不死身の貴方

みみみ

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不死身の貴方

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「俺、人魚なんだよね。」
学校の通学路、男二人だけの帰り道のこと。彼はそう言って朗らかに笑った。嘘の匂いがした。いつもの彼らしい穏やかな笑みと冗談で、けれど僕の心は騒がしかった。
「人魚って、普通足は魚なんじゃないの。それに戸籍とかいろいろ問題あると思うけど。」
今思えば冷静ではなかったのだと思う。僕は彼の言葉に、態と分かりやすく半笑いを乗せて返答をした。彼の冗談を否定したくて、けれど、嘘の匂いさえしなければ、彼のこんな話も事実なのではないかと思えた。それほどまでに、僕にとって彼は特別で不思議で、人知を超えたような存在だった。
「足は海の魔女に頼んだんだよ。童話みたいな魔女じゃなくて、優しいおばあちゃんなんだけどさ。戸籍は自分でどうにかしたよ。というか正確に言うと、洗脳をいろんな人にかけて誤魔化してるってだけなんだけど。」
彼はそう言ってこちらを見た。嘘の匂いがした。メガネの奥に光る瞳は黒色だと思っていたが、よく見てみれば深い深い群青色をしているようにも見えた。
「...それで、お前は何で僕にそれを教えたの。」
いつの間にか僕たちは道の真ん中で立ち止まっていた。僕の声は震えていて、これから来るであろう返事に酷く怯えていた。
「例えばさ、お前は洗脳で俺のことを友人だと思ってる訳なんだけど。どう思う? 俺の事、軽蔑したり嫌いになったりする?」
僕は閉口した。疑問文で返されているのだから、本当は僕は答えを返さないといけない。その筈なのに、分かっているのに、その事実がとても恐ろしかった。
「...ごめん。」
口から出たのは返答ではなく謝罪だった。彼の質問には答えたくはなかった。
「えっと...。」
彼は僕の謝罪に少し戸惑ったような声を出した。僕はいつの間にか地面を見つめていて、彼の表情も素振りも何一つ読み取れない。これから来るであろう彼の言葉が、何よりも怖かった。
「...俺はさ、別に良いと思ってるんだよね。」
彼の思いがけない言葉に、僕は顔を上げた。
「俺はさ、どうやって友人になったのかよりも、友人で居られて良かったって思えるかどうかが大事だと思ってるからさ。」
嘘の匂いがした。僕はどうすればいいのか分からなくなった。ごめんなさいの言葉が口元で引っかかって、出てきそうもなかった。

気が付くと僕は彼の記憶を消していた。彼が何処で僕の正体を知ったのか知る由も無かったが、そんなことは二の次で、どうでもよくなっていた。ちゃんと友人になりたかったな。そんな思考が心に沈んだ。






俺の好きな人は人魚だったらしかった。ファンタジーな事実はけれど信頼に足るもので、俺はさんざん苦悩して、一つの事実に気が付いた。彼との出会いが洗脳だとしても、彼といて楽しいという事実は消えようもないのだ。恋心だけは丁寧に胸にしまって、俺は彼に冗談を持ち掛けた。
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