蜃気楼の向こう側

貴林

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2 裏世界

それぞれの術

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鍛冶場にいるナミリアに近づく麗美。
「ナミリア」
ナミリアは、弓張りをしているところだ。
「少し、待っとくれ」
「はいはーい」
麗美は、作業台に寄りかかると空を仰いだ。
ドラゴンが、気持ちよさそうに風に乗り、ウィンドホバリングをしている。
汗を拭いながら、完成した弓を高く掲げるナミリア。
「いい出来だ」
「へえ、木工も、やるのね。ナミリアは」
「頼まれた仕事は断れないからね、おかげで仕事の幅が広がるってもんで」
弓のつるを引き絞るナミリアを見る麗美。
和弓わきゅう?珍しいわね」
「お、わかるかい?」
顎を摘む麗美。
「この辺りじゃ、洋弓ようきゅうが多いのに、そんなもの誰が使うの?」
手袋のまま、鼻の下を擦るナミリア。すすの髭を作る。
「へへ、スグルだよ」
俊が弓術をやってることを、知らずにいた麗美。
「俊ちゃんが弓?」
「あれ?知らなかったのかい?」
「何を?」
ふふんと、自慢げになるナミリア。
「スグルは、表じゃ、弓の使い手らしいぞ」
「え?初耳よ!」

ジャリっと、地をこする音がして振り返ると、淡いピンクの上衣に袴に足袋たび雪駄せったを履いた俊が立っていた。
あまりの凛々しさに、ナミリアも驚いた。
「おお、スグル。よく似合ってるな」
「ありがとう」
「へ?」
ナミリアは、背筋を伸ばし、しとやかなスグルを見て、変貌振りに驚いている。
弓を持つ俊。

(麗美。表の人間てのは、こうも変わるもんなのか?)
(いやいや)
手を振る麗美。

気を取り直してナミリア。
「スグル。あそこの鳥を射れるかい?」
大きな岩の上に、一羽の鳥が毛繕いをしている。
「矢を二本下さい」
「はいよ」
狙うべき鳥とは、まったく違う方向を向く俊は、一本の木を狙う。
足踏みで、姿勢を正す。胴造りで鼻先に視線を向け呼吸を整える。弓構えで右手を弦にかけ的である鳥を見る。打越しゆっくりと両手を揃えたまま持ち上げ。左右均等に引き分けていく。かいの状態になりタイミングが熟すのを待つ俊。
俊のそんな優美な姿に、見惚れる二人。
離れ。スコン!木に命中する。矢が離れたままと体勢を維持し残心を保つ俊。射法八節である。
今度は、狙うべき鳥を見る。
先程と同じ動作で、会の状態に。この時一瞬、視線が動いた。
そして、射。
矢は惜しくも、鳥とは、少しズレた草むらの中に突き刺さった。
「あー、おしいなぁ」
ナミリアは、悔しそうに指を鳴らす。
「いやいや、なかなかどうして」
感心する麗美。

矢を拾いに草むらに入った麗美は、気づいた。
「ナミリア」
「ん?」
「俊ちゃん、わざと外したんだ」
「え?」
ナミリアも、矢に近づく。
これよと、矢をナミリアに差し出す。
ナミリアも、驚いている。
矢の先に、蛇が射抜かれていたのだ。
鳥を射ずに、鳥を狙っていた蛇を射ったのだ。

目を見開き、二人揃って、俊を見る。
へへっと、舌をペロリと出す俊。

一本目の射で弓の癖と矢道を読み、二本目で確実に仕留めていた。

また一つ、意外な一面を俊に見た二人だった。

ふと、見ると、彩花と真希乃が形
をしている。
ナミリアが身を乗り出す。
「あれが、カラテ?」
「そそ」

攻撃と防御を巧みに、繰り出す二人の演舞は、見事にシンクロしていた。
えーい!突き、上段受け、後ろをクルリと向いて、下段受け、突き、蹴り、矢継ぎ早に繰り出される一糸乱れぬ動きに、ナミリアと麗美は見惚れている。
はーい!の掛け声で、二人同時にクルリと体を捻り宙に舞う、ピタリと着地。
「おおおー」
思わず、声に出す二人。
「ダンスを、見るようだ」
「うん、それに気迫も加わって、なんだか圧倒されるわね」
「表の日本てところは、なんとも末恐ろしいところだなぁ」
ナミリアが、ボソリと言う。
たまらず、麗美が吹き出した。
「あははは、ナミリア。末恐ろしいって・・」
「何も、おかしくなんかないぞ」
ナミリアは、二人に近づいていく。
「あれ?ナミリア?」

「マキノ!」
真希乃に近づくナミリア。
「あ、ナミリ・・」
眼前に、ナミリアの拳が近づく。
上段受けで、受け止める真希乃。
重い!弾け飛ばされそうになる真希乃。
その反動を生かして、体を捻ると、飛び回し蹴りで応戦した。
素早い動きに、動転するナミリア。なんとか、腕でガードをする。ズシリと重い踵蹴りだった。
ズルッと、ナミリアの体が地を滑る。
「くっ・・」
真希乃を見るナミリア。真希乃に代わり彩花が懐に飛び込んできていた。
あ!気づいた時には、ナミリアは足払いを受け宙を舞う。
ドシン!背中から落ちるナミリア。
突然の出来事に、真希乃と彩花は、慌てている。
「ナミリア!」
腰に手を当て、立ち上がるナミリア。
「あててて・・」
「あ、つい、ごめん、ナミリア」
「ガハハハ、悪いのは、こっちさ。悪かったね」
ナミリアを支える真希乃。
「いやいや、マキノ。あんたもなかなか、やるじゃないか」
「ええ?」
「いやな、ただのダンスか、確かめたくなってな」
「ダ、ダンス?」
首を傾げる真希乃と彩花。
そこに、麗美がやってきて
「説明するわ、二人の演舞がダンスに思えたのね。ナミリア、実戦的にどうか確かめたかったのよ」

ああ。と、納得する二人。

ゴキゴキっと、腰を鳴らすナミリア。
「て、ことは、レンゲもすごいの。持ってるんだろね?」
「え」
「ちと、行ってくるわ」
ナミリアは、舌なめずりをすると
スタスタと、蓮華のいる家に向かっていった。
あああ、と、皆が引き止めるのも間に合わず。屋内へ

ドタガシャーン!

遅かった。

バタバタバタと、蓮華に駆け寄る四人。
両手で、口元を覆う蓮華。
の足元で、腰に手を当て、立ち上がれずにいるナミリア。
「あは・・いて!あはは・・こいつは、すごいや」
蓮華に支えられて、なんとか立ち上がるナミリア。
「どうしましょう。平気ですか?ナミリアさん」
「ああ、だ、大丈夫」
クスリと、笑って麗美が言う。
「流石のナミリアでも、この四人には肩無しだね」
「いやはや、まいったね、まったく。揃いも揃って、皆すげえもん持ってんなあ」
ガハハハの、ナミリアの笑いに、皆も笑い出す。
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