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「おれは誰にも投稿したことを話していませんよ? それにこれからも話しません。そもそもおれは投稿したことすら忘れていたんですよ?」
緊張のせいかおれは早口になっていた。
「そうですね、たしかにあなたは忘れていました。でも、今日思い出しましたよね?」
嬉しそうに話す男。男はにやついた顔でおれを見ながら「ざんねーん」とも小声で言った。普通に考えて腹を立ててもいい状況だと思う。しかし今、おれは男に対して怒りよりも恐怖を感じていた。
「そもそもあなたが誰かに言うとか言わないとか関係ないんです。書いた人が存在している状態自体が都市伝説になることを阻害するので」
男は突然憐れむような寂しげな表情になり、おれに語りかけるように言った。
「別に私は自分が書いた話を都市伝説にしたいと思っていません! それなら問題ないはずです」
おれがそう言うと男はますますおれを憐れむような悲しげな顔をした。
「駄目なんですよ、あなたがどう思っているかなんて関係ないのです」
「えっ……いやいや、私が書いた話ですよ?」
「そうですね。でも、もうお話は世に出ています」
男の顔に「もう諦めろ」と書かれているような気がした。お前に希望はない、そう顔が物語っている。
「お話が世に出たからなんだっていうんです? SNSで少しバズっただけじゃないですか」
「世に出たお話は人に読まれ恐れられる度に力を持ちます。あなたが投稿したお話は既にたくさんの人に読まれ、信じられ、かなり強い力を持っています」
「そ、それがどうしたっていうんですか!」
「わかりませんか? あなたが作ったお話はもうあなたのものでは無いのですよ」
男がそう言った途端、おれは突然胸が苦しくなった。
息苦しい。思わず右手で胸を押さえる。男の方を見るとおれを憐れむような顔をしている。
「力を持ったお話は都市伝説になろうとします。理由は簡単です。忘れられるのを避けるためです。お話は忘れ去られた時に死ぬんですよ。知っていましたか?」
「そんなこと……知ってる訳がないだろう……」
苦しくて思わずおれは跪いた。まるで誰かに心臓を強く握られているようだ。
「そうですか。じゃあ覚えておいてください。お話だって死ぬ事を恐れます。だから少しでも忘れられないようにするために都市伝説になろうとするんですよ」
おれが目の前で苦しんでいても男は気にせず語り続ける。
「そ、そんな理由でおれは殺されるのか? ふざけるな! あんたは……一体何者なんだよ!」
おれはあまりにも理不尽な話に怒りを覚えた。おれが投稿した話のせいでおれは死なないといけない? そんな事があってたまるか。おれは男を睨みつけた。
「私ですか? 私はお話が都市伝説になるのをお手伝いしているただの物好きです」
男の顔から憐れみの色が消えた。そしてまたにやついた顔で言った。
「あなたが書いたお話は私の想像を上回る成長スピードを見せてくれました。実は私が動かなくても近いうちにあなたは『パトロール男』のお話に殺されることになっていたんです。でも、早く都市伝説にしてあげたいなと思いまして。つい出しゃばっちゃいました」
おれを見つめる男は満面の笑みを浮かべた。
「そ、そんな理由でおれはあんたに殺されるのか……納得できない……」
「ふふふ、別にあなたに納得してもらいたいとは思っていませんよ。ああ、まだ五分経っていませんが私がお話ししたい事は全て話し終わってしまいました。では、さようなら。お元気で」
「えっ……?」
おれの視界は急に真っ暗になった。そして体に力が入らなくなり床に頭をぶつける感覚がした。
おれはそのまま意識を失った。
スーツを着た白髪の男はゆっくりと歩いて床に倒れている篠山の体に近づく。真っ白の手袋を右手つけ、目を見開いたまま倒れる篠山の側にしゃがみ込み脈を確認する。
「死亡を確認しました」
男は満足そうに頷く。そして優しい目で死体を見つめる。
「ここだけの話、新しい怖い話が力をつけ始めているんです。私はそちらの観察がしたいので『パトロール男』には早く都市伝説になって欲しかったんですよ」
そう言うとそっと右手で死体の右目だけを閉じ、「ウインクしてるみたいですね」と呟いてくくくと笑った。
「都市伝説になってしまえばすぐに消える事はありません。これで心置きなく新しいお話の観察ができます。この度は素敵なお話を書いてくださりありがとうございました」
死体に向かって楽しげに語ると男はゆっくりと立ち上がった。
「あ、そうか死んでいるからもう聞こえていませんね、失礼しました」
そう言って男がわざとらしく舌をぺろりと出して笑った瞬間、男は音もなく篠山の部屋から姿を消した。
篠山の死体が発見されたのは週明けの月曜日。仕事に来ず連絡の取れない部下を心配した上司が第一発見者となった。
幸か不幸か、この上司が部下の死と娘から聞いた都市伝説が関係している事を知ることはなかった。
緊張のせいかおれは早口になっていた。
「そうですね、たしかにあなたは忘れていました。でも、今日思い出しましたよね?」
嬉しそうに話す男。男はにやついた顔でおれを見ながら「ざんねーん」とも小声で言った。普通に考えて腹を立ててもいい状況だと思う。しかし今、おれは男に対して怒りよりも恐怖を感じていた。
「そもそもあなたが誰かに言うとか言わないとか関係ないんです。書いた人が存在している状態自体が都市伝説になることを阻害するので」
男は突然憐れむような寂しげな表情になり、おれに語りかけるように言った。
「別に私は自分が書いた話を都市伝説にしたいと思っていません! それなら問題ないはずです」
おれがそう言うと男はますますおれを憐れむような悲しげな顔をした。
「駄目なんですよ、あなたがどう思っているかなんて関係ないのです」
「えっ……いやいや、私が書いた話ですよ?」
「そうですね。でも、もうお話は世に出ています」
男の顔に「もう諦めろ」と書かれているような気がした。お前に希望はない、そう顔が物語っている。
「お話が世に出たからなんだっていうんです? SNSで少しバズっただけじゃないですか」
「世に出たお話は人に読まれ恐れられる度に力を持ちます。あなたが投稿したお話は既にたくさんの人に読まれ、信じられ、かなり強い力を持っています」
「そ、それがどうしたっていうんですか!」
「わかりませんか? あなたが作ったお話はもうあなたのものでは無いのですよ」
男がそう言った途端、おれは突然胸が苦しくなった。
息苦しい。思わず右手で胸を押さえる。男の方を見るとおれを憐れむような顔をしている。
「力を持ったお話は都市伝説になろうとします。理由は簡単です。忘れられるのを避けるためです。お話は忘れ去られた時に死ぬんですよ。知っていましたか?」
「そんなこと……知ってる訳がないだろう……」
苦しくて思わずおれは跪いた。まるで誰かに心臓を強く握られているようだ。
「そうですか。じゃあ覚えておいてください。お話だって死ぬ事を恐れます。だから少しでも忘れられないようにするために都市伝説になろうとするんですよ」
おれが目の前で苦しんでいても男は気にせず語り続ける。
「そ、そんな理由でおれは殺されるのか? ふざけるな! あんたは……一体何者なんだよ!」
おれはあまりにも理不尽な話に怒りを覚えた。おれが投稿した話のせいでおれは死なないといけない? そんな事があってたまるか。おれは男を睨みつけた。
「私ですか? 私はお話が都市伝説になるのをお手伝いしているただの物好きです」
男の顔から憐れみの色が消えた。そしてまたにやついた顔で言った。
「あなたが書いたお話は私の想像を上回る成長スピードを見せてくれました。実は私が動かなくても近いうちにあなたは『パトロール男』のお話に殺されることになっていたんです。でも、早く都市伝説にしてあげたいなと思いまして。つい出しゃばっちゃいました」
おれを見つめる男は満面の笑みを浮かべた。
「そ、そんな理由でおれはあんたに殺されるのか……納得できない……」
「ふふふ、別にあなたに納得してもらいたいとは思っていませんよ。ああ、まだ五分経っていませんが私がお話ししたい事は全て話し終わってしまいました。では、さようなら。お元気で」
「えっ……?」
おれの視界は急に真っ暗になった。そして体に力が入らなくなり床に頭をぶつける感覚がした。
おれはそのまま意識を失った。
スーツを着た白髪の男はゆっくりと歩いて床に倒れている篠山の体に近づく。真っ白の手袋を右手つけ、目を見開いたまま倒れる篠山の側にしゃがみ込み脈を確認する。
「死亡を確認しました」
男は満足そうに頷く。そして優しい目で死体を見つめる。
「ここだけの話、新しい怖い話が力をつけ始めているんです。私はそちらの観察がしたいので『パトロール男』には早く都市伝説になって欲しかったんですよ」
そう言うとそっと右手で死体の右目だけを閉じ、「ウインクしてるみたいですね」と呟いてくくくと笑った。
「都市伝説になってしまえばすぐに消える事はありません。これで心置きなく新しいお話の観察ができます。この度は素敵なお話を書いてくださりありがとうございました」
死体に向かって楽しげに語ると男はゆっくりと立ち上がった。
「あ、そうか死んでいるからもう聞こえていませんね、失礼しました」
そう言って男がわざとらしく舌をぺろりと出して笑った瞬間、男は音もなく篠山の部屋から姿を消した。
篠山の死体が発見されたのは週明けの月曜日。仕事に来ず連絡の取れない部下を心配した上司が第一発見者となった。
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