蜃気楼の向こう側

貴林

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4 恐頭山

闇の覚醒

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真希乃は、彩花の家の前にいた。
無性に彩花に会いたかった。
体の火照りが、彩花を求めているようだった。
そこに丁度、木戸が開き彩花が出てきた。
淡いピンクのオフショルダーの丈の短いデイジーシャツで、黒のチェック柄のラップショートパンツに黒のショートブーツを履いている。
「あ、真希乃。しばらく見なかったけど、どうしてた?」
駆け寄る彩花を、真希乃は引き寄せ抱きしめていた。
顔を赤らめる彩花。
「な、何?どうしたの?真希乃」
彩花は嬉しさ半面、いつもと違う真希乃に怖ささえ感じていた。
「ちょ、ちょっと、離して・・離してったら」
不意に、彩花の唇を真希乃の唇が塞ぐ。
むぐぐ・・・
望んでいたものと、違った。
力任せに、真希乃を振り解く彩花は、キッと睨むと真希乃の頬を叩いていた。
涙を浮かべる彩花。
「こ、こんなの・・こんなの真希乃じゃない」
走り去る彩花。
頬を摩り、一瞬、体の熱が冷め、我に帰る真希乃。
「僕は・・いったい、何を・・」
呆然ぼうぜんと立ち尽くす真希乃。
そこへ、五人の男がニヤニヤと真希乃に近づいてきた。
「よお、にいちゃんなかなか、いいもの見せてくれるじゃねえか、ええ?」
再び真希乃は、フツフツと血が沸き立つのを感じ始め、視線を移すでもなく。
「うるせえぞ、向こうに行ってろ」
真希乃らしからぬ口調で、男たちに吐き捨てる。
茶化すだけのつもりだった男たちは、カッとなって真希乃を取り囲む。
「今、なんつった」
「よう、これだけの人数、相手にする気か、ああ?」
「餓鬼が舐めてんじゃねえぞ」
中でも、腕に自信のありそう男が真希乃に襲いかかる。
真希乃は、殺気に反応して身をかわす。相手を見ずにである。
大きく空振りをして、男はつんのめり大袈裟に転がってしまった。
男は、立ち上がりながら
「な、何しやがる?」
慌てた口調で、真希乃に向かって叫ぶ。
対して、真希乃は落ち着いている。
が、男を見下すかのように
「あんたが、勝手に転んだんだろ?人のせいにするなよ」
「こ、この野郎。ぶ、ぶっ殺してやる」
仲間の前で、恥をかかされ冷静さを失う男は、ズボンの後ろのポケットに、手をやると二つ折りのナイフを取り出し開いて手に握った。
男も、ナイフを脅しにしか使ったことがないのであろう。
大振りで、やたらに振り回してくる。
これを避けるのは、今の真希乃には、容易かった。
ほとんど、大きな動きもせずに、ナイフの軌道を読み、避けている。
この時、真希乃の目には、スローモーションのように、ゆっくりな動きで見えていたから尚更だ。
「きゃあ、離してよ」
真希乃の耳に、彩花の声が届く。
一人の男が彩花の腕を掴み、ヘラヘラと抱きしめようといていた。
彩花も黙っている訳ではない。我慢も限界に来ていた。
この様子を見た真希乃は、カッとなり我を忘れた。
一瞬の出来事で何が起きたのか、彩花も男たちもわからなかった。
彩花を掴んでいた男のあごを真希乃の膝が捉えていた。
下から蹴り上げられた膝をあごに受け、男は宙に浮いていた。男のあごが変な形に曲がっている。
地に落ちた男は、白目を剥き、脳震盪を起こし口から泡を吹いている。
真希乃が別の男に視線を送る。
ひっと、腰が抜ける男。
真希乃が睨み、ふっと消えた。

バシッ 

大きな手が拳をとらえる。
真希乃の熱く熱せられた拳から、湯気が沸き立っている。
「真希乃。ここまでじゃ」
底知れぬ波動を感じ、真希乃が怯んだ。
真希乃に喝を入れたのは、伝助であった。
気に押され、我に帰る真希乃。
男と真希乃の間に伝助が入り込み、真希乃の拳を受け止めていた。
「先生・・・?」
伝助は、男たちに視線を送る。
「怪我人を連れて、早く医者へ」
「あ、はい」
男たちは、倒れた男を抱えて走り去っていく。
真希乃は、精魂使い果たしたように、その場に崩れた。
それを支える伝助。
「真希乃よ、何があったんじゃ」
いつもの顔に戻り、眠ってしまった真希乃。
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