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3 帰郷 旅立ちの前に
意外な人物との再会
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表と違う世界、裏にやってきた二人。
人気のない古寺があった。草が伸び放題になっている。
寺の正面入り口の階段に腰掛けている男性がいる。
麗美が声を掛ける。
「待たせたわね」
男は、立ち上がると
「仕事ですから、構いませんよ」
真希乃は、この男に見覚えがあった。
「しばらくだね。真希乃くん。イヒヒ」
「え?」
「わからないかな」
男は、首の後ろに手を回すと、フードをかぶってみせた。
真希乃は、思い出した。大志を連れて行った奴だ。
「き?貴様!」
飛びかかろうとする真希乃を、男は、両手で遮る。
「おいおい、慌てるなって」
麗美が、真希乃の肩に手を乗せる。
「落ち着きなさい。これから、説明するから」
「あ、はい」
階段に、並んで腰掛ける。
麗美が、真ん中に座り話し始める。
「紹介するわね。若狭京介くん、真希乃くんと、同じ十七歳」
「京介です。よろしく、イヒヒ」
ニタリとする京介。
「京介さん」
「京介でいいよ。真希乃」
真顔の京介。
「あ、うん、京介。大志は、どこにいる?」
「ごめん、知らないんだ」
「知らないわけないだろ」
京介に飛びかかろうとする真希乃。
それを、麗美が抑える。
「真希乃くん。まずは、話を聞いてもらえる?」
「わかりました」
腰を下ろす真希乃。
「京介くんは、フリーの請負人なの」
「え?」
「金で雇われてるってことだよ。イヒヒ」
「それって、どういう?」
京介が言う。
「大志くんを、連れてくるのが、仕事だったんだよ」
麗美が、継ぎ足す。
「だから、依頼主に引き渡したら、終わりなのよ」
「その依頼主というのは?」
無駄なことだと、わかっていながら、聞くだけ聞いてみた。
「それは、教えられないんだな」
「だろうと思ったよ」
真希乃は、前を見たまま、物思いにふける。
「悪いね、答えにならなくて」
「いや、いいよ」
京介は、視線を麗美に移す。
「で?どうします?」
麗美が、その問いに答える。
「依頼通りに、お願い」
「了解。引き受けましょう」
真希乃が、麗美を見る。
「空間移動の訓練ですよね?」
「そうよ、やる事は、簡単。京介くんを、捕まえて」
「捕まえる?」
「うん、京介くんの速さは、真希乃くんも知ってるはずよね?」
大志が連れ去られる時、当身を喰らわせた京介の速さを思い出していた。
「ああ、あれって空間移動なんだ」
「そそ、でなきゃあんなに速くは動けないさ」
「なるほど、それならいけるかも」
真希乃は、立ち上がると、京介の前に立つ。
「いつ、始めます?」
京介は、後ろ手に、真希乃を見る。
「いつでも、いいよ。捕まえられるならね」
不意に真希乃が、京介に手を伸ばす。
グニャリと、消える。
手が空を切る。
「遅い遅い」
真希乃後方の木の上。五メートルは、あろう木の枝に腰掛ける京介。
「簡単じゃないか」
唇を舐める真希乃。
グニャリ、真希乃も消える。
京介が、消えて、代わりに真希乃が木の枝に腰掛ける。
古寺の屋根の上に京介。それを、追う真希乃。麗美の横に立つ京介。さらにそれを追う真希乃。もうそこに、京介はいない。真希乃の肩を、トントンと指が叩く。
後ろにいるはずの、京介に向かい、手を振りかざす。が、空を切る。麗美の肩に、腕を回した形で、京介があくびをする。
はあはあと、肩で息をする真希乃。
「あれ?もう疲れたのかい?」
こんなに早く、息切れするなんて。と、真希乃は、額の汗を手の甲で拭う。
京介が、余裕の顔で言う。
「もしかして、知らないの?真希乃」
えっと、京介を見る真希乃。
「空間移動は、結構、体力を消耗するんだよね。かなりの集中力も必要だしね」
「そ、そうなんだ・・」
「それにね、ミラージュゲートを抜ける瞬間、靄の中を通るのは知ってるよね?」
「ああ」
「あそこって、空気が薄いんだよね」
両膝を抱え、やっと立っている真希乃。
「・・なるほど・・」
「どうする?真希乃。少し休むかい?」
「いや」
真希乃は、グニャリと消える。
京介に向かって、手を振りかざす。
空を切る。すぐ隣で、京介が感心する。
「へえ、案外タフなんだ。じゃあ、こんなのは、どう?」
京介が、消えると、真希乃の反対側に現れ、足払いをする。フラフラの真希乃は、諸にこれを受けて、背中から、地面に倒れ込む。
肺を圧迫したため、咳き込む真希乃。さらに呼吸が荒くなる。
「隙があったら、また仕掛けるからね。捕まえるまで、止まらないよ。イヒヒ」
京介は、楽しくなると、変な声で笑う癖があるようだ。
京介が、消えた。真希乃は、転がる、が避けたつもりが、京介に読まれていた。思い切り、背中を踏み落とされる真希乃。
「あぐぅ・・!」
「横になってる時間なんてないよ。真希乃」
京介が、言うとまた消えた。
真希乃は、立ち上がると身構える。
まだ、咳き込んでいる。
古寺の階段に腰掛ける京介。
人差し指を立て、クイクイと真希乃を誘う。真希乃は、自らを奮い立たせるように消える。
よし、捕まえた。真希乃は、思った。
またもや、手は空を切る。
「惜しかったね。少し、待ってやったのにね。エヘヘ」
屋根の上の京介を真希乃が追う。
木の枝の上に、地面に、階段に、屋根に、木の枝の上に、地面に、決まった順に、京介は動いている。それでも、真希乃は京介を捕まえられずにいる。
麗美が、ふっと笑う。
「京介くん、後は頼むわね」
屋根の上で、京介が手を振る。
「はいはーい。飯、待ってまーす」
「わかったわ。しっかりね、真希乃くん」
屋根の上で、足を滑らせる真希乃。
疲労困憊で、返事が出来ない真希乃。だが、真希乃は諦めていなかった。
ふふっと、笑う麗美、空間を歪めて消えて行った。
デヘヘヘヘ!楽しむ京介の笑い声が響く古寺。
人気のない古寺があった。草が伸び放題になっている。
寺の正面入り口の階段に腰掛けている男性がいる。
麗美が声を掛ける。
「待たせたわね」
男は、立ち上がると
「仕事ですから、構いませんよ」
真希乃は、この男に見覚えがあった。
「しばらくだね。真希乃くん。イヒヒ」
「え?」
「わからないかな」
男は、首の後ろに手を回すと、フードをかぶってみせた。
真希乃は、思い出した。大志を連れて行った奴だ。
「き?貴様!」
飛びかかろうとする真希乃を、男は、両手で遮る。
「おいおい、慌てるなって」
麗美が、真希乃の肩に手を乗せる。
「落ち着きなさい。これから、説明するから」
「あ、はい」
階段に、並んで腰掛ける。
麗美が、真ん中に座り話し始める。
「紹介するわね。若狭京介くん、真希乃くんと、同じ十七歳」
「京介です。よろしく、イヒヒ」
ニタリとする京介。
「京介さん」
「京介でいいよ。真希乃」
真顔の京介。
「あ、うん、京介。大志は、どこにいる?」
「ごめん、知らないんだ」
「知らないわけないだろ」
京介に飛びかかろうとする真希乃。
それを、麗美が抑える。
「真希乃くん。まずは、話を聞いてもらえる?」
「わかりました」
腰を下ろす真希乃。
「京介くんは、フリーの請負人なの」
「え?」
「金で雇われてるってことだよ。イヒヒ」
「それって、どういう?」
京介が言う。
「大志くんを、連れてくるのが、仕事だったんだよ」
麗美が、継ぎ足す。
「だから、依頼主に引き渡したら、終わりなのよ」
「その依頼主というのは?」
無駄なことだと、わかっていながら、聞くだけ聞いてみた。
「それは、教えられないんだな」
「だろうと思ったよ」
真希乃は、前を見たまま、物思いにふける。
「悪いね、答えにならなくて」
「いや、いいよ」
京介は、視線を麗美に移す。
「で?どうします?」
麗美が、その問いに答える。
「依頼通りに、お願い」
「了解。引き受けましょう」
真希乃が、麗美を見る。
「空間移動の訓練ですよね?」
「そうよ、やる事は、簡単。京介くんを、捕まえて」
「捕まえる?」
「うん、京介くんの速さは、真希乃くんも知ってるはずよね?」
大志が連れ去られる時、当身を喰らわせた京介の速さを思い出していた。
「ああ、あれって空間移動なんだ」
「そそ、でなきゃあんなに速くは動けないさ」
「なるほど、それならいけるかも」
真希乃は、立ち上がると、京介の前に立つ。
「いつ、始めます?」
京介は、後ろ手に、真希乃を見る。
「いつでも、いいよ。捕まえられるならね」
不意に真希乃が、京介に手を伸ばす。
グニャリと、消える。
手が空を切る。
「遅い遅い」
真希乃後方の木の上。五メートルは、あろう木の枝に腰掛ける京介。
「簡単じゃないか」
唇を舐める真希乃。
グニャリ、真希乃も消える。
京介が、消えて、代わりに真希乃が木の枝に腰掛ける。
古寺の屋根の上に京介。それを、追う真希乃。麗美の横に立つ京介。さらにそれを追う真希乃。もうそこに、京介はいない。真希乃の肩を、トントンと指が叩く。
後ろにいるはずの、京介に向かい、手を振りかざす。が、空を切る。麗美の肩に、腕を回した形で、京介があくびをする。
はあはあと、肩で息をする真希乃。
「あれ?もう疲れたのかい?」
こんなに早く、息切れするなんて。と、真希乃は、額の汗を手の甲で拭う。
京介が、余裕の顔で言う。
「もしかして、知らないの?真希乃」
えっと、京介を見る真希乃。
「空間移動は、結構、体力を消耗するんだよね。かなりの集中力も必要だしね」
「そ、そうなんだ・・」
「それにね、ミラージュゲートを抜ける瞬間、靄の中を通るのは知ってるよね?」
「ああ」
「あそこって、空気が薄いんだよね」
両膝を抱え、やっと立っている真希乃。
「・・なるほど・・」
「どうする?真希乃。少し休むかい?」
「いや」
真希乃は、グニャリと消える。
京介に向かって、手を振りかざす。
空を切る。すぐ隣で、京介が感心する。
「へえ、案外タフなんだ。じゃあ、こんなのは、どう?」
京介が、消えると、真希乃の反対側に現れ、足払いをする。フラフラの真希乃は、諸にこれを受けて、背中から、地面に倒れ込む。
肺を圧迫したため、咳き込む真希乃。さらに呼吸が荒くなる。
「隙があったら、また仕掛けるからね。捕まえるまで、止まらないよ。イヒヒ」
京介は、楽しくなると、変な声で笑う癖があるようだ。
京介が、消えた。真希乃は、転がる、が避けたつもりが、京介に読まれていた。思い切り、背中を踏み落とされる真希乃。
「あぐぅ・・!」
「横になってる時間なんてないよ。真希乃」
京介が、言うとまた消えた。
真希乃は、立ち上がると身構える。
まだ、咳き込んでいる。
古寺の階段に腰掛ける京介。
人差し指を立て、クイクイと真希乃を誘う。真希乃は、自らを奮い立たせるように消える。
よし、捕まえた。真希乃は、思った。
またもや、手は空を切る。
「惜しかったね。少し、待ってやったのにね。エヘヘ」
屋根の上の京介を真希乃が追う。
木の枝の上に、地面に、階段に、屋根に、木の枝の上に、地面に、決まった順に、京介は動いている。それでも、真希乃は京介を捕まえられずにいる。
麗美が、ふっと笑う。
「京介くん、後は頼むわね」
屋根の上で、京介が手を振る。
「はいはーい。飯、待ってまーす」
「わかったわ。しっかりね、真希乃くん」
屋根の上で、足を滑らせる真希乃。
疲労困憊で、返事が出来ない真希乃。だが、真希乃は諦めていなかった。
ふふっと、笑う麗美、空間を歪めて消えて行った。
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