暗闇の中、想い出の人形は動いた。

ヒムネ

文字の大きさ
2 / 4

車でショッピングモール

しおりを挟む
 ――ボサボサ髪を整え伸びたヒゲを剃り身だしなみを整てオレは車を1週間ぶりに運転する。ムカつく人形も連れて。


「はぁ~っ······おいっ」


「なに?」隣の助手席に置いた鞄からチョコンと顔を出す人形、ソーセージを食べて少し落ち着きよくよく考えてみれば何故こいつは喋っているのだろう、そしてなぜ動くのかなど疑問が浮かんできていた。


「お~い、あたしを呼んどいて何も答えないわけ?」


「なんでデートで大型ショッピングモールなんだよ」


「それは······あたしが取ってもらったところだからよ。自分の古巣に帰るってやつ」


 そんなもんかねと思いながらも細目になってハンドルを回す。
 人形の古巣なんてそもそも作られた工場とかじゃないのかと疑問になるもどうでもいいこと。ただ緑沙つかさの伝言を聞ければそれで。


「ねぇねぇ、助手席には緑沙ちゃんが乗ってたんでしょ?」


「ああそうだよ······生きてたときにな」


「どんな感じだったの? おしえておしえてー」


 彼女が亡くなった人の前でよく聞けるな、しかも自分は教えないくせにおしえてって図々しいと感じならも語る。


 18で免許を取得したオレは当時から緑沙と付き合っていた。なので当然彼女にそのことを伝えると、
「取ったばっかだし、あ、あたしは乗らないよっ、嫌だからね」と最初は断られていたが免許を取って半年たったある時、


「ごめーん、ヒロー迎えに来て~」


 緑沙はお母さんと喧嘩して置いていかれオレを呼んだ。


「――それ以降乗りなれて、気がつけばただ乗りタクシーみたいにこき使われた」


「こきって······いやだったの?」


「そ、そんなことは、ね、ねえよ」


「どうして、よ?」


 自車の中なのに鞄からオレを見つめてハンドルの指をソワソワするようなことを平気で聞いてくる人形。


「ねぇどうしてよ」


「ス」


「す?」


「スッ」


「ス~?」



「ス、スキだからに、き、決まってるだろっ!」



「キャーキャー、緑沙しあわせ~」


「だーうるせぇー、運転してんだから変な汗欠かすなーっ」


 何故か告白の様なことになってしまった。この言葉をもっと緑沙に言ってあげればよかったとすぐ後悔の念が押し寄せる。


 そうこう喋っているうちに大型ショッピングモールへと着いた。今日は平日で人もまばら、金のない高校生の頃は緑沙とよくここでデートしたっけ。ゲームセンターで遊んだり、よく服を選ばせられたけど1度も「これよね」じゃなくて「はぁ? こっちっしょ」ってなるんだよな~必ず、んじゃ聞くなよって思う。


「なにボーッとしてんのよ」


「あ、わりぃ」


 鞄からボソッと話しかける人形につい謝ってしまったがとりあえず言われた通り1階のゲームセンターに向かいムカつく人形を取った台に来たが中はもちろん変わっていて別のアニメキャラ人形になっていた。


「ほら、連れてきてやったぜ、もう緑沙の」

「どんな感じだった?」


「はぁあ?」


「ここで2人で取ったときのこと」


「んだよ、ったく次から次へと~」これでようやく緑沙のことを聞けると思ったのに今度は人形コイツを取った時の話しをしろという。
「おしえて~ん」と鞄からちょこっと顔を出し色気声でお願いしてくる人形にホントに腹が立つ、舐められているのかとさえ思いつつも緑沙のためにと、


「お互いに交互にやって······最後に俺が取ったの、それで終わり」


「うそだ~、あのときイチャイチャしてたじゃん」


「お、おま、おまえ何でそんなことを」


「あのとき良く聞こえなくて分からなかったの、だから~」
「またおしえろか?」


「うんっ!」


 人形コイツは悪魔の人形だとオレは強く思った。


「――もうやめようぜ、つかさー」


「ええぇえーっ、やだ、悔しいもん」


「頑張ったって取れねえよ」


「取るもん」


 もう2人合わせて10回もやって取れないし諦めようとオレは緑沙を説得、だが彼女はどうしても欲しいらしく譲らず何かを思いつく。


「あの人形取ってくれたら······キスしてあげる」


「えっ、つかさの、キス?」


 この頃、高校生だったオレたちは付き合ってから1度もキスをしたことがなく、その2文字を聞くと頭の中がピンク色に染まるオレ。


「おーい、そこの変態、なに鼻の下伸ばしてるのかな~」


「はっ、ほ、ほんとうだな?」


「もちろんっ、あたしは嘘つかないよ!」


 頭の中がピンク色のオレはこのときも聞かずに人生で初めて内なる炎が燃えたのを覚えている。


 そして、なけなしの小遣いを使い切り人形をゲットしてとなった。


「――それでそれで?」


「キスしてもらったよ」


「キャーキャー」





 あれはオレの完全な勘違い。緑沙は1度もとは言っていないのに勝手に鼻の下を伸ばして口だと妄想していた······若気の至りだ。


「がっがりするね、それ」


「ああ、ほんっと情けなかったよオレ」


 話を聞いた人形は人目を確認し、いないと分かると鞄から出てオレの腕から肩まで来ると、


 チュッ、


「んあ······なんだよ」


「キスよキス」


 オレの口まで近づいて人形がキス、をしたらしいが人間ではないためもちろん感触はフェイスタオルである。


「······なんでお前とキスなんだよ」


「いいじゃない、ささっ、次行くわよ次」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

一途な恋

凛子
恋愛
貴方だけ見つめてる……

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

No seek, no find.

優未
恋愛
経理部で働くアマラは結婚相手を探して行動を始める。いい出会いがないなと思う彼女に声をかけてきたのは、遊び人の噂もある騎士オーガスタで―――。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

least common multiple

優未
恋愛
高校卒業から10年を記念した同窓会に参加した詩織。一緒に参加予定だった友人の欠席により1人で過ごしていると、高校時代の人気者である久田に声をかけられて―――。マイペースな頑固者と本命には及び腰の人気者のお話。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

婚約者の幼馴染?それが何か?

仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた 「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」 目の前にいる私の事はガン無視である 「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」 リカルドにそう言われたマリサは 「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」 ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・ 「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」 「そんな!リカルド酷い!」 マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している  この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」 「まってくれタバサ!誤解なんだ」 リカルドを置いて、タバサは席を立った

処理中です...