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第一章 崩れ去る日常
第六話 復活の兆し
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山陰に太陽が沈み、辺りが暗くなっている。
濃いどろりとした乳色の霧が木立に絡まるように漂っている。湿度がこもる空気に支配された森の中に屋敷が一軒建っていた。
その屋敷の中で、揺り椅子に一人の男が腰掛けている。彼が手にしているワイングラスの中で血のような葡萄酒が穏やかに波打っていた。
プラチナブロンドの髪
コーンフラワーブルーの瞳
青白い頬
そこに蒼い影を落とす長いまつ毛
クラシックで美しい形をしている顎
黒装束に包まれた細い腕や足はすらりと長く
神が作り上げた人形のような容姿だ
その美貌の男は手下と思われる男から報告を受けているようだ。その部下は主人に向かって申し訳なさそうに拳を震えさせている。
「セフィロス様! 大変申し訳ございません。今回の“狩り”では途中で邪魔者が入り、同胞を一人失いました」
「邪魔者? ほう。我等の狩りの邪魔を出来る者。一体どういう奴だ?」
「ぶっきらぼうな物言いをする、銀髪で血のように赤い瞳をもった奴です。そいつに一撃でやられました。華奢な肉体ですが、能力的に人間ではありません。あいつの鋼鉄以上の頑丈の肉体をああも簡単にねじ伏せるとは……」
それを聞いた途端、揺り椅子の男は目を見開き薄い唇に笑みを貼り付け、真珠のような犬歯を覗かせた。
「……そうか。到頭その時が来たというわけだな」
「?」
「完全覚醒に近付いてきたか“ルフス”。私がずっと探し求め続けていた片割れ! 今までずっと何万も何百万もの人間の肉体に術をもって彼の“種の移植”を試してみたが、拒絶反応を起こしたり肉体が死亡したりで殆ど失敗に終わってきた。何百年何十年もの間ずっと試行錯誤の繰り返しだった。あの“器”は彼と適合しているようだ。悲願の完全復活の日が近いやもしれぬ。早く彼をこの目で見たいものだ」
ざわめきとどよめきで男の周りが一気にやかましくなる。
「本当に……本当にルフス様!?」
「あの日命を一度は落とされたルフス様が復活なされるのですか!?」
「セフィロス様、今はまだ“その時”ではないのですか?」
その男はどよめく部下達をなだめる。
「まだだ。まいた種がやっと芽生えたのだ。それはつまり人間としての肉体の“限界”が近付いて来ている証拠でもあるのだ。慌てずともその日は近い。我々は“狩り”をしながら待とうではないか」
セフィロスは口元に笑みを浮かべた。その口元にワイングラスをつけると、血のように真っ赤なワインを一気に喉へと流し込んだ。
稲妻が光り、血管が浮き出るような青白い顔が照らし出される。深い濃紺の瞳に矢車菊が花開くかのように輝いていた。
※ ※ ※
週明けの月曜日。昼休み。茉莉と静藍は優美によって校内のある部屋に連れて行かれた。引き戸に貼られている張り紙には「新聞部」の文字が書いてある。部屋には三人の生徒達がいた。優美が招集をかけたのだろう。
「みんな喜べ!! 我が新聞部に新入部員が来たよ!! それも二人!! 二年生で私の同級生の門宮茉莉さんと神宮寺静藍君。みんな宜しくね!!」
「優美! 私達何も入部すると決めた訳じゃ……」
優美はにこにこ顔で言葉を続け、拒否権を顔に出している茉莉に喋らせようとしない。
「茉莉、現在は情報社会だよ。この世界を生き抜くには情報を駆使して上手にいかなくちゃ。うちの部員になれば有料サイトや違法サイトを使ったりしなければ基本的にサイトの利用は自由だし、年四回の学内新聞を発行していればそれ以外は拘束なし。取材を理由にすれば外にも出られるよ。それに……」
優美は茉莉の耳元に口を寄せた。
「あんたはタンザナイト・アイを何とか助けてあげたいんでしょ? 情報網を広げるのも一つの手よ」
「……分かった。ありがとう」
ここまで強気で来られると、茉莉は何も言えない。彼女は腹をくくることにした。静藍はどこか落ち着かなそうな雰囲気で目を白黒させている。
「あ……あの、城殿さん。本当に宜しいのですか?」
「勿論よ。うちの部に来ればきっと貴方の助けになると思う。仲間も出来るし。一人や二人でうじうじ悩むより、この部員みんなで協力しあいましょ。みんなで力を合わせればきっと近道になるわ」
「ありがとうございます。城殿さん。とても心強いです」
かなり強引だったが、二人はあっという間に新聞部の部員にされてしまった。
綾南高校新聞部は三年生が二人、二年生が一人、一年生が三人と六人だったが、茉莉達を迎え計八名となった。
「結構自由な部だからね。部員であれば昼休みに部室使っても良いよ。試験シーズンになったら部室で勉強する子もいるし、ゲームやってる子もいるし。うちはやることをきちんとやっていたら特に何も言われないよ。芸術鑑賞を理由にすれば美術館行っても良いし。勿論その時は生徒手帳に顧問の先生の印鑑を予め貰わないといけないけど」
「でも身体を動かすのが好きな人がこの学校多いからか、ウチの入部希望者は少ないのよね」
「オタクと思われるからかな?」
茉莉は仕返しとばかりに突っ込む。しかし、優美はあまり気にしてないようでさらりと流す。
「部長からの伝言だけど、部室も狭くは無いけど広くもないから、あんた達までで募集は一旦ストップだって」
綾南高校新聞部の活動時間は平日毎日で、部室使用は夕方六時半までとされている。三年生は九月いっぱいで事実上引退するが、なんだかんだで部室を利用し出入りしている者もいるようだ。
新聞発行は年四回で、毎週水曜日に部員達自ら企画会議を行いつつまとめ上げている。サイズはタブロイド判だ。
取材、写真、報道は部員全員で手分けして行う。
発行期日が決まっていて、きちんと間に合うのであれば基本的に自由に活動している。だから部室に部員が毎日全員いるとは限らない。全員揃うのは会議を行う水曜日だ。
取材で学外に出る場合、予め生徒手帳に学内の教員から印鑑を貰うのが条件となっている。
新聞記事は部員によってカラーが様々であり、特に決まりはなく、興味のある内容を取材し、記事にして取り上げられる。掲載するかどうかは企画会議で決まる。
今まで記事にされていた内容としては運動会、学園祭、修学旅行、コーラスコンクールといった学内イベント、芸術、運動部の大会成績と言った部活動、恋愛ネタ、身近に起きた事件、地元の歴史などなど、多岐にわたっている。
※ ※ ※
ガラリと部室の戸が開き、二人の生徒が入って来た。部長である明石紗英と副部長である織田純之介だった。真面目そうな表情をしている女子生徒と骨格がしっかりとしたガタイの良い男子生徒。二人は共に三年生である。
「あ! 先輩!!」
優美は先輩達を真っ先に出迎える。
「城殿さん、遅くなってごめんなさい。授業が延びて終わるのが遅くなりました」
「いえいえ、大丈夫ですよ。受験生はお忙しいですから」
運動部の部員と勘違いされそうな容姿の織田が優美に声をかける。凛々しい顔立ちに収まっているその瞳には眼力がある。
「優美、この前言ってた新入部員って彼等のことか? 噂の転校生も一緒かぁ。うちもカラーが変わるなぁ」
「その通りよ純、この前話した通りだから」
優美は先輩二人を茉莉達のところへ誘導した。織田と優美は交際している為、いつもタメ口である。
「三年の明石紗英です。新聞部部長をしています。部活に顔を出せるのは実質九月までだけど、どうぞ宜しくお願いします」
「明石。少しは笑顏を見せたらどうだ? 新入りが固まっているぞ。俺は三年の織田純之介だ。部長はこんなツラしているが、優しくて良い奴なんだ。あんまり気にしないでくれよな。それといつも優美が世話んなってる上、振り回しているみたいで済まないな。うちは比較的自由な部だから肩肘張らず気楽に楽しんでいこうや。これからもどうぞ宜しく」
黒髪で銀のフレームの眼鏡をかけ、几帳面を顔に貼り付けたような顔の部長とにこやかな副部長。対象的な二人だ。
そこへ一年生三人組が近寄ってきた。各々頭を下げて自己紹介をしてゆく。
「一年の虎倉左京っす。どうぞ宜しくお願い致しまっす」
「一年の鷹松右京です。どうぞ宜しくお願い致します」
「一年の桜坂愛梨ですぅ。どうぞ宜しくお願い致しますぅ」
織田によると、ツリ目でつんつん頭、生意気そうな雰囲気をしているのが虎倉左京。ゲーム好きなオタク。口より手がすぐに出るタイプで、真っ直ぐな心の熱血漢だそうだ。
おっとりしてそうな外見をしているのが鷹松右京。写真好きで、左京の良き理解者だ。比較的物静かなタイプらしい。
茶髪のロングヘアでバレない範囲内のナチュラルメイクをしている美少女が桜坂愛梨。両耳にちいさなピアスをしている。恋愛ネタや恋バナ好きな彼女は情報収集が早く、学内の恋愛情報をほぼほぼ持っている。顔が広いのが武器らしい。
そこで部室の戸がガラリと開いた。顧問の尾崎陽一が部室内に顔を出した。ヤクザ顔負けの強面だが爽やかな兄貴分のような雰囲気を醸し出している。
「やけに賑やかだと思えばやはりお前らだったか。活動が活発なのは構わんが、この前の事件のことがあるから、暫く放課後の部室使用は禁止だ。程々にするように。制限期限は今月一杯だそうだ。期限が切れたらいつも通り活動してくれて構わん」
紗英が挙手をした。彼女はちょっとした素振りでさえもかちりと型にはまっている。
「先生。新入部員の二人を紹介します」
「おお、そうだったな。明石。神宮寺と門宮だったな。俺が顧問の尾崎だ。二人共どうぞ宜しく。後で俺のところに入部届けの書類を持ってくるように。ここは色んな部員がいるがまぁ仲良くやってくれ。くれぐれも無茶はしないようにな。何かあったら相談に乗るから何でも聞いてくれ」
尾崎の気さくな口調に茉莉と彼女の影に隠れるように立っていた静藍はほっと胸を撫で下ろした。
「はい。どうぞ宜しくお願い致します」
(キャラクターが濃ゆそうなメンバーだなぁ。何か楽しそうだし、まぁいっか)
突然部活動に参加することになり、さてどうやって過ごしていこうかと頭を巡らせていた茉莉の袖をちょいちょいと引く者がいた。茶髪で大きな瞳をした美少女がにっこりと微笑み、机ヘと茉莉と静藍を誘う。
まずは腹拵えが先と言わんばかりに部員みんな購買部で買ってきたサンドイッチやらおにぎりといった食料や弁当類を出して昼食の準備を始めていたのだ。全て尾崎の奢りであり、一年生部員達が購入してきたものばかりらしい。
昼休みという短い時間の中で、賑やかな昼食会が始まった。
濃いどろりとした乳色の霧が木立に絡まるように漂っている。湿度がこもる空気に支配された森の中に屋敷が一軒建っていた。
その屋敷の中で、揺り椅子に一人の男が腰掛けている。彼が手にしているワイングラスの中で血のような葡萄酒が穏やかに波打っていた。
プラチナブロンドの髪
コーンフラワーブルーの瞳
青白い頬
そこに蒼い影を落とす長いまつ毛
クラシックで美しい形をしている顎
黒装束に包まれた細い腕や足はすらりと長く
神が作り上げた人形のような容姿だ
その美貌の男は手下と思われる男から報告を受けているようだ。その部下は主人に向かって申し訳なさそうに拳を震えさせている。
「セフィロス様! 大変申し訳ございません。今回の“狩り”では途中で邪魔者が入り、同胞を一人失いました」
「邪魔者? ほう。我等の狩りの邪魔を出来る者。一体どういう奴だ?」
「ぶっきらぼうな物言いをする、銀髪で血のように赤い瞳をもった奴です。そいつに一撃でやられました。華奢な肉体ですが、能力的に人間ではありません。あいつの鋼鉄以上の頑丈の肉体をああも簡単にねじ伏せるとは……」
それを聞いた途端、揺り椅子の男は目を見開き薄い唇に笑みを貼り付け、真珠のような犬歯を覗かせた。
「……そうか。到頭その時が来たというわけだな」
「?」
「完全覚醒に近付いてきたか“ルフス”。私がずっと探し求め続けていた片割れ! 今までずっと何万も何百万もの人間の肉体に術をもって彼の“種の移植”を試してみたが、拒絶反応を起こしたり肉体が死亡したりで殆ど失敗に終わってきた。何百年何十年もの間ずっと試行錯誤の繰り返しだった。あの“器”は彼と適合しているようだ。悲願の完全復活の日が近いやもしれぬ。早く彼をこの目で見たいものだ」
ざわめきとどよめきで男の周りが一気にやかましくなる。
「本当に……本当にルフス様!?」
「あの日命を一度は落とされたルフス様が復活なされるのですか!?」
「セフィロス様、今はまだ“その時”ではないのですか?」
その男はどよめく部下達をなだめる。
「まだだ。まいた種がやっと芽生えたのだ。それはつまり人間としての肉体の“限界”が近付いて来ている証拠でもあるのだ。慌てずともその日は近い。我々は“狩り”をしながら待とうではないか」
セフィロスは口元に笑みを浮かべた。その口元にワイングラスをつけると、血のように真っ赤なワインを一気に喉へと流し込んだ。
稲妻が光り、血管が浮き出るような青白い顔が照らし出される。深い濃紺の瞳に矢車菊が花開くかのように輝いていた。
※ ※ ※
週明けの月曜日。昼休み。茉莉と静藍は優美によって校内のある部屋に連れて行かれた。引き戸に貼られている張り紙には「新聞部」の文字が書いてある。部屋には三人の生徒達がいた。優美が招集をかけたのだろう。
「みんな喜べ!! 我が新聞部に新入部員が来たよ!! それも二人!! 二年生で私の同級生の門宮茉莉さんと神宮寺静藍君。みんな宜しくね!!」
「優美! 私達何も入部すると決めた訳じゃ……」
優美はにこにこ顔で言葉を続け、拒否権を顔に出している茉莉に喋らせようとしない。
「茉莉、現在は情報社会だよ。この世界を生き抜くには情報を駆使して上手にいかなくちゃ。うちの部員になれば有料サイトや違法サイトを使ったりしなければ基本的にサイトの利用は自由だし、年四回の学内新聞を発行していればそれ以外は拘束なし。取材を理由にすれば外にも出られるよ。それに……」
優美は茉莉の耳元に口を寄せた。
「あんたはタンザナイト・アイを何とか助けてあげたいんでしょ? 情報網を広げるのも一つの手よ」
「……分かった。ありがとう」
ここまで強気で来られると、茉莉は何も言えない。彼女は腹をくくることにした。静藍はどこか落ち着かなそうな雰囲気で目を白黒させている。
「あ……あの、城殿さん。本当に宜しいのですか?」
「勿論よ。うちの部に来ればきっと貴方の助けになると思う。仲間も出来るし。一人や二人でうじうじ悩むより、この部員みんなで協力しあいましょ。みんなで力を合わせればきっと近道になるわ」
「ありがとうございます。城殿さん。とても心強いです」
かなり強引だったが、二人はあっという間に新聞部の部員にされてしまった。
綾南高校新聞部は三年生が二人、二年生が一人、一年生が三人と六人だったが、茉莉達を迎え計八名となった。
「結構自由な部だからね。部員であれば昼休みに部室使っても良いよ。試験シーズンになったら部室で勉強する子もいるし、ゲームやってる子もいるし。うちはやることをきちんとやっていたら特に何も言われないよ。芸術鑑賞を理由にすれば美術館行っても良いし。勿論その時は生徒手帳に顧問の先生の印鑑を予め貰わないといけないけど」
「でも身体を動かすのが好きな人がこの学校多いからか、ウチの入部希望者は少ないのよね」
「オタクと思われるからかな?」
茉莉は仕返しとばかりに突っ込む。しかし、優美はあまり気にしてないようでさらりと流す。
「部長からの伝言だけど、部室も狭くは無いけど広くもないから、あんた達までで募集は一旦ストップだって」
綾南高校新聞部の活動時間は平日毎日で、部室使用は夕方六時半までとされている。三年生は九月いっぱいで事実上引退するが、なんだかんだで部室を利用し出入りしている者もいるようだ。
新聞発行は年四回で、毎週水曜日に部員達自ら企画会議を行いつつまとめ上げている。サイズはタブロイド判だ。
取材、写真、報道は部員全員で手分けして行う。
発行期日が決まっていて、きちんと間に合うのであれば基本的に自由に活動している。だから部室に部員が毎日全員いるとは限らない。全員揃うのは会議を行う水曜日だ。
取材で学外に出る場合、予め生徒手帳に学内の教員から印鑑を貰うのが条件となっている。
新聞記事は部員によってカラーが様々であり、特に決まりはなく、興味のある内容を取材し、記事にして取り上げられる。掲載するかどうかは企画会議で決まる。
今まで記事にされていた内容としては運動会、学園祭、修学旅行、コーラスコンクールといった学内イベント、芸術、運動部の大会成績と言った部活動、恋愛ネタ、身近に起きた事件、地元の歴史などなど、多岐にわたっている。
※ ※ ※
ガラリと部室の戸が開き、二人の生徒が入って来た。部長である明石紗英と副部長である織田純之介だった。真面目そうな表情をしている女子生徒と骨格がしっかりとしたガタイの良い男子生徒。二人は共に三年生である。
「あ! 先輩!!」
優美は先輩達を真っ先に出迎える。
「城殿さん、遅くなってごめんなさい。授業が延びて終わるのが遅くなりました」
「いえいえ、大丈夫ですよ。受験生はお忙しいですから」
運動部の部員と勘違いされそうな容姿の織田が優美に声をかける。凛々しい顔立ちに収まっているその瞳には眼力がある。
「優美、この前言ってた新入部員って彼等のことか? 噂の転校生も一緒かぁ。うちもカラーが変わるなぁ」
「その通りよ純、この前話した通りだから」
優美は先輩二人を茉莉達のところへ誘導した。織田と優美は交際している為、いつもタメ口である。
「三年の明石紗英です。新聞部部長をしています。部活に顔を出せるのは実質九月までだけど、どうぞ宜しくお願いします」
「明石。少しは笑顏を見せたらどうだ? 新入りが固まっているぞ。俺は三年の織田純之介だ。部長はこんなツラしているが、優しくて良い奴なんだ。あんまり気にしないでくれよな。それといつも優美が世話んなってる上、振り回しているみたいで済まないな。うちは比較的自由な部だから肩肘張らず気楽に楽しんでいこうや。これからもどうぞ宜しく」
黒髪で銀のフレームの眼鏡をかけ、几帳面を顔に貼り付けたような顔の部長とにこやかな副部長。対象的な二人だ。
そこへ一年生三人組が近寄ってきた。各々頭を下げて自己紹介をしてゆく。
「一年の虎倉左京っす。どうぞ宜しくお願い致しまっす」
「一年の鷹松右京です。どうぞ宜しくお願い致します」
「一年の桜坂愛梨ですぅ。どうぞ宜しくお願い致しますぅ」
織田によると、ツリ目でつんつん頭、生意気そうな雰囲気をしているのが虎倉左京。ゲーム好きなオタク。口より手がすぐに出るタイプで、真っ直ぐな心の熱血漢だそうだ。
おっとりしてそうな外見をしているのが鷹松右京。写真好きで、左京の良き理解者だ。比較的物静かなタイプらしい。
茶髪のロングヘアでバレない範囲内のナチュラルメイクをしている美少女が桜坂愛梨。両耳にちいさなピアスをしている。恋愛ネタや恋バナ好きな彼女は情報収集が早く、学内の恋愛情報をほぼほぼ持っている。顔が広いのが武器らしい。
そこで部室の戸がガラリと開いた。顧問の尾崎陽一が部室内に顔を出した。ヤクザ顔負けの強面だが爽やかな兄貴分のような雰囲気を醸し出している。
「やけに賑やかだと思えばやはりお前らだったか。活動が活発なのは構わんが、この前の事件のことがあるから、暫く放課後の部室使用は禁止だ。程々にするように。制限期限は今月一杯だそうだ。期限が切れたらいつも通り活動してくれて構わん」
紗英が挙手をした。彼女はちょっとした素振りでさえもかちりと型にはまっている。
「先生。新入部員の二人を紹介します」
「おお、そうだったな。明石。神宮寺と門宮だったな。俺が顧問の尾崎だ。二人共どうぞ宜しく。後で俺のところに入部届けの書類を持ってくるように。ここは色んな部員がいるがまぁ仲良くやってくれ。くれぐれも無茶はしないようにな。何かあったら相談に乗るから何でも聞いてくれ」
尾崎の気さくな口調に茉莉と彼女の影に隠れるように立っていた静藍はほっと胸を撫で下ろした。
「はい。どうぞ宜しくお願い致します」
(キャラクターが濃ゆそうなメンバーだなぁ。何か楽しそうだし、まぁいっか)
突然部活動に参加することになり、さてどうやって過ごしていこうかと頭を巡らせていた茉莉の袖をちょいちょいと引く者がいた。茶髪で大きな瞳をした美少女がにっこりと微笑み、机ヘと茉莉と静藍を誘う。
まずは腹拵えが先と言わんばかりに部員みんな購買部で買ってきたサンドイッチやらおにぎりといった食料や弁当類を出して昼食の準備を始めていたのだ。全て尾崎の奢りであり、一年生部員達が購入してきたものばかりらしい。
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