花火でみえた少年と幽霊の『真実』

ヒムネ

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「――ちょうど5時だな、いるかな仁藤にとうさん」

 高校生になったばかりのあおいは人見知りな性格から人とは距離を取っていた。そんなとき同級生は品定めをするように彼女を虐めの対象に選び嫌がらせは始まった。


「いじめか・・・」


 机の引き出しにゴミを入れられ、靴には画びょう、体操着などは切り捨て、帰りは喧嘩をふっかけられる・・・聞いてるだけで腹立たしい。


「あ、仁藤さん」


 もう学校なんて行きたくない、誰もがそう思うくらいのとき両親に相談するも共働きで忙しかったため話は聞いてもらえず一人悩んだ葵は、死にたいという強い想いと誰にも悩みを打ち明けられない孤独や心の痛みで手首を切った。


大輔だいすけ君」

「え、着物、どういうこと?」

「えへへ、実はいつでも服を変えられるの、ホラッ」

「うわ、すげ、着物から制服ってマジシャンみたいじゃん」

「便利でしょ」

「服を変えられるのか~、ふ~ん・・・」

「あ、いまスケベなこと考えたでしょ」

「か、考えてないよ」

「ほんと~?」

「・・・オレ帰る」

「ゴメンごめん、怒らないで大輔君」

「・・・じゃあ花火の広場まで行こう」


 そんな過去の話を聞いてふと1週間後の花火大会に気がつけば彼女を誘ってた。15年間様々なところを彷徨ってたらしくて他の場所に移動しても問題だろうし、何より葵には少しでも辛い思い出を和らいでほしかったから・・・。


「――5時半」

「うわぁ屋台・・・懐かしいな」

 花火大会の広場にはたこ焼きとか焼きそばに綿あめ目当てで並んでる人たち。そんなことよりも花火で内心ワクワク。なにせここから聴こえる花火は最高に爆音、見上げると飛び散る火の粉は大きく偉大にみえてくるんだ。

「屋台みようか」

「うん!」

 ところが喜ぶのもつかの間ですぐ問題が、

「おいしそう」


「仁藤さん食べ・・・あっ」

「わたし、食べられないから」


 幽霊だから食べられないことを忘れてた。それとオレが彼女と喋ってるのだって周りには独り言に聞こえてるんだった。
 せっかく明るい雰囲気だったのに嫌な空気になってきたし何とかしないと。


「それにしてもみんな色んな着物とか浴衣着てるね」

「え・・・うん」

「オレはああいうの似合わないからな~」

「そんなことないよ」

「・・・ま、まあ、仁藤さんの着物姿・・・に、似合ってるっていうか・・・き、綺麗だと、お、おもうよ」

「ええっ」


 恥ずかしいからそっぽを向いて言ってしまった。でもオレにはこれが限界だ。


「あ、ありがとう・・・大輔、くん」


 頬がスイカの中身くらい赤くなってる、笑顔が戻ってこれで暗い感じは無くなった。このあとも葵が幽霊だと考えながら屋台を周りおしゃべりを楽しんで花火の時間を待つ・・・。


「――はじまるよ仁藤さん」

「うん、大輔くん」

 中くらいの大きさの菊花火が咲き始まった。オレと葵は河川敷の階段に座って観ることにしたんだ。花火は変わらないけど何回見ても全然飽きないし感動する。一緒に観てる葵も笑顔だからなんだか嬉しい、でも、


「ううっ・・・」

「ん、どうしたの仁藤さん」


 楽しい雰囲気にとつぜん彼女はうなだれる。心配で小声で訳を聞くことに、でもどうしてか同時に別れの予感を強く頭によぎっていた・・・。
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