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10 自由のために
蓮華の失われた過去 その三
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蓮華は、気がつくと小部屋のベッドの上だった。
「・・・私」
「あ、気が付いた?」
洗面器でタオルを絞る俊とその横にナミリアが立っていた。
「おい、大丈夫かよ」
ナミリアも安堵の笑みを浮かべている。
「ナミリア、麗美さんに知らせてきて」
「あいよ」
俊が言うと、ナミリアは急ぐように部屋を出て行った。
「心配しましたよ、蓮華お姉ちゃん」
「俊ちゃん、私・・・」
「今はゆっくり休んでね」
「あ、うん、ありがとう」
蓮華の額に濡れたタオルを置く俊。
ひんやりとして気持ちが良かったのか、目を閉じて深く息を吐く蓮華。
麗美が部屋に入ってきた時には、蓮華はまた寝息を立てている。
「今は、そっとしておきましょう」
ナミリアと俊の肩を叩くと作戦室に戻って行く麗美。
「じゃあね、お姉ちゃん」
俊も立ち上がると麗美の後に続いた。
ガラスの瓶が置かれた作戦室のテーブルに手をついている麗美。
ナミリア、俊、弥之助が席に着く。
「おい、京介はどうしたんだい?」
ナミリアの言葉に皆が周囲を見回すと京介の姿がなかった。
「あれ、そういえば、見てないね」
「京介くんなら、今表世界に行ってもらっているわ」
麗美がその事に答えると、ガラスの瓶を見つめている。
「そうなのか、ところでなんだよ、それ?」
ナミリアが瓶の中を覗き込む。
細長く少し太めの髪の毛のようだ。
「馬の毛か?それにしては太いか」
「寄生虫よ」
それを聞いたナミリアが大きく仰け反る。
「なに?あたいは、足のない虫がだだだ大嫌いなんだよ」
後退りするナミリアを見た俊がクスクスと笑っている。
「表世界で言う、ハリガネムシと同種のものよ」
「ハリガネムシ?」
ナミリアが首を傾げている横で俊が咳払いをする。
「ハリガネムシとは、カマキリなどに寄生して繁殖をする生き物だね」
「なんだそれ?」
「もともとハリガネムシは、水中に生きる虫なの。だから、繁殖には水中に入らなくちゃならないの」
「で?」
「水中で孵化したハリガネムシを水生昆虫が取り込むとそれをカマキリなどが捕食するのね」
「それから?」
「水生昆虫を食べたカマキリにハリガネムシが寄生すると、やがて成長して宿主であるカマキリの脳を操り、水の中に飛び込ませるの」
「え?脳を操るのか?」
「そう、で水中に入ると宿主から離れて交尾を行う。そうやって繁殖を繰り返すのよ」
「おいおい、そのためだけに宿主に寄生して、水に飛び込ませるのか?」
「そうみたいだね」
「ハリガネムシも怖いけど、淡々と説明出来ちまう俊も、おっかねえな」
「仕方ないでしょ、事実なんだから」
俊は、ケロッとした顔の少女そのままだった。
「それはそうだけどよ」
ナミリアが、怪訝そうな顔をしているのに対して、弥之助は感心している。
「さすが、我が主人ですな。博識がおありだ」
「で?このハリガネムシがどうしたって言うんだよ」
ナミリアが麗美の深刻そうな顔を覗き込む。
「これは、先程の戦さ場から京介くんが見つけてきたものなの」
「はっ?それって、どう言う事だよ。たかが虫だろ?何をそんなに深刻そうにしてるんだ?」
「今、その事も踏まえて京介くんが調査に行っているわ」
「さっぱりわからんな」
「よく考えてみて?」
「何を?」
「精鋭の暗殺部隊シノビが、支部一つを、わざわざ攻めに来るかしら」
「暇なんじゃねえの?」
ナミリアの腹に肘鉄を入れる俊。
「そのハリガネムシと、関係があるってことですか?麗美さん」
「京介くんが、戻って来ればわかることよ。恐らく、蓮華さんのこともね」
「蓮華お姉ちゃん?」
「うん」
「・・・私」
「あ、気が付いた?」
洗面器でタオルを絞る俊とその横にナミリアが立っていた。
「おい、大丈夫かよ」
ナミリアも安堵の笑みを浮かべている。
「ナミリア、麗美さんに知らせてきて」
「あいよ」
俊が言うと、ナミリアは急ぐように部屋を出て行った。
「心配しましたよ、蓮華お姉ちゃん」
「俊ちゃん、私・・・」
「今はゆっくり休んでね」
「あ、うん、ありがとう」
蓮華の額に濡れたタオルを置く俊。
ひんやりとして気持ちが良かったのか、目を閉じて深く息を吐く蓮華。
麗美が部屋に入ってきた時には、蓮華はまた寝息を立てている。
「今は、そっとしておきましょう」
ナミリアと俊の肩を叩くと作戦室に戻って行く麗美。
「じゃあね、お姉ちゃん」
俊も立ち上がると麗美の後に続いた。
ガラスの瓶が置かれた作戦室のテーブルに手をついている麗美。
ナミリア、俊、弥之助が席に着く。
「おい、京介はどうしたんだい?」
ナミリアの言葉に皆が周囲を見回すと京介の姿がなかった。
「あれ、そういえば、見てないね」
「京介くんなら、今表世界に行ってもらっているわ」
麗美がその事に答えると、ガラスの瓶を見つめている。
「そうなのか、ところでなんだよ、それ?」
ナミリアが瓶の中を覗き込む。
細長く少し太めの髪の毛のようだ。
「馬の毛か?それにしては太いか」
「寄生虫よ」
それを聞いたナミリアが大きく仰け反る。
「なに?あたいは、足のない虫がだだだ大嫌いなんだよ」
後退りするナミリアを見た俊がクスクスと笑っている。
「表世界で言う、ハリガネムシと同種のものよ」
「ハリガネムシ?」
ナミリアが首を傾げている横で俊が咳払いをする。
「ハリガネムシとは、カマキリなどに寄生して繁殖をする生き物だね」
「なんだそれ?」
「もともとハリガネムシは、水中に生きる虫なの。だから、繁殖には水中に入らなくちゃならないの」
「で?」
「水中で孵化したハリガネムシを水生昆虫が取り込むとそれをカマキリなどが捕食するのね」
「それから?」
「水生昆虫を食べたカマキリにハリガネムシが寄生すると、やがて成長して宿主であるカマキリの脳を操り、水の中に飛び込ませるの」
「え?脳を操るのか?」
「そう、で水中に入ると宿主から離れて交尾を行う。そうやって繁殖を繰り返すのよ」
「おいおい、そのためだけに宿主に寄生して、水に飛び込ませるのか?」
「そうみたいだね」
「ハリガネムシも怖いけど、淡々と説明出来ちまう俊も、おっかねえな」
「仕方ないでしょ、事実なんだから」
俊は、ケロッとした顔の少女そのままだった。
「それはそうだけどよ」
ナミリアが、怪訝そうな顔をしているのに対して、弥之助は感心している。
「さすが、我が主人ですな。博識がおありだ」
「で?このハリガネムシがどうしたって言うんだよ」
ナミリアが麗美の深刻そうな顔を覗き込む。
「これは、先程の戦さ場から京介くんが見つけてきたものなの」
「はっ?それって、どう言う事だよ。たかが虫だろ?何をそんなに深刻そうにしてるんだ?」
「今、その事も踏まえて京介くんが調査に行っているわ」
「さっぱりわからんな」
「よく考えてみて?」
「何を?」
「精鋭の暗殺部隊シノビが、支部一つを、わざわざ攻めに来るかしら」
「暇なんじゃねえの?」
ナミリアの腹に肘鉄を入れる俊。
「そのハリガネムシと、関係があるってことですか?麗美さん」
「京介くんが、戻って来ればわかることよ。恐らく、蓮華さんのこともね」
「蓮華お姉ちゃん?」
「うん」
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