炎のトワイライト・アイ〜二つの人格を持つ少年~

蒼河颯人

文字の大きさ
74 / 78
番外編

第四話 月に願いを その一

 時は十八世紀頃。
 それはテネブラエにあるランカスター家の屋敷に、穏やかな時間が流れていた頃の物語。
 使用人達は各自担当の場所で仕事に従事しており、屋敷にすむランカスター家の血族の子供達は、自主トレーニングに励んだり、鍛錬場にて修行を積んでいた。
 
 そんなある日のこと。
 ルフス・ランカスターは一人、庭を歩いていた。ランカスター家分家である彼は、齢十二でありながら成人吸血鬼と対等、もしくはそれ以上に渡り合えるほどの力と技を持っていた。小さな身体では想像出来ないような、念動力と怪力。それが彼の持つ特殊能力だった。
 その為、彼の場合時間の使い方については特に指定はされず、好きに過ごすようにしか言われていなかった。分家出身者の中でも異例の待遇だ。自己管理や鍛錬のやり方については自分の判断に一任されていた。
 
 月光のように輝く美しい銀髪を黒いシルクリボンで一つに結い、さらりと背に流している。
 表情はないが、目鼻立ちの整った秀麗な顔立ち。
 青白い肌を持つ彼は、見かけは人形のような容姿だ。 
 ルビーレッドのシルク・タフタで仕立てられたコートとウエストコートにブリーチズの三つ揃えを身に着けている。
 
 これは、ランカスター家本家に迎えられたばかりの頃、当主でありおじでもあるヘンリー・ランカスターから贈られたものだった。上質な素材で作られ、艷やかで美しい衣装だ。輝く銀髪と紅玉の瞳を持つ、目鼻立ちの整った彼によく似合っていた。
 
 両親を早くに亡くし、放浪していた頃はあちこち破れのある着古した服で、頭から足の先まで常に煤と汚れで真っ黒だった。
 それに比べると、今の生活は夢のように快適だ。
 きちんと清掃され、必要な家具や寝具が置いてある立派な部屋を自室として与えられ、立派な服もある。独りだった頃は常に自分の身は自分自身で守らねばならなかったが、今は守ってくれる大人と仲間がいる。日々過ごすのに肩肘張らずにすむようになり、過度な緊張がとれつつあった。
 
 路頭に迷っていることを聞きつけたヘンリーがルフスを呼び寄せてくれた。温和で情の厚いおじには、感謝してもしつくせない恩がある。
 
 そんなことをあれこれ思いつつ庭を一人で散歩していると、突然大きな声が聞こえてきた。ルフスは反射的に顔を上げ、周囲をさっと見渡す。
 
「セフィロス様!!」
 
 (あの声は……マルロか? )
 
 声が聞こえたのは、鍛錬場からだった。いつもこの時間は、セフィロスが彼の専属指南役であるマルロの指導の元、武術の鍛錬に勤しんでいる。嫌な予感がしたルフスは、鍛錬場へと急ぎ足を運んだ。
 鍛錬場の中で色素の薄い髪を持つ男が座り込んでおり、一人の少年が仰向けに倒れていた。
 
「マルロ、一体どうしたんだ?」
 
「……ルフス様……」
 
 ルフスの声に気付き、顔を上げたマルロは、やや焦っていた。彼の腕の中にいる少年が身に着けているのは、鍛錬時に良く着ている白いシャツと黒いズボン。実母マーガレットに生き写しである愛らしい顔が、苦しそうに歪んでいた。
 
「セフィロス……!?」
 
 半開きのその目は虚ろだ。呼吸は浅く、いつも青白い頬が異常に赤味を帯びている。額に掌を乗せてみると平常時より熱を持っていた。
 
「鍛錬の途中で突然倒れられて……私としたことが……申し訳ありません」
 
「あんたのせいじゃないから、気にするな。マルロ。多分、これは洋紅熱だ。俺は昔一度罹ったことがある」
 
「ルフス様は既に免疫をお持ちでしたか。それは良かった。セフィロス様以外の方も皆様免疫をお持ちです」
 
 ――洋紅熱。人ならざる吸血鬼の彼等が罹る数少ない病気の一つだ。誰もが子供の内に罹る流行り病で、一度罹れば終生免疫が付き、二度と罹らなくなる。罹る時期や年齢に差はあるが、罹患して二・三日の潜伏期間を経て発症する。発症のサインとして急に発熱症状を起こすのが特徴だ。高熱が続くが、大体一週間程で落ち着くから死ぬことはない。個人差はあるが、高熱と随伴して喉の痛みや咳、節々の痛み、頭痛といった症状が出る場合もある。
 
「早く医者を呼ばねばなりません」
 
「……そうだな。それはあんたにお願いするよ。ヘンリーおじ上にも報告してくれ。彼は俺が部屋まで連れて行くから……」
 
 ルフスが見かけによらず怪力の持ち主であることをヘンリーから聞かされていたマルロは直ぐその言に従った。
 
「分かりました。セフィロス様をお願い致します」
 
 銀髪の少年はぐったりとした金髪の少年を背負うと、屋敷内へと向かった。
感想 2

あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無属性魔法しか使えない少年冒険者!!

藤城満定
ファンタジー
「祝福の儀式」で授かった属性魔法は無属性魔法だった。無属性と書いてハズレや役立たずと読まれている属性魔法を極めて馬鹿にしてきた奴らの常識を覆して見返す「ざまあ」系ストーリー。  不定期投稿作品です。

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結