コロシアムでチャンピオンになった勇者は、気ままに魔王討伐にむかいます

ヒムネ

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小さな灯火

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〔――だから言ったのよっ、やめとけって……こうなるってわかってたでしょっ、もうっ!〕
 ソレイユは一人拷問部屋の声が聞こえる距離にいた。そこから聞こえるルナの殴られた痛みからの悲痛な叫びが、悲鳴が彼女の胸に突き刺さる。

〔どうしてっ、どうして逆らったりしたのよルナっ、あのままあなたがシャルルを焼却炉に捨ててれば……〕

 本当にそうなのだろうか……。

 あのまま毎年の勇者の様に焼却炉に捨てて良かったのか……。

 あのいつもウキウキなシャルルの笑顔、あたし達に刺され時の顔が、とても悲しそうだった……。

「わたしは、卑怯だ……」

 何故かそう思った。思わずにはいられなかった。壁に寄りかかると聞こえてくる魔王の殴る響き……シャルルはルナにとって何なのか、自分にとっても何なのかは今は分からない。ただ、エリイとして仲間になって楽しかった。その記憶が、今は虚しく頭を流れてくる。

 ――しばらくして音が聞こえなくなり殴り終わったのだと気が付いた。するとやはり階段を上る足音とともに魔王ディメントが姿を現した。
「……」
 静かに敬礼をするソレイユ、そこに執事のカニングが彼女を見て止まった。
「やあ、キミはあのルナと共に勇者シャルルの仲間になったふりをしていたね」
「……はいっ、そうですが?」
「焼却炉に勇者の遺体が無かった理由、キミは知っているかな?」
 明らかにこちらを疑っている。だがここはいつものように強気にでなくてはいけない。
「そうですか、それでルナが拷問を」
「知っているのか知らないのかを聞いているんだが?」
「知りません、わたしは彼女とは関係ないので」
「あのルナという魔族は勇者に肩入れしすぎた結果、嘘をついた。キミは大丈夫かね?」
「勇者に肩入れ、ですか。ありえません。わたしは彼女と違ってそういう事にはドライなので」
「……そうか、それはすまなかった」
 謝ると執事カニングは城の角を曲がり去っていった。
「もう、無理みたいね……」
 ソレイユは何かを思いカニングと違う方向に歩いていく……。

 何かを思ったソレイユが消えた頃、イトの不思議な力によりシャルルはゆっくりと目を覚ました。
「ここは……オレん家……クリスばあちゃんっ!」
 ガタンッ、『クリス婆ちゃん』という声が聞こえたその婆ちゃんとイコーナ走ってきた。
「シャルルさん!」
「はぁ、はぁ、目覚めたかシャルルッ!」
「あっ、イコーナにばあちゃん、やっぱりここはオレん家だったのか……イト?」
 ずっと看病していたのかシャルルの膝にイトが疲れて眠っていた。
「……シャルル、頭の中を整理してよく思い出すんじゃ」
「……オレは……仲間に、裏切られた……」
「あのシャルルさん、その仲間って誰なんですか?」
「イコーナ……覚悟して聞いてくれ……エリイとトレチだ」
「そんな……」
「オレが倒れる時、少しだけ姿を覚えてる、二人は魔王の部下の魔族だった」
「エリイさんとトレチさんが……魔王の部下!?」
 裏切られただけでも驚愕なのに愕然とするイコーナ。
〔……じゃあ、あたしが見たトレチさんは?〕
「シャルル、燃えとるかい?」
 クリスが問うとシャルルは苦笑いをしながら首をゆっくり横に振った。
「もう……オレは……恐いよ」
「なにをだい」
「仲間って奴が……くっ」
 辛そうに目を閉じシャルルは自分の恐怖を口にした。その言葉と一緒に身体は震えているのがわかった。
「シャルルさん……」
「ごめん、イコーナ……オレはもう……」
「シャルル、今は家でゆっくりとしていなさい……ゆっくりとね」
 シャルルは黙って頷くとクリスがニッコリと笑顔でイコーナと部屋を出ていった。
「オレの……オレの炎は……もう……」
 手のひらを見つめてながら、もういまの自分は炎の勇者を名乗れない気がした。
「う~ん……あっ、シャルル、さん」
「イト……」

「シャルルさんは、もう二度と戦えないのでしょうか」
「わからん……わからんがこのままでは、シャルルは魔王に勝てん」
「あたしは……いったいどうすれば……」

 ――静かになった拷問部屋には生命が著しく薄くなっていた。
「……おい、生きてるか……」
 ルナを見るレイジだったがしかし返事はない。
「死んじまったか……」
「ん……まだ、生きてた……みたい」
「派手にやられたな」
「……」
魔王あのヤローは女だろうがお構い無しか」
「……」
「生きてて、よかったな……」
「死んでても、よかったのに」
「……どうしてそう思う」
 上を向いたルナ、ジャランと鎖が鳴る。
「勇者を裏切って、魔王を裏切って……あたしの人生なんて、バカみたい……死んでもよかったのに」
「……どうして魔王を裏切った」
 呆れたのか力が抜けたのか、座り込んだルナ。
「ふふ、そんなこと聞いてどうすんのよ」
「だって普通の神経じゃないだろ……魔王を裏切るなんてこと……」
「……わからない」
「ちっ、何とかしてここを出て復讐とシャルルのかたき、両方叶えてやる……」
「彼なら生きてるわよ」
「ほんとうかっ!」
「ええ、心臓を刺したのに、なぜかね」
 復讐心をあらわにしていたレイジに初めてニヤリと笑顔が戻っていった。
「そうかシャルル……よかった、なら何としてもここを出ないとな……」
〔あなたが羨ましいわよ、王子、いや、レイジ……わたしにはもう、彼を想う資格もないもの〕
 すると真夜中に拷問部屋から微かな足音がした。
「お前はっ!」
「ソレイユ……」
「静かにして……逃げるわよ」
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