蜃気楼の向こう側

貴林

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3 帰郷 旅立ちの前に

京介の師

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裏世界 古寺
ガサッ カタリ ザッ ギッ。寺の周りで、音だけが移動している。
木の枝が揺れ葉が舞い落ちる。寺の屋根の瓦がズレる。地の上の小石が弾け飛ぶ。階段がきしむ。
ザザッと、京介と真希乃が、地上に姿を現す。
「よし、真希乃。こんなもんしょ」
腰に手を当て、京介が真希乃を見る。
肩で、呼吸をする真希乃。
「・・え?・・」
両手で膝を抱えて、やっと立っている真希乃は、その場にへたり込んだ。
「動きは、よくなったな」
「・・そうか・・?」
京介は、へたり込む真希乃に視線を合わすように、しゃがみ込んだ。
「んじゃ、今度は基本その二って、とこかな?」
やっと見上げる真希乃。
「・・・その二?」
「うん、こんなの出来るかい?」
言うと、京介の足が地を離れ空中であぐらを組むと、その場に浮いてみせた。
「?」
真希乃は、驚いた。
京介が、あぐらを組んだまま、空中に静止している。が、よく見ると京介の体が微振動を起こしている。しかも時々、ブレる。
「あ!もしかして・・・」
真希乃は、ハッとする。
スッと、京介が地に足を付く。
「わかった?超高速で空間移動する事で、浮いてるように見えるんだ」
真希乃は、広げた足の間に、上体を倒れ込ませ項垂うなだれてしまった。
「京介。さすがに、そんなに速くは動けないよ」
「それは、そうだよ。俺だって、ここまでなるのに一年掛かったからね」
「ええ!一年?」
はああと、肩の力が抜け更に沈み込む真希乃。
「そこでだ」
京介が、空を見る。
「ん?」
「ここからは、別の師匠に引き継いでもらおうと思ってる」
顔を上げる真希乃。
「別の師匠?」
「うん」
京介が頷く。

グニャリと空間が歪み、そこへ麗美が現れた。
「だいぶ、良くなったって?」
「まあね、いい感じっすよ」
「そか、じゃあ、その二ってとこね」
うんうんと、頭を垂れる京介。
麗美が、少し怖気付くように後退りを始める。
「あ、えっと、ここからは、京介くんがお願いね。支払いは割増するから」
「ええ~、俺だけ?無理っすよ。俺、一人じゃ~」
二人のやりとりをキョトンと見守る真希乃。
「いやいや、京介くんなら大丈夫。なんと言っても、あの方の弟子なんだから、ね」
京介は、逃げ腰の麗美に歩み寄りながら
「無理無理無理、麗美さん来なきゃ、話進まねえっすよ」
後ろの大木まで、麗美は追いやられ、もう後がなかった。
「あはっ、やっぱり?」
「うん」
麗美は、頬を指でポリポリと掻く。
「あの爺さん、苦手なんだよなぁ・・」
京介が、麗美の後ろの大木に、壁にドンと手を付き顔を近づける。
「割増は結構っすから、あの爺さんをよろしくっす」
「あは・・.頑張ってみる」
目をパチクリする真希乃。
古寺の開けた空の遥か上空を、ドラゴンが旋回している。
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