蜃気楼の向こう側

貴林

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4 恐頭山

蛇の毒

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南雲家、母屋

ソファに、横たわる真希乃。
真希乃の火照った体を冷やそうと、額に冷タオルを置く彩花。
氷嚢ひょうのうに氷を入れる潮香。
真希乃と彩花を見守るように伝助がソファの向かいに腰掛けている。
潮香が口を開く。
「お父様、何があったんですか?」
目を閉じ、先程のことを思い返す伝助。
「うむ、わしにも、よくわからんのだ」
視線を彩花に送る伝助。
気の抜けた真顔の彩花は、黙々と氷嚢を真希乃の頭の下に差し入れている。
伝助が続ける。
「真希乃の先程の動きは尋常ではなかったのぉ。彩花、何か心当たりはないかね?」
ううんと、首を振る彩花。
「ただ・・・」
伝助が彩花を見る。
「ただ、なんじゃね」
彩花が、無表情で話す。
「ただ、最後の仕上げが、どうとか言ってたけど」
「ん?最後の仕上げ?なんのことかね?」
「わからない、でも、さっきの真希乃。人が変わったみたいだった」
言いながら、真希乃の額の熱くなったタオルを別のものに取り替える。
顔にかかった髪をすくい上げ、頬に手を添える彩花。触れた頬が熱い。
真希乃の唇を見つめ、感触を思い出すと自分の唇を指先がなぞっていた。

「まあ、目を覚ませばわかることじゃ」
彩花の肩に手を添える伝助。
「あとは、頼んだぞ、彩花」
「うん」
伝助と潮香が、リビングから出て行くと、彩花と真希乃は二人きりになった。
(さっきのって、空間移動よね。あんなに速く動けるなんて・・・)
彩花は大志が連れて行かれた時を思い出していた。
(ローブの男)

ピンポーン
玄関のチャイムが鳴る。
彩花は立ち上がり、インターホンのモニターを見る。
そこには、麗美と見知らぬ男が映っていた。
ボタンを押し
「今行きます」
玄関に向かう彩花。
麗美が手を振る。
「元気?真希乃くん戻ってる?」
横の男が声をかける。
「久しぶりだね、彩花ちゃん。イヒヒ」
その声に聞き覚えがあった。
フードの男。
「あ、あなたは!」
身構える彩花。
それを手で静止する京介。
「ちょちょ、まずは話を聞いてくれる?」
視線を麗美に向ける彩花。
「説明するわ。上がっていい?」
手を下ろす彩花。
「ど、どうぞ」
スリッパを二足並べると真希乃のところに案内する彩花。
彩花が真希乃の横に腰を下ろす。
「眠っています」
京介が、向かいのソファに腰を下ろす。
「美蝶華様に、追い出されたかな?」
麗美が首を振る。
「まさか、あり得ないわ。あの方に限って」
彩花が、麗美を見る。
「説明してもらえますか?」
麗美が京介に手を差し伸べる。
「会ったことはあるわよね。こちら、若狭京介わかさきょうすけくん、結晶石を持つ者よ」
麗美を見上げた彩花の目に生気が戻る。

麗美は、彩花に成り行きを話して聞かせた。
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