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4 恐頭山
毒と生き血
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彩花は、納得したようだ。
「そうだったんですね、どうりで速いはずです。それにしても、並の動きじゃなかったです」
京介は、腕を組んだまま。
「たった一日で、そんなに変われるものかな」
「桃だよ」
真希乃が、いつのまにか目を覚ましていた。
「なんだ、起きてたのかよ」
「うん」
京介は、あごをつまみながら考えた。
「桃?あの桃か?あれを食べたのか?俺でさえ、一年かけてやっと毛大様から許しが出たのに、お前は初日から?」
上体を起こし、座り直す真希乃。
「あ、うん、二つはダメだって言われただけだよ」
「それにしても、よくあそこまでたどり着けてな」
カチャと双刃の剣が、床に落ちる。
京介が、目を疑った。
「真希乃、ちょっとそれ見せてくれ」
「ん?ああ、いいよ」
剣を京介に渡す真希乃。
「やっぱりそうだ」
麗美が、京介を見る。
「何がそうなの?」
「この剣なんだけど、美蝶華様の一番弟子のものです」
驚く真希乃。
「一番弟子?これが」
「武芸にすぐれ、誰よりも上達が早かったそうです。でも・・・」
真希乃が
「内功が、弱かった」
コクリとうなずく京介。
「内功が弱いことに悩んでいたそうです。持久力が弱く、呼吸法すら身につけられず長年座禅を組んでいたと聞きます」
剣を真希乃に返す京介。
「座禅を組む前から、桃を食べることを許されるなんて」
麗美が呆れ顔で笑みを浮かべる。
「相当、見込まれたものね」
真希乃は、間抜けた顔で
「そうなんですか?よくわかりませんが」
彩花は、真希乃が戻ってきた。と安堵した。
京介が驚いた素振りで
「やり方が違うのかな。毛大様についた俺は、一か月の座禅から始めたけどね」
麗美は、あごをつまむと
「一つ間違えば、真希乃くんの命に関わることなのに、見込んで力量を測ったのか」
真希乃の基本の飲み込みの早さと、応用の効く機転の良さは、これまでの真希乃を見てきた三人には納得のいくところであった。
麗美が腑に落ちない。
「桃だけで、そんなになるかしら?」
彩花が、尋ねる。
「桃の効果って、どんなものですか?」
「効果といっても、即効性はないのよ。その後の鍛錬で何かしらの開花を遂げて行くものなの」
真希乃を見る麗美。
「他に思い当たることはない?」
頭をかきながら真希乃。
「他にって、大蛇を倒したことくらいかな」
京介が立ち上がり、真希乃を見据える。
「だだだ、大蛇?それって白いやつか?」
「ん?ああ、そうだけど」
「白神蛇だ・・・」
麗美が思い出しながら
「確か、内功修練に訪れた武芸者を何百人も喰らってきたと言われてる、白神蛇のこと?」
真希乃が驚く。
「え?そんなにすごい蛇だったの?」
麗美が、またも呆れ返って笑みを浮かべる。
「まったく、あなたって子は、計り知れないわね」
立ち尽くす京介。
「老いていたとはいえ、それをしかも初日で倒すなんて・・・まったく恐れ入ったよ」
バタリとソファに座り込む京介。
「相手のことなんかわからないよ。こっちも死ぬかと思うと、必死だったんだから」
真希乃は、眉間を持ち上げ顔をへの字にした。
彩花は、いつもと変わらない真希乃を見て安堵した。
麗美が、真希乃を見てあることに気がついた。
「真希乃くん、その目どうしたの?真っ赤よ」
「ああ、これっすか。蛇倒した時返り血浴びちゃって」
ええ!と、二人が立ち上がる。
何事かと、彩花と真希乃は、二人を見上げる。
麗美が動揺を隠せないでいる。
「真希乃くん?これがどういう意味かわかるわよね?」
「え?どういうって、言われても・・・」
真希乃の側に腰を下ろす麗美。
「説明してくれる?その時の状態を。血をどこに浴びたの?」
麗美が近すぎて動揺する真希乃。
「か、顔ですけど、目に入って痛いわ。口に入って痺れるし。耳まで塞がって最悪でしたよ」
あごが外れんばかりに二人は真希乃を見る。
「マジか・・・」
「そ、それが何か?」
麗美が、気を取り直して説明を始める。
「いい?真希乃くん。気を確かにこれから話すことをしっかり聞いてね」
真希乃は、麗美の言葉を一句一句噛み締めるように、理解した。
「白神蛇の生き血はね。妙薬であり劇薬なの。何百年も生きながら、何百人という武芸者の血肉を飲み込んで来てるのよ。ここまでは、わかるわよね?」
上目使いに、うなずく真希乃。
「ああ、はい」
「それに、あの場に立てる武芸者は、並外れた達人ばかりよ」
「まあ、そうですね」
「外功はもちろん内功も鍛え抜かれた者の血肉を食らってきてるってこと」
他人事のように聞き入る真希乃。
「おお、なんだかそれって、すごいっすね」
彩花は、いち早くその言葉の意味を理解して口を手で覆った。
「その白神蛇の生き血を、あなたは浴びたの」
理解に苦しむ真希乃は、はたと気づいた。
「ばば、び、ぶ、べえ、えええ?」
麗美は、肩を落とし息を吐き出す。
「ようやく事態を飲み込めたようね」
麗美は真顔で真希乃を見る。
「今の真希乃くんにとっては、単なる劇薬に過ぎないかもしれないけど、これから、どうなるかは誰も検討すら付かない未知数よ。蛇の毒素も含んでいるから、下手をすれば死に至るわ」
彩花の表情が暗く沈み込む。
(真希乃が死ぬ・・・)
「一刻を争うわ。すぐに蝶華様のところへ行きましょう」
立ち上がる麗美。
「そうだったんですね、どうりで速いはずです。それにしても、並の動きじゃなかったです」
京介は、腕を組んだまま。
「たった一日で、そんなに変われるものかな」
「桃だよ」
真希乃が、いつのまにか目を覚ましていた。
「なんだ、起きてたのかよ」
「うん」
京介は、あごをつまみながら考えた。
「桃?あの桃か?あれを食べたのか?俺でさえ、一年かけてやっと毛大様から許しが出たのに、お前は初日から?」
上体を起こし、座り直す真希乃。
「あ、うん、二つはダメだって言われただけだよ」
「それにしても、よくあそこまでたどり着けてな」
カチャと双刃の剣が、床に落ちる。
京介が、目を疑った。
「真希乃、ちょっとそれ見せてくれ」
「ん?ああ、いいよ」
剣を京介に渡す真希乃。
「やっぱりそうだ」
麗美が、京介を見る。
「何がそうなの?」
「この剣なんだけど、美蝶華様の一番弟子のものです」
驚く真希乃。
「一番弟子?これが」
「武芸にすぐれ、誰よりも上達が早かったそうです。でも・・・」
真希乃が
「内功が、弱かった」
コクリとうなずく京介。
「内功が弱いことに悩んでいたそうです。持久力が弱く、呼吸法すら身につけられず長年座禅を組んでいたと聞きます」
剣を真希乃に返す京介。
「座禅を組む前から、桃を食べることを許されるなんて」
麗美が呆れ顔で笑みを浮かべる。
「相当、見込まれたものね」
真希乃は、間抜けた顔で
「そうなんですか?よくわかりませんが」
彩花は、真希乃が戻ってきた。と安堵した。
京介が驚いた素振りで
「やり方が違うのかな。毛大様についた俺は、一か月の座禅から始めたけどね」
麗美は、あごをつまむと
「一つ間違えば、真希乃くんの命に関わることなのに、見込んで力量を測ったのか」
真希乃の基本の飲み込みの早さと、応用の効く機転の良さは、これまでの真希乃を見てきた三人には納得のいくところであった。
麗美が腑に落ちない。
「桃だけで、そんなになるかしら?」
彩花が、尋ねる。
「桃の効果って、どんなものですか?」
「効果といっても、即効性はないのよ。その後の鍛錬で何かしらの開花を遂げて行くものなの」
真希乃を見る麗美。
「他に思い当たることはない?」
頭をかきながら真希乃。
「他にって、大蛇を倒したことくらいかな」
京介が立ち上がり、真希乃を見据える。
「だだだ、大蛇?それって白いやつか?」
「ん?ああ、そうだけど」
「白神蛇だ・・・」
麗美が思い出しながら
「確か、内功修練に訪れた武芸者を何百人も喰らってきたと言われてる、白神蛇のこと?」
真希乃が驚く。
「え?そんなにすごい蛇だったの?」
麗美が、またも呆れ返って笑みを浮かべる。
「まったく、あなたって子は、計り知れないわね」
立ち尽くす京介。
「老いていたとはいえ、それをしかも初日で倒すなんて・・・まったく恐れ入ったよ」
バタリとソファに座り込む京介。
「相手のことなんかわからないよ。こっちも死ぬかと思うと、必死だったんだから」
真希乃は、眉間を持ち上げ顔をへの字にした。
彩花は、いつもと変わらない真希乃を見て安堵した。
麗美が、真希乃を見てあることに気がついた。
「真希乃くん、その目どうしたの?真っ赤よ」
「ああ、これっすか。蛇倒した時返り血浴びちゃって」
ええ!と、二人が立ち上がる。
何事かと、彩花と真希乃は、二人を見上げる。
麗美が動揺を隠せないでいる。
「真希乃くん?これがどういう意味かわかるわよね?」
「え?どういうって、言われても・・・」
真希乃の側に腰を下ろす麗美。
「説明してくれる?その時の状態を。血をどこに浴びたの?」
麗美が近すぎて動揺する真希乃。
「か、顔ですけど、目に入って痛いわ。口に入って痺れるし。耳まで塞がって最悪でしたよ」
あごが外れんばかりに二人は真希乃を見る。
「マジか・・・」
「そ、それが何か?」
麗美が、気を取り直して説明を始める。
「いい?真希乃くん。気を確かにこれから話すことをしっかり聞いてね」
真希乃は、麗美の言葉を一句一句噛み締めるように、理解した。
「白神蛇の生き血はね。妙薬であり劇薬なの。何百年も生きながら、何百人という武芸者の血肉を飲み込んで来てるのよ。ここまでは、わかるわよね?」
上目使いに、うなずく真希乃。
「ああ、はい」
「それに、あの場に立てる武芸者は、並外れた達人ばかりよ」
「まあ、そうですね」
「外功はもちろん内功も鍛え抜かれた者の血肉を食らってきてるってこと」
他人事のように聞き入る真希乃。
「おお、なんだかそれって、すごいっすね」
彩花は、いち早くその言葉の意味を理解して口を手で覆った。
「その白神蛇の生き血を、あなたは浴びたの」
理解に苦しむ真希乃は、はたと気づいた。
「ばば、び、ぶ、べえ、えええ?」
麗美は、肩を落とし息を吐き出す。
「ようやく事態を飲み込めたようね」
麗美は真顔で真希乃を見る。
「今の真希乃くんにとっては、単なる劇薬に過ぎないかもしれないけど、これから、どうなるかは誰も検討すら付かない未知数よ。蛇の毒素も含んでいるから、下手をすれば死に至るわ」
彩花の表情が暗く沈み込む。
(真希乃が死ぬ・・・)
「一刻を争うわ。すぐに蝶華様のところへ行きましょう」
立ち上がる麗美。
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