56 / 78
第四章 せめぎ合う光と闇
第五十六話 正面衝突
しおりを挟む
「ふふっ。観念なさいな。ここから逃げ出せた人間は誰一人いないのだから」
余裕じみた笑みを唇に浮かべたウィオラは紫色の唇を赤い舌でペロリと舐めあげた。上がった上唇から覗いた犬歯がギラリと光る。葡萄の果汁を思わせる色鮮やかな紫色の瞳は、決して甘くないことを主張するかのように鋭く煌めいていた。
「うるさいわね! あたし達、何があろうと絶対に諦めないんだから!!」
優美が噛みつくように言い放った。丸い瞳でアメジストの瞳をぎらりと睨みつける。
(茉莉と静藍をもとに戻して一緒に帰るの。
みんな生きて帰るんだから。
そして、いつもの日常を取り戻すの。
残された高校生活を楽しく過ごすためにも、この戦いは絶対に、負けられない。
誰一人、死なせるものですか! )
「私達はそう簡単に屈しませんよ。決めたのです。あなた達を倒し、みんなで一緒に帰ると」
「部長?」
自分の前に一歩歩み出した銀縁眼鏡の少女を見た優美は目を大きく見開いた。
紗英はどこから出したのか、メタリックカラーのヨーヨーを二つ手にしている。後輩達の表情を見た織田は不思議そうな顔をした。
「おや。君達は知らなかったのか。明石はこう見えてもハイパーヨーヨーが趣味なんだ。息抜きでしているのを時々見かけるが、彼女、結構な腕前なんだぞ」
優美達は目を丸くした。
紗英は両手首を返して二つのヨーヨー本体を前下方に投げ下ろし、ほぼ同時にくるくると大きく回し始めた。
ストリングが彼女の周りでキュルキュルと音をたてる。
それを三回行ない、 左右の手の平を下にして本体を同時にキャッチした。
織田が言うには今のはハイパーヨーヨーの技、マスターレベル十五種の一つである「ドラム・ロール」という技らしい。
いつも勉強しかしていないイメージが先行する彼女の隠れた趣味に一同が感嘆の声を上げた。
「やっば! 紗英先輩カッコいいですぅ……!!」
鮮やかなヨーヨーさばきに愛梨は大きな瞳をキラキラ輝かせている。それをちらと目にした紗英はぽっと頬を赤らめ、眼鏡のつるを人差し指と中指でそっと持ち上げた。
「下手の横好きですが……持ってきました。水晶の力を合わせれば役に立つかと思いまして」
「オレも使えるかもと思ってこれを持ってきたっす!」
左京はホワイトジーンズのポケットから約三十センチメートル程の金属製の棒を負けじと引っ張り出した。赤いボタンをカチリと押すと、先端から一メートル位の尖形状の刀身のようなものが瞬時に飛び出す。ぼわりと淡く白い光がその刀身を覆っている。
「左京君……ひょっとしてそれ昔あってた“ユニバーサル・ファイター”に出てきた“雷光剣”の玩具?」
優美の口から昔流行った特撮ヒーロー系テレビ番組のタイトルが飛び出すと、左京は嬉しそうに手に持つそれをブンブンと振り回した。ブオンブオンと風を切る音を立ててそれは白い孤を描いている。
「さっすが優美先輩! 御名答っす!」
話しが通じる相手がいて余程嬉しいのか、左京の声がすっかり裏返っている。そのことにきっと本人は気付いていないだろう。
「人気のあまりゲーム化されてそれグッズとして販売されていたもんね。流石オタク!」
「お前好きだもんなそれ。まだ持ってたのかよ」
やや呆れ顔の友人に対し左京は鼻息が荒い。
「そりゃあこいつはオレの宝だからな!」
「そのお宝壊れても良いのかよ。保証はないぞ」
「だってこの戦いはオレ達の命運かかった戦いなんだろ? みんなの為に使えるのなら構わねぇよ」
ツンツン頭を撫でつつ、ちゃらそうな外見ながら中々殊勝なことを言う。友の真っ直ぐな姿勢を見た右京はポケットからビー玉を幾つか取り出した。愛梨も負けじと腰につけたポーチからカードのようなものを何枚か出し始める。優美に至っては全長三十センチメートルはあるだろう扇子を出し、あおいでいる。彼女曰くステンレスの親骨で作られた「鉄扇」らしい。その扇子紙には彼女がファンであるゲームキャラクターのイメージ動物・龍が描かれている。
いずれも見た目はあまり武器らしくないが、これが水晶の力をかりるとどうなるか、中々興味深い。
「ほう。今回は丸腰じゃねぇというわけか。まあ、せいぜい抗ってみるがいい。ただの時間稼ぎだろうがな」
ロセウスは左右の指を組み、ボキボキと関節の音を立てている。フラウムは黒いフードを外し、そのルチル・クォーツの瞳を輝かせてほくそ笑んだ。
「良いではありませんか。今は粋がっている瞳を絶望の色に染めてから餌食にするのも、一興というものです」
品定めするかのような視線を感じつつ、織田達は誰が誰と戦うか決め始めた。
筋肉自慢のロセウスには織田と優美。
小柄だが油断大敵なフラウ厶には左京と右京。
糸を操るウィオラには紗英と愛梨。
相手は人外だからこれ位ハンデがあってもいいだろう。あくまでも自分の身を守ることを最優先とし、無理はなるべく避けること。一人を抑え込んだら他をサポートすること。
彼等を倒すにはまず茉莉を正気に戻すのが最優先事項となる。そのことはルフスにしか出来ない為、彼に負担がなるべくかからぬよう、何とか時間を稼ぎ耐え抜くのが目的だ。
「みんな、行くぞ!!」
「おおっ!!」
(茉莉! 必ずあんたを助ける。
あんたにかけられた術はルフスにしか解けない。
彼に時間を作る為にあたし達は頑張るから、絶対に諦めないで!! あんたをもとに戻してあいつらを倒せるってあたし、信じてるから!! )
織田の傍に立った優美は右手に持った鉄扇をぎゅうと握り締めた。
余裕じみた笑みを唇に浮かべたウィオラは紫色の唇を赤い舌でペロリと舐めあげた。上がった上唇から覗いた犬歯がギラリと光る。葡萄の果汁を思わせる色鮮やかな紫色の瞳は、決して甘くないことを主張するかのように鋭く煌めいていた。
「うるさいわね! あたし達、何があろうと絶対に諦めないんだから!!」
優美が噛みつくように言い放った。丸い瞳でアメジストの瞳をぎらりと睨みつける。
(茉莉と静藍をもとに戻して一緒に帰るの。
みんな生きて帰るんだから。
そして、いつもの日常を取り戻すの。
残された高校生活を楽しく過ごすためにも、この戦いは絶対に、負けられない。
誰一人、死なせるものですか! )
「私達はそう簡単に屈しませんよ。決めたのです。あなた達を倒し、みんなで一緒に帰ると」
「部長?」
自分の前に一歩歩み出した銀縁眼鏡の少女を見た優美は目を大きく見開いた。
紗英はどこから出したのか、メタリックカラーのヨーヨーを二つ手にしている。後輩達の表情を見た織田は不思議そうな顔をした。
「おや。君達は知らなかったのか。明石はこう見えてもハイパーヨーヨーが趣味なんだ。息抜きでしているのを時々見かけるが、彼女、結構な腕前なんだぞ」
優美達は目を丸くした。
紗英は両手首を返して二つのヨーヨー本体を前下方に投げ下ろし、ほぼ同時にくるくると大きく回し始めた。
ストリングが彼女の周りでキュルキュルと音をたてる。
それを三回行ない、 左右の手の平を下にして本体を同時にキャッチした。
織田が言うには今のはハイパーヨーヨーの技、マスターレベル十五種の一つである「ドラム・ロール」という技らしい。
いつも勉強しかしていないイメージが先行する彼女の隠れた趣味に一同が感嘆の声を上げた。
「やっば! 紗英先輩カッコいいですぅ……!!」
鮮やかなヨーヨーさばきに愛梨は大きな瞳をキラキラ輝かせている。それをちらと目にした紗英はぽっと頬を赤らめ、眼鏡のつるを人差し指と中指でそっと持ち上げた。
「下手の横好きですが……持ってきました。水晶の力を合わせれば役に立つかと思いまして」
「オレも使えるかもと思ってこれを持ってきたっす!」
左京はホワイトジーンズのポケットから約三十センチメートル程の金属製の棒を負けじと引っ張り出した。赤いボタンをカチリと押すと、先端から一メートル位の尖形状の刀身のようなものが瞬時に飛び出す。ぼわりと淡く白い光がその刀身を覆っている。
「左京君……ひょっとしてそれ昔あってた“ユニバーサル・ファイター”に出てきた“雷光剣”の玩具?」
優美の口から昔流行った特撮ヒーロー系テレビ番組のタイトルが飛び出すと、左京は嬉しそうに手に持つそれをブンブンと振り回した。ブオンブオンと風を切る音を立ててそれは白い孤を描いている。
「さっすが優美先輩! 御名答っす!」
話しが通じる相手がいて余程嬉しいのか、左京の声がすっかり裏返っている。そのことにきっと本人は気付いていないだろう。
「人気のあまりゲーム化されてそれグッズとして販売されていたもんね。流石オタク!」
「お前好きだもんなそれ。まだ持ってたのかよ」
やや呆れ顔の友人に対し左京は鼻息が荒い。
「そりゃあこいつはオレの宝だからな!」
「そのお宝壊れても良いのかよ。保証はないぞ」
「だってこの戦いはオレ達の命運かかった戦いなんだろ? みんなの為に使えるのなら構わねぇよ」
ツンツン頭を撫でつつ、ちゃらそうな外見ながら中々殊勝なことを言う。友の真っ直ぐな姿勢を見た右京はポケットからビー玉を幾つか取り出した。愛梨も負けじと腰につけたポーチからカードのようなものを何枚か出し始める。優美に至っては全長三十センチメートルはあるだろう扇子を出し、あおいでいる。彼女曰くステンレスの親骨で作られた「鉄扇」らしい。その扇子紙には彼女がファンであるゲームキャラクターのイメージ動物・龍が描かれている。
いずれも見た目はあまり武器らしくないが、これが水晶の力をかりるとどうなるか、中々興味深い。
「ほう。今回は丸腰じゃねぇというわけか。まあ、せいぜい抗ってみるがいい。ただの時間稼ぎだろうがな」
ロセウスは左右の指を組み、ボキボキと関節の音を立てている。フラウムは黒いフードを外し、そのルチル・クォーツの瞳を輝かせてほくそ笑んだ。
「良いではありませんか。今は粋がっている瞳を絶望の色に染めてから餌食にするのも、一興というものです」
品定めするかのような視線を感じつつ、織田達は誰が誰と戦うか決め始めた。
筋肉自慢のロセウスには織田と優美。
小柄だが油断大敵なフラウ厶には左京と右京。
糸を操るウィオラには紗英と愛梨。
相手は人外だからこれ位ハンデがあってもいいだろう。あくまでも自分の身を守ることを最優先とし、無理はなるべく避けること。一人を抑え込んだら他をサポートすること。
彼等を倒すにはまず茉莉を正気に戻すのが最優先事項となる。そのことはルフスにしか出来ない為、彼に負担がなるべくかからぬよう、何とか時間を稼ぎ耐え抜くのが目的だ。
「みんな、行くぞ!!」
「おおっ!!」
(茉莉! 必ずあんたを助ける。
あんたにかけられた術はルフスにしか解けない。
彼に時間を作る為にあたし達は頑張るから、絶対に諦めないで!! あんたをもとに戻してあいつらを倒せるってあたし、信じてるから!! )
織田の傍に立った優美は右手に持った鉄扇をぎゅうと握り締めた。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
現代社会とダンジョンの共生~華の無いダンジョン生活
シン
ファンタジー
世界中に色々な歪みを引き起こした第二次世界大戦。
大日本帝国は敗戦国となり、国際的な制約を受けながらも復興に勤しんだ。
GHQの占領統治が終了した直後、高度経済成長に呼応するかのように全国にダンジョンが誕生した。
ダンジョンにはモンスターと呼ばれる魔物が生息しており危険な場所だが、貴重な鉱物やモンスター由来の素材や食材が入手出来る、夢の様な場所でもあった。
そのダンジョンからモンスターと戦い、資源を持ち帰る者を探索者と呼ばれ、当時は一攫千金を目論む卑しい職業と呼ばれていたが、現代では国と国民のお腹とサイフを支える立派な職業に昇華した。
探索者は極稀にダンジョン内で発見されるスキルオーブから特殊な能力を得る者が居たが、基本的には身一つの状態でダンジョン探索をするのが普通だ。
そんなダンジョンの探索や、たまにご飯、たまに揉め事などの、華の無いダンジョン探索者のお話しです。
たまに有り得ない方向に話が飛びます。
一話短めです。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は“料理人”。
だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。
地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。
勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。
熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。
絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す!
そこから始まる、料理人の大逆転。
ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。
リアルでは無職、ゲームでは負け組。
そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる