様のことをかわいいって褒めてるから面食いかしら。やっぱり、クロの子供っぽい性格を許容できる人じゃないと厳しいわね。でもそんな人いるのかしら?
クロは逃げなくても、結婚できなかったんじゃないの? そう思うとおかしくて笑っちゃった。そしたらクロがヘンな顔をしていた。
と言うわけで、私はお姉様には秘密で学園に来ていた。秘密なのは知ってしまったらお姉様が羞恥で死んでしまうと思ったから。なぜかクロも来ていた。邪魔だ。
「おお、かわいい子がいっぱいいるな」
「遊びじゃないのよ!」
「当たり前だろ、まさかマグリナ、君は遊びだと思ってたのか?」
はあ。思わずため息を吐きそうになる。いやいやこんな男にかまけていられない。お姉様を探さなきゃ。
それにしてもすごく大きな学園。私もあと三年したらここに通うことになると思うとゆっくり見て回りたい気もする。でもそれをすると遊びに来たと思われて、クロの思うつぼだ。だから知らんぷりしてお姉様を探した。
「確か、休み時間は大抵中庭にいるって言ってたわ」
「お、あれじゃないか」
クロが指差す先には、ベンチに座る一組の男女。そして、ああ、なんてこと! 仁王立ちでその前に立つお姉様。時既に遅し。
男の方は見覚えがある。お姉様の婚約者のハリルだ。ならきっとその隣にいるのはレイアだろう。レイアの顔はここからだとよく見えない。
「なにやらただ事じゃなさそうね」
お姉様は何かを言って、二人は怯えたような表情をしている。
そっと近づく。
校舎の陰から耳をそばだてると三人の会話が聞こえてきた。
「なぜそんな事を言うんだミシェル!」
とがめるようなハリルの声の後にお姉様の声が続く。
「あら、当然のことでしょう? いつもその人と私の婚約者は一体何をしているのかしら? どうして平民出身のレイアさんと一緒にいるの? レイアさん、話があるわ、向こうに行きましょう」
そう言ってお姉様はレイアの手を取る。でもレイアはそれを振りほどいた。
「ひどいです! いつもそうやってわたしをいじめて! わたしはただ、転校したばかりでハリル様にいろいろ教えて貰っていただけです!」
「ふーん、色々ね? それって他の人じゃだめなのかしら? どうしてもハリルじゃなきゃだめなの?」
「そ、そんな言い方!」
様子を見ていたクロがぼそりと呟く。
「すごいな、あれでミシェルちゃんは普通に話してるつもりなのか。どう見ても、嫉妬で言いがかりをつけてるようにしか見えない……」
「お姉様的にはこうよ。『ふたりとも何を話してるの? 私も混ぜて~』『レイアちゃん、分からないことがあったら私が教えてあげるよ~。あっちにいい場所があるから案内するよ』って感じかしら」
「マグリナ、通訳に向いてるんじゃないか」
クロはため息をついた。
「でもあれじゃ、完全にミシェルちゃんがお邪魔虫だ」
確かに、ハリルとレイアはかなり仲が良さそうだ。お姉様の言葉は客観的に見ると嫌味に見える。レイアは怯えているし、ハリルは冷たい視線をお姉様に向けている。
かわいそうなお姉様は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。
「そのままでいられると思わないで!」(訳:後で一緒に話そうね~)
と叫ぶとその場を去ってしまった。
お姉様が去った後、泣き出したレイアの頭をハリルがぎこちなく撫でる。私は舌打ちをした。慰めるのはそのしたたかそうな女ではなく、ご自分の婚約者でしょうが!
家に帰ったら、またお姉様を慰めてあげよう。
帰路の馬車の中でそういえばと思ってクロに聞いた。
「あなたはお姉様と同じ歳だけど、学園にはいかないのね」
外を眺めていたクロは横目でちらっとこっちを見る。
「家庭教師が付いてたから、勉強終わってるんだ。実家が金持ちなんでね」
「へえ。じゃあこっちで何の勉強してるの?」
クロは確か勉強を口実に我が家に居候している。
「別に勉強することはないけどさ。親父が結婚しろってうるさいから逃げてきた」
「へえ」
「聞いといて興味ないのかよ!」
内心、初めて聞く理由だったからびっくりした。クロが誰かと結婚する姿なんて想像できない。
クロの結婚相手ってどんな人なんだろう。よくお姉様のことをかわいいって褒めてるから面食いかしら。やっぱり、クロの子供っぽい性格を許容できる人じゃないと厳しいわね。でもそんな人いるのかしら?
クロは逃げなくても、結婚できなかったんじゃないの? そう思うとおかしくて笑っちゃった。そしたらクロがヘンな顔をしていた。
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