蜃気楼の向こう側

貴林

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2 裏世界

ナミリアが気になる俊

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ナミリアの宿
ガキーン、ガキーン
鍛冶場では、しきりにハンマーを打ちつける音が響いている。
「ちょっと、行ってくる」
俊が、痺れを切らして鍛冶場へと駆けていく。
すぐるちゃん?」
真希乃は、何事かと俊を見送る。

ふふっと、笑う彩花。
「俊ちゃん、興味津々ね」
「鍛冶場なんて、そうそう見れませんからね」
蓮華は、隣にいた俊が、そわそわと鍛冶場の方を見ては、落ち着かない様子に気づいていた。

心配げに鍛冶場の方を見る麗美。
「大丈夫かなぁ」
ん?と、皆が麗美を見る。
「ナミリア、子供が苦手なんだ」
え!と、一同、鍛冶場の方を見る。

彩花が、ふっと笑う。
「俊ちゃんなら、大丈夫」
「うん、しっかり者だから」
蓮華も妹でも見るように、優しく微笑む。
真希乃が、ボソッと言う。
「大柄な人とは、絵になるんだよね。俊ちゃん」

ガハハハと、鍛冶場からナミリアの笑い声が響く。
「要らぬ心配だったようね」
ふふっと、麗美。

改めて麗美を見る真希乃。
「ギャザーのこと。詳しく教えてもらえませんか?」
カウンターの向こうで、椅子に腰掛ける麗美。
「ギャザーは、もともと、クリーナーの斥候部隊として、発足されたものなの」
「斥候部隊」
「そう、初期メンバーは、クリーナーの中でも、手練てだれの五人」
「手練だとしても、ギャザーの役目は、あくまで収集ですよね?」
「あくまでね、そんなある時、ギャザーに不穏な動きが見られるようになったの」
彩花も口を開く
「不穏て、反乱ですか?」
「ええ、そんなところね。それで、私が属する監視人ウォッチャーが、調査に乗り出したの」
真希乃が気づいた。
「もしかして、反乱を起こした組織が」
「蜃気楼の影」
真希乃と麗美が口を揃えて言う。
「蜃気楼の影の主要メンバー五人は、新たな部隊を設立した。ギャザーとクリーナーを兼ね揃えた精鋭部隊、忍び人シノビよ」

真希乃は、ミルクをグラスに注ぐと、ゴクゴクと飲んだ。
「麗美さん、なぜ、僕が狙われて、どうして、守られているのか。教えてもらえませんか?」
んーと、麗美は、考えている。
「私も、上層部うえからの命令で、あなたを警護してるだけだから、よくは知らないのよ」
「そうですか」
「あと、あなたを自由の旗まで、連れてくるように、言われてる」
真希乃は、顔を上げると
「麗美さん、大志は、自由の旗に、いますか?」
「いいえ、自由の旗には、いないわね」
「てことは、蜃気楼の影にいるのか」
(あの二人が、蜃気楼の影に、いるとは思えないな)
頭を抱え込む真希乃。
彩花が、真希乃の肩に手を乗せる。
「あの三人の刺客は、蜃気楼の影のシノビなんですか?」
「恐らくだけど、そうだと思うわ」
なんとも、腑に落ちない真希乃であった。
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