七代目 双子の桃太郎

ヒムネ

文字の大きさ
上 下
48 / 50

    鬼の目にも涙

しおりを挟む
「桃太ぁぁぁーっ!」
「いやぁーっ、あにぃぃぃぃーっ!」

 桃子が咄嗟に刀を抜き、

「うぎゃーっ」

 紫鬼毒の腕を斬り、青鬼は痛みを通り越し金棒を持ち、

「この、悪魔がぁぁぁーっ!」

 頬に力の限り当て、空麗は、

「ざまあみろ、ざまあみろー、あぁーっはっはっはっはっはっはっはっはっ······」

 まるで勝ったかのように、笑いながら海の中へと落ちた。

「桃太、おいっ、桃太っ!」
「兄ーっ!」
「う、桃太」

「ぶ、無事か······夕陽、殿」

「無事だよ、お前の、おかけで」
 彼女は涙で声が震えていた。
「兄ぃいーっ」
「桃子、か」
 兄の手を両手で持つ、
「すま、ない······こんな、事に、なって、しまって」
「止めてっ、兄、これじゃまるで·····」
「時、ぐれ、決着つけられず、すまな、い」
「そういうなら、生きて俺と、俺と戦え。ちくしょー、こんなはずじゃ」
 少しずつ声に力がなくなっていく桃太、
「ひ、りゅう、すず、げん、た、こく、えん殿······ここまで、ありが、とう」

「や、約束だから、桃太」
 飛竜は言葉が見つからない。

 皆ただただその場で泣くしかなく、

「どう、やら······もう迎え、の、ようだ」
「兄、兄ぃーっ!」

「もも、たろうと、お、にの······みら、いを······たの、む······」
 
「兄······兄ぃっ、ねぇ、兄ぃぃぃーっ!」

 桃太は、最後まで桃太郎と鬼の未来を案じながら夕陽の膝の上でその眼を閉じ息を引き取った。

「うわぁぁぁーん、兄ぃぃぃーっ!」

 妹は泣いた。優しくも強く、時には厳しい兄の助けになりたく鬼退治に出たのに、彼女は一番守りたかった兄を失ったのだ。

「ううっ、こんなことって」
「桃太が死んじゃったよ~」
「これが桃太郎ですか、何と勇敢な、ううっ」
 キジや猿、カラスまでが彼を失った事で絶望にくれ泣いていると、傷を押さえながら青鬼はずっと黙っている姉に、

「姉貴、桃太の墓を作ってやろう」
「ぐすっ、時雨ざん」
「この犠牲を招いたのは俺達だ、だから」

「······ああ、こうなったのはうちらのせいだ。最初はギクシャクしてたけど、桃太は分かってあたしらを信用してくれた」

「ああそうだ、姉貴」

「時雨、すまねえ」

「······やっぱりか」
「えっ、えっ、何ですか?」
「桃子殿少し離れて」
「えっ、どうして」
 青鬼は桃子を肩を掴み、
「黙って観ててくれ」
 鬼ヶ島の崖で涙を浮かべながら夕陽の背中と、少し出ている兄の脚をみる。

「桃太、あんたは良い男だったぜ······ん」

 そう言いながら桃太の唇にそっと口づけをした。
「なにを?」

 すると、

 兄の手が僅かに動いた気が、

「え、兄······」

 気が付き目を開くと、

「う······う、ゆうひ、殿?」

「目、覚めたかよ」

「兄ぃぃぃーっ!」

 奇跡が起きた······。
しおりを挟む

処理中です...