花火でみえた少年と幽霊の『真実』

ヒムネ

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「ど、どうしたの仁藤にとうさん、どっか痛くなったの?」

「・・・うんうん、そうじゃないの、ううっ」

 どこか悪いわけじゃないならどうして。せっかく花火が鳴ってるのに・・・やっぱり屋台のことで食べられなかったり遊べなかったりして今になってショックだったのかもしれない。


「せっかく一緒に来たんだし花火観ようよ、そうすればさっ、悲しいことなんて吹き飛ぶかもしれないし」


「うん、うんっ・・・わたし」


 涙をこぼして口を手で塞いで震えて話す彼女。


「いま、すごい、しあわせ」


「え・・・」


「自殺して、気がついてお父さんお母さんに話しかけてもわからなくて、どうすればいいのかわからずに15年間もさまよって・・・つらかった、自殺して後悔した、誰に話しても私の声は聞こえない・・・私にはみんなが見えてみんなには私がみえない、だからずっと一人ぼっち、孤独だった」


「・・・たいへん、だったね」


「でもそんなとき、池で大輔だいすけくんと出会って、最初は驚いたけど、すっごく優しくしてくれて嬉しかった・・・それで思っちゃった、やっぱり私は人が好きなんだって」


「人が・・・すき・・・」


「うん、イジメられたり、親に怒られたりしたけどやっぱり私は人が好きだって」


「・・・そうかもしんない、オレも友人とかめんどくせーって思うけど人が好きっていうのなんかわかる気がする」


「ありがとう大輔くん」


『はじめて胸がドキドキする――』


「うん、オレも仁藤さんが気づかせてくれて感謝だよ、ありがとう」



『この気持ち・・・わたしは大輔くんが――』



「それでね、わたし・・・」


「うん」


「わたし、消えることに決めた」


「・・・やっぱりそうなんだ」


 消える、それは別れを意味する。


「正直ずっと恐かったの、消えるってもしかしたら地獄にいくかもしれないって思ったら」



『でも、いわない――』



 それは、誰でもこわい・・・。


「でもやっぱり生きて出来ることをしたいって大輔くんのおかげで想えたから」

「それはよかったよ」

「それでね、ただ消えるだけじゃ寂しいからお願いしたいことがあるの」



『わたしは死人で霊体だけどあなたは生きてる――』



 何故か花火に夢中な人たちを避けて河川敷の裏側まで歩いた。


「それでどうするの」


「・・・あの、さ・・・



『あなたの足かせにはなりたくない、死人のわたしのことを引きずってほしくないから、だから――』



「え! な、ななんで?」


「・・・最後くらいは、名前で呼ばれて・・・消えたいの」



『だからあの言葉は、いわない――』



 オレは16年生きてきて女の子と面と向かって下の名前で呼んだことは一度もない。だから恥ずかしい、けど彼女は未来に向かって行くためにも逃げるわけにはいかない。


「あ、あ、あおい・・・さん」


「あ、最後に『さん』がついた、やりなおしぃ」


 オレよもう腹を決めるんだどうにでもなれ。


「ふぅーっ・・・葵」


「・・・ぐすっ」


「え、だ、ダメだった?」


「うんうん、ありがとう大輔くん」


 葵が薄くなっているのがオレは見えた。


「だいすけくん・・・わたしはもう消えるけど・・・学校がんばってね」


「あ、うん、がんばるよ・・・あおい」


「また呼んでくれた・・・フフッ」


「あのさっ、花火の菊を調べたことがあったときっ、そこには花言葉で『真実』って書いてあったんだっ」


「え」


「自殺しちゃった葵だけどそれで15年間も後悔してちゃんと反省して『いけないことをした』『生きたい』『消えることを決めた』葵は、真実に向き合った葵は、ぜったいに地獄なんかいかないからっ」



「ありがとう・・・やさしい・・・すけくん・・・」



『さようなら・・・わたしの大好きな・・・だいすけくん・・・』



 葵は大粒の涙を零して未来の先へと消えていった。辛い思いをして15年間さまよっても最後は笑顔で、きっとほんとうの葵は元気で明るくて純粋な女の子なんだ。

 それと礼を言うのはこっちの方だよ葵。オレ学校がつらくて『死んだほうが楽かも』って思ったこともあってさ、軽く考えてた。でも葵と話して一人ぼっちの寂しさと触れられない哀しさとか、涙を見て目を覚ましてもらったから・・・。

 オレはしばらく葵を見送った場所から動けなかった。花火の音が妙に寂しく感じながら・・・。
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