小突いて候。

貴林

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第九話

ボワゴロ

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水車小屋の水車が、小川の流れに押され音を立てて回っている。
小屋の中では、ギー、トン。ギー、トンと、から木臼きうすを備え付けのきねが一定の間隔で叩いている。
ここの主人は、水車への水の流れをせき止めもせずに、ここを離れたようだ。よほど、急いでいたのであろう。

キシムが、首を振る。
「あの音で、ろくに眠れんかったわ」
水菜が、首を傾げて言う。
「そお?心地いい響きでよく眠れたけど」
「頭おかしいちゃうか、自分。わし、途中から羊数えとったら、ギーで出てきて、トンと人の頭蹴飛ばしてくもんやから、余計に眠れんくなったわ」
キシムは、言いながらあくびをした。
水菜がプヨちゃんに声をかける。
「ねえ、プヨちゃん。この辺に、街とかないかな?」
「あるよ、この先の山頂を超えると街が見えてくるプヨ」
玉子さんが体を起こす。
「おお、それはいいな」
美優留がパタパタを見る。
「パタパタ、偵察頼める?って、寝てる?」
一寸が刀を腰に差しながら
「昨夜は、一晩中起きてたようですよ」
パタパタは、パタパタなりに役に立ちたかったのかもしれない。
プヨちゃんが申し訳なさそうに
「パタパタは、夜行性なので昼間は寝てるプヨ」
水菜が腕を組む。
「そっか、なら仕方ないわね。とりあえず、馬車の中にでもいてもらって」
キシムを見る水菜。
「な、なんや、結局、わしかいな」
美優留が割って入って
「昼間はキシム。夜はパタパタと役割を分けたらいいんじゃない?」
「けっ、玉子は何するんや?」
玉子は、周りを見ながら一寸に目が止まる。
「俺は、一寸を乗せるよ」
玉子を撫でる一寸。
「いいのですか?私が乗っても」
「先陣切るには、いいコンビだと思わないか?」
「確かに、腕がなります」
早速、水菜が馬具を打出ちゃんに出してもらい、それを身に付ける玉子。
一寸は、颯爽さっそうと玉子にまたがると手綱を引いた。
玉子が前脚を高々と上げた。
「で、馬車には、かぐやさん、ヤマタノくん、パタパタ、プヨちゃん、御者台ぎょしゃだいに美優留と私って、とこかな?」
ようやく、設定もまとまってきたので、旅の再開となります。
一行は、山頂を目指して進んだ。
偵察から戻るキシム。
美優留が、馬車馬の背に降りたキシムを見る。
「どうだった?」
「なんや、この先に壊れた馬車があったで」
「山賊か何かかしら」
キシムが、不思議そうな顔をする。
「それがな、丸焼けになっとったで」 
「襲ってから、わざわざ火をつけたのかな?」

まもなくして、焼けた馬車が見えてきた。
一寸が玉子と先に向かう。
一寸は、玉子から降りると焼けた馬車を調べ始める。
「何か、火のついたものに叩き壊されたようにも見えるな」
玉子が、異変に気付く。
「一寸、あれだけ燃えてないよな?」
足をそれに向けて指す玉子。
一寸が見ると、馬車の車輪らしきものが、燃えずに残っていた。
それは、むっくりと立ち上がると側面をこちらに向ける。
そこには、顔があって口を開く。
「ガハハハ、よくぞ、見破ったな」
車輪は、ゴロゴロと転がって見せた。
一寸は、車輪が動き出すとは思っていなかった。
「いや、燃えてないから変だなって、思っただけなんだけど」
自ら名乗り出てしまったことに気づき、車輪はしまったと思った。
「ハハハハ、こうなっては仕方がない。まずは、お前からだ」
手始めとばかり、転がって一寸を襲う。
横に飛びそれを避ける一寸。
「玉子さんは、下がっていて下さい」
玉子は、仲間の馬車まで下がった。
車輪は逆回転を始め、地滑りしながら一寸に向かって転がってくる。
一寸は、それを飛び越えてかわす。
「なかなか、やるな。これなら、どうかな?」
ボワっと、車輪が火に包まれる。
火車となって、再び一寸を襲う。
飛び越えるのは難しい為、横に飛び避けるが、着物の袖下そでしたに火が付く。ババッと、手で払う一寸。
顔を叩けば、倒せるだろうと思うが、なかなか近づけないでいる。
「ハハハハハハ、これでは、近づけないだろう。お前も丸焼けになってしまえ」

ゴロゴロと、火車が一寸に迫る。
このまま、一寸は、やられてしまうのか。なすすべはないのだろうか。

次回は、[燃える。火車の恐怖。]に、ご期待ください。
「良い子のみんなは、火遊びはしないようにな」
一寸が、人差し指を立てて、ウィンクをする。

水菜が、こちらを向いて怒鳴りつける。
「こら、勝手に終わらせて、次回に繋ぐなぁ。でもって、一寸をいいように使うなぁー」

場面は戻り
ハハハハハハ
火車が、ゴロゴロと一寸に近づく。
横に飛び避ける一寸。だが、それを読んでか、火車も避けた方に向きを変えて襲いかかる。
「まずい!」
刀を盾にして、それを遮りなんとか難を逃れるも、その衝撃は凄まじいもので、一寸は弾き飛ばされた。クルリと、空中で身を翻し見事な着地をする一寸。
ホッとする間もなく、さらに火車は迫る。
ガシン!火車と一寸の刀がぶつかる。ブワッと火の粉が、一寸に降りかかる。
着物に穴を開けて、髪の数カ所が焦げ、顔にもいくつか降りかかる。
「くっ・・・」
片目を閉じる一寸。
ギリギリと、刀を押し迫る火車。
熱さと力に、一寸が怯み始める。
(このままでは・・・)
タプンと、一寸の横に何かが降り立つ。
「ボワゴロ!もう、お終いにしようプヨ」
プヨちゃん?一寸は、細めた片目で、声の方を見る。
それは、まるまると膨れ上がったプヨちゃんが、大きく息を吸い込んでいる。
「水鉄砲プヨ!」
と、口に出したら噴き出せないので、ここは雰囲気でということで
口から一気に水を吹き出すプヨちゃん。
ジュウーーと、湯気をたち込めるボワゴロと呼ばれた火車は。
一瞬で、消火されてしまった。
キョトンとするボワゴロ。
この機を逃さないのが、一寸であった。
ぐっしょりした顔が、一寸の拳を受けて歪む。
「ぐえっ」
コインを転がしたときのように、グルグルとボワゴロは回るとパタっと地面に倒れる。
すすで、顔を黒くした一寸が、プヨちゃんを見る。
可愛いながら、頼もしいプヨちゃんが真剣な顔をしている。
あ・・あ・・と、不安定な体を揺らすプヨちゃん。
ふっと、笑う一寸。
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