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第二夜 出先で

昼食時間

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昼になったので、いつものように社員食堂に向かう駿太。
いつもと変わらず、四人掛けのテーブルに一人座り、手頃なラーメンを啜っている。
そこへ弁当を持って、真希がやってきた。
「ここ、座っていい?」
「モグモグ、どうぞ」
箸を持つ手で、手のひらを返す駿太。
そそくさと、弁当の風呂敷を解いて、蓋を開ける真希。
「え?真希さんの手作り?」
「え、あ、うん、まあね」
母親に作ってもらってるとは、言えなかった。
誤魔化すように、卵焼きを箸で刺すと駿太に近づける。
「よかったら、食べてみる?」
「え?いいの?」
「いいよ。あーんして」
言われるまま、あーんと口を開ける駿太。
[シュンタ、他の女の子にデレデレしたら、ダメだからね]
[おお、いいとも、他の子とデレデレしません]
思い出して、口を閉じる駿太。
「ん?どうしたの?」
「あ、ごめんね。ここに置いといてくれる?あとで、もらうよ」
小皿を差し出す駿太。
「うん、わかった」
真希は、小皿に卵焼きを置いた。
(ダメだな、俺は)
〈私、見てるからね〉
ミサオの言葉が気になった。
周りを見渡す駿太は、街頭の大型モニターに目が止まる。ミサオの映画の宣伝が流れていて、画面の中のミサオがこちらを見ている。
あるものは、ノートパソコンでミサオの動画を見る者がいた。そこでも、ミサオがこちらを見ていた。
不意にミサオの声が耳に入った。
振り向くとスマホで動画を見ている人がいた。例の映画だった。
[さあ、私の手を掴んで、そして離さないで。ダニエル。あなた無しじゃダメなの。さあ、早く]
(確か、この後、ミサオは画面を抜け出して)
駿太は、何を思ったのか動画を見る他の部署の男性に歩み寄った。
「ちょっと、それ見せて」
「これ、最高だよね。いいよ、一緒にどうぞ」
[ミサオ、お前がいてくれたら怖いもの無しだ]
手を取り合うダニエルとミサオ。
(えっ、ミサオがいる。確かここからいなかったよな)
[私もだよ。一緒なら死んでもいい]
[どこまでも、一緒だ。ミサオ、決着を付けるぞ]
以前観た映画そのままだった。
じゃあ、俺の部屋にいるミサオは?
スマホを取り出すと画面をタップした。
耳に当てる駿太。
「いるなら、出てくれ」
自分の部屋の電話を呼び出している。
「出ないか」
慌てる駿太。だが、このまま帰ったのでは会社をクビになる。
深呼吸をする駿太。
(落ち着け。ミサオに限ってそんなことあるはずない)
信じたかった。
ハッと、駿太は、あることを思いついた。
(帰りにミサオが似合いそうな服を買って帰ろう)
なんとか、落ち着かせて午後の仕事に戻った。
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