都市伝説ガ ウマレマシタ

鞠目

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 誰だこのじじい。鍵をかけ忘れてたのか? いや、そもそもなんでこいつはおれの家に上がってるんだ?
 気がつけばおれは無意識のうちに立ち上がっていた。でも再び座ろうとは思えない。
「こんばんは」
「だ、誰ですか、あなた?」
 笑顔で挨拶されたが、おれにはそんな余裕はなかった。家の鍵はやっぱりかけていたと思う。今日はそこまで酔っ払っていない。玄関のドアが開く音は聞こえなかった。いつ、どうやって入った?
 異常なほど白い肌。紳士的な笑みをたたえているが目の奥は笑っていない。こいつ、なんだか人間味を感じない。とりあえず丁寧な言葉遣いをするのが良さそうな気がした。
「こんばんは、すみません勝手ながらお邪魔しております。本日は篠山さまに一つお話がございます」
「話ですか?」
「はい、とっても簡単なお話です。あ、お話というよりはお願いです。そうですね、五分ほどで終わります」
「五分ですか……」
 状況が全く読めないがすぐに終わりそうでおれは少しだけ安心した。
「はい五分です。結論から申しますと篠山さまには今から死んでいただきます」
「……は? 今なんて?」
 再び緊張感が増した。それもさっき以上に。おれは思わず両手を強く握りしめていた。じんわりと手汗が滲むのを感じる。
「聞こえませんでしたか? では、もう一度申し上げます。あなたには今から死んでいただきます」
「な、なんでおれが死なないといけないんですか? 意味が分からない。おれが何かしましたか?」
 根拠はないが一つだけわかった事がある。確実にこいつは危険だ。このまま家にいればおれは死ぬ。本能がそう告げている。こいつはやばいやつだと。
 廊下に男が立っているため玄関からの脱出はできそうにない。近寄るのは危険だ。ベッドの後ろの窓から外に飛び出すか? おれの部屋はマンションの二階。ぎりぎり何とかなる気がする。
 考えろ考えろ考えろ。少しでも脱出方法を考える時間を稼がなければ。

「あなたが書いたお話が今新しい都市伝説になろうとしています。心当たりがありますよね?」
 男が笑顔で聞いてきた。
「パトロール男のことですか?」
 それしかなかった。おれが書いた怖い話なんてそれしかない。
「そうですそうです! 正解です」
 焦るおれとは対照的に男はにやにやしながら言った。そして嬉しそうに小声で「だいせーかい」とまで言った。本当になんなんだこいつは。
「あなたは作り話が都市伝説になる条件を何かご存知ですか?」
 再び男が質問してきた。にやにやしながら質問してくる男からおれは目が離せないでいる。
「……多くの人が信じる事ですか?」
 おれは何故か真剣に考えて答えていた。
「ふふふ、そうですね。たしかにそれも条件の一つです。しかし一番大切なのはその話を書いた人物がこの世から消える事なんです」
「どうしてですか?」
「書いた人がいるという事は、その話が作り話である事を知っている人がいるという事です。当たり前ですよね?」
 男は優しくおれに微笑みかける。
 人の笑顔がこんなに恐ろしいものだと思ったのはこれが初めてだ。男の笑顔からは狂気じみたものを感じ、目の奥には真っ暗な闇を見た。
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