蜃気楼の向こう側

貴林

文字の大きさ
92 / 96
10 自由のために

蓮華の決意

しおりを挟む
自由の旗 支部 作戦室

京介からの報告を聞き終え、皆が意見や考えを話し合った。
行き着くところは、サトルに会う事。
会って知っている事全てを語ってもらう事以外、この件の解決策は、見つからなかった。
「私、行きます」
蓮華が立ち上がるのを見た麗美が、蓮華の肩を掴む。
「行くって、いったいどこに行くって言うの?」
「わかりません、ただ、わかっていることが、あるとすれば」
「あるとすれば?」
「異生物の現れるところに、サトルさんが来るという事です」
「かもしれないけど、いったいどこに行こうって言うの?」
「わかりません」
「だったら・・・」
「いいえ、もう私、決めたんです」
「だから、何を?」
「私も異世界からやってくる異生物を退治します」
「退治って言うけど、どうやってその異生物を見つけると言うの?」
蓮華は、いつのまにか、サトルから譲り受けた武具を装着していた。
「麗美さん、これを見てください」
手甲をはめた腕を持ち上げて見せる蓮華。
「手甲が、どうかしたの?」
「気が付きませんか?」
「何を?」
「この手甲には、結晶が練り込まれています」
「だから?」
「よく見てください」
麗美は言われるまま、手甲を見つめる。
小さな粒となって練り込まれている結晶がうっすらと輝いていた。
「光ってる?だとしても、これがどうだと言うの?」
「先程の争いのことです。ダムドさんは、私に似た女を見たと言っていました」
「それが、どうだと言いたいの?」
「おかしくないですか?皆が戦っているのに、刀を打っているなんて」
「ええ、だって、ダムドは鍛治師よ。刀を打つのは当たり前のこと」
「でも、一度は戦さ場に出向いているんですよね?私に似た女を見たと言うくらいですから」
「何が言いたいの?蓮華さん」
「皆が戦っている。しかも、一度は戦さ場に出向いている。なのに鍛冶場で刀を打っている。私なら武器を持って加勢に行きますけど」
「そうかもしれないけど、ダムドは鍛治師よ」
「今、それを確かめたいと思います」
蓮華は、鍛冶場の方に手甲を向けると結晶の輝きが増している。
「もし、この輝きが異生物に反応するとしたら」
「え?まさか、蓮華さん」
鍛冶場へと歩を進める蓮華は、刀を打っているダムドの前で立ち止まる。
手甲の輝きが、辺りを照らし出すほどだった。
「ダムドさん、ごめんなさいね」
蓮華は言うと、手甲に仕込まれた針を一本引き抜くとダムドの腕に突き立てた。
「うがあああ、なな何をするのです」
蓮華は、突き刺した針を引き抜いた。
一瞬、血が飛び散ったが、止めどなく溢れ出る血が、次第に収まったばかりか、傷口が塞がって元の皮膚の状態に戻っていった。
「ダムド?おまえ」
麗美が只事ではないのを理解した。
ダムドは、身体を大きく震わせ始める。
足が靴を破り大きく迫り出してくる。
ダムドの顔も口が獣のように前に伸びてくる。
それを見た皆が身構える。
相手の出方を見ようとしている瞬間。驚くべきことが起きた。
蓮華が何の迷うこともなく、拳でダムドの顔面を力の限り叩きのめしていた。
顔面に沈み込む拳、血飛沫が飛び散る。
蓮華は、ダムドの顔面に沈み込んだ拳で何かを掴もうとまさぐり始める。
手応えがあって、手を引き抜く蓮華。
それと同時に、獣と化したダムドは、絶命した。
蓮華の拳の中で、クネクネとのたうち回るもの。
麗美が、それを見て思い当たるものがあった。
「寄生虫?」
やがて蓮華の手の中で、宿主を失って乾燥し、硬くなる寄生虫。
蓮華が、その拳を皆に見えるように振り返る。
「これで、ハッキリしました。異生物は結晶に反応します」
蓮華は、握った拳に更に力を加える。
バキッ音を立てて、寄生虫が二つに折れて、手から地に落ちた。
それを足で踏みにじる蓮華。
怒りの態度を露わにする蓮華だったが、その頬を涙が流れ落ちている。
十五の時の、忌まわしい記憶が今の蓮華に、そうさせているのかもしれない。
皆が、こんな蓮華を見たことがなかった。それだけに、皆が言葉を失っていた。
蓮華は、静かに、そして深くお辞儀をした。
それから、地上を見上げるように天井を仰いだ。
麗美が蓮華に駆け寄る。
「待って、蓮華さん」
蓮華を捕まえようと伸ばした腕は空を切る。
もうそこには、蓮華の姿はなかった。
誰もが、この時の蓮華に圧倒され、動けずにいた。
京介も、すぐさま我に帰り、後を追ったが、蓮華を見つけることは出来なかった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...