蜃気楼の向こう側

貴林

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1 新たな出会い

フードの男と大志

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パチパチパチパチ どこからか、拍手の音が響いてきた。音の方を振り返る四人。

「なかなか、いいもの見せてもらったよ」
フードを被った男が近づいてくる。
「代わりに今度は、マキノと俺の、なんてどう思う?イヒ」
「なぜ、君と?」
フードの男は、ふんぞり変える。
「怖いのかい?」
「望むなら、相手になる」
真希乃は、正直怖かった。
人差し指を口元でチクタクと揺らすフードの男。
「ちっちっちっ、やめた方がいいよ。今の君じゃあ、僕にはどう足掻あがいても敵わないから」
真希乃の足が震えていた。異様なフードの男の威圧感に押されていた。
「どうしてもって言うなら、せめて今のシライレンマに勝てたら、相手してやる」
白井錬磨シライレンマだと?

「それに、今日は都合が悪くてね。別件で来たから、遊んでる時間がないんだ」
「別件?」
フードの男は、爪の垢が気になるのか、爪をいじり始めた。
ハッと我に帰ると顔を上げ、ニヤリとした。
「ごめん、ほんとに遊んでられないんだよ」
両手をダラリとするフードの男
「別件を、片付けなくちゃね」
真希乃に向かって、踏み込むフードの男。

速い!見失った。
フードの男は、いつのまにか、真希乃の後ろにいた。まるで、見えなかった。
左手を水平にすると、手刀を真希乃の後頭部首の付け根に、トンと浴びせた。
全身の力が抜ける。その場に崩れる真希乃。
「邪魔はさせないよ」
地に伏している真希乃を見下ろしていたが、視線を大志に向ける。
ジワジワと大志に近づいていく。大志は、恐怖で動けないでいる。
大志を羽交い締めにする。
「いろいろと、詮索しすぎるんだよ。タイシくんは。イヒ」
「詮索ってなんだよ。大志をどうする気だ」

彩花が、ジリジリと動く。
フードの男は、空いた片方の手の人差し指を彩花にかざした。
「アヤカちゃん、動かないでね。大志くんが、傷つくことになるからさ。そうだね、君とも、いつか、ゆっくり遊んであげるよ」
彩花が踏み出そうとするのを、蓮華が腕を掴み、行っちゃだめっと押さえ込んでいる。
「そうそう、レンゲちゃん、しっかり押さえておいてね。イヒ」

真希乃は、焦った。下手をしたら、大志が と最悪を考えた。
「考えすぎだよ。マキノくん」
えっと、フードの男を見る真希乃。
「大丈夫、傷つけたりしないよ。でも、邪魔されたら困るからね。ちょっと、借りてくよ」
「借りるって、なんだよ」

錯覚か大志の周囲が蜃気楼のように、空間が歪んだ。トンと、その歪みに大志を突き出した。
「真希乃・・・」
大志の姿が、ぐにゃりと歪んだと思うと、溶けるように消えてしまった。
 
「大志?」
信じられなかった。きっとこれは夢だ。
フードの男は、真希乃を指差し、言った。
「君にも、警告するよ。深入りするな。邪魔するなら、また来るよ。今度は、ゆっくり遊ぼうね。それじゃ、いずれまた。イヒ」
フードの男もぐにゃりとしたかと思うと溶けて消えてしまった。
二人がいたそこには、何もなかった。
真希乃は、彩花と蓮華を見た。驚きで、言葉を失っている。夢であって欲しかったが、二人の表情を見て、夢でないと認識した。


「うああああああ」
伏したまま真希乃は、叫んでいた。〈真希乃〉 と、呟き消えた大志が、目の奥に焼き付いていた。真希乃は、さらに大きな声で叫んでいた。

親友の名を
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